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聖女は世界を救わない  作者: 大木戸 いずみ


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 オースティンの重い口ぶりに私は「そうだったの」と短く相槌を打つことしかできなかった。オースティンは話を続ける。

 

「働けるにもかかわらず工場へ出ない者が現れ、その負担は真面目に働く者たちへ押しつけられた。弱い者から食料や配給品を奪う盗難が増え、裏では賭博による争いも生じた。小さな見逃しが、次の違反を生みました……。だから、規律を厳しくするしかなかったのです」

「自由を与えた結果、善良な者ほど損したのね」

「そうです。一度厳しくなったルールというのは緩まることはないので……」


 彼らはあくまでも難民。秩序が崩れるのであれば、強い統制を与えるべき、か。

 悪貨は良貨を駆逐するとはよく言ったものだわ。真面目で優しいエワットにとっては、最も望ましくない展開だったでしょうね。

 

 それから暫くの間、私は二階からエワットのことを観察していた。

 やはり、身長は高い。それに赤毛が比較的に多い気がした。女性は大体カーリーヘアだ。

 本当に全く違う国の人だ、と思わせられる。

 

「彼らにとっては、国に戻るよりも、この生活の方が良いんだよね」

 

 私は二階の柵に手をかけながら、独り言を呟く。


「……ここなら安全な生活は保障されているからね」

  

 ジェフリーが私の言葉に反応する。私は黙々と働くエワットを眺めながら会話を続けた。


「生きているって実感はなさそうだけど」

「やりがいはあるんじゃない? この工場から生み出される布は素晴らしい出来だよ。鮮やかな色彩と繊細な意匠に満ちていて、貴族からも評判がいいんだ」

「なんでエワット特別自治区についてそんなに詳しいの?」


 私はジェフリーの方を訝し気に見る。


「これでも、僕は第一騎士団の副団長だ。姉さんの耳には決して届かない超機密事項とかも扱っているよ」

「私だって聖女だもん~」


 私は口を尖らせて、ジェフリーから視線を逸らす。

 優秀な弟と不出来な私とでは扱いが違うみたい。……まぁ、当たり前か!

  

 ――ゴォォォン、ゴォォォン。


 突然、重厚な鐘の音がこの区域全体に響く。地面が微かに揺れるほどの大きな音だった。

 そう言えば、この工場の手前に立派な鐘が吊るされた教会があったような…………。

 にしても、相当うるさい。全力で鳴らしすぎじゃない? 


「昼飯の時間だ」

 

 オースティンがそう言ったのと同時に、一階で作業していた者たちがぞろぞろと工場を出る。


「今から彼らは食堂に向かいます」


 オースティンは丁寧にそう教えてくれた。

 ……ちゃんと衣食住は保障されているんだ。それなら、ここでの生活も意外と悪くないのかもしれない。

 私はそんなことを考えながら、今度は食堂の方へと向かった。

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