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辺りを見渡すが、人がいない。ただ殺風景な景色が広がっていた。
魔族が出現したわけじゃないんだよね……?
「人はいないの?」
「今は工場で働いている時間ですね。……エワットは決められた規律に従って必要最低限の生活を静かに送っています」
「工場では何をしているの?」
私は次々とオースティンに質問する。オースティンは嫌な顔一つせずに答えてくれる。
「高級織物を作っています。……見に行きますか?」
私は「もちろん」と即答した。
十分ほど歩いた先に、巨大な織物工場が存在した。
オースティン曰く、この工場がエワット特別自治区の中心部だそう。
課業時間になると、全てのエワットがこの工場に集まり、老人や子どもは家で過ごす。ほとんどのエワットがこの工場に集中するためか、工場の前には二人の監査員が立っていた。
監査員二人は「お疲れ様です」とオースティンに洗練された所作で敬礼をする。オースティンは「ご苦労」と軽く頭を下げて、私たちを工場の中へと案内する。
広大な工場内には作業ごとに区画が分けられていた。
蚕糸や綿糸を紡ぐ製糸部門、糸を布へと織り上げる機織り部門、織り上がった生地に色を染み込ませる染色部門、そして仕上げに精緻な模様を縫い込む刺繍部門が設けられている。
そして、工場の二階部分には、作業場をぐるりと囲むように細長い回廊が設けられていた。
二階にはそれぞれの部門に二人ずつ監査員が立っていた。どうやら担当している区画を見渡すことができるように配置されているようだ。
エワットの誰かが見上げれば、必ず誰かと目が合う。
……完璧に組織化された工場だこと。
この形態を素晴らしいと思うか、鬼畜だと思うか……。
私たちの存在に気付き、ちらちらと私たちを見る者たちはいたが、誰も何も言わない。私語厳禁なのだろう。
この空気感で私たちも何一つ声を発せられることなく、オースティンに連れられ、エワットが立ち入り禁止である二階へと上がった。
…………確かに、上から見れば誰が何をしているのかすぐに分かる。
嫌だなぁ、ここで働くの。私だったら脱走していると思うもん。
私は視線を落として、エワットたちの働きぶりを見る。皆、真面目で、誰一人としてさぼっている者はいない。
「少し厳しすぎない?」
工場の音でかき消されるぐらいの声で私はオースティンにそう聞いた。
「最初から厳しかったわけではないのです。当初、エワットには相応の自由が認められていた。老人たちは好きな時間に外を歩き、子どもたちは広場で日が暮れるまで遊ぶことができた。仕事への参加も本人の意思に任され、門限や外出に関する規則も、今ほど厳しくはなかった。だが、自由は次第に規律の緩みへと変わりました」




