119
安全なこの国でエワットが好き勝手出来るようになれば、一気に治安が悪化する。困窮した難民が増えれば、盗みや争いもまた増えてしまう。
それを防ぐために、特別区域を急遽作ったのだろう。善意だけで治安を守れるほど、国の統治は甘くない。
「そうだ。もちろん、我が国の恩恵に感謝している者もいるが、助けられている側なのに、文句を言う者もいる」
「文句があるなら自国に帰ればいいのに……」
私は王子の言葉に対して、本音を吐露する。
「というか、エワットの方々はこの国に貢献しているんですか?」
そうでなければ、ただのお荷物になるという意味を込めて、私はそう質問した。
国同士の助け合いは必要なのはちゃんと理解している。けれど、魔族の侵攻によりどの国も余裕がない。自国の民を守るので精一杯。
その中で、更に難民を受け入れ、手厚く歓迎するのはかなり厳しい。
「それを今から自分の目で確かめればいい」
「分かりました」
一般人が決して入れることのない特別自治区……。一体どんなものなのだろう。
エワット特別自治区に着くのが待ち遠しいし、好奇心をくすぐられるけれど、油断しちゃダメだね……。
気を引き締めておかないと!
♢
わ~~~~~お!!!
私はエワット特別自治区の巨大な門の前に立つなり、大きく口を開けて感動する。
装飾一つない灰色の高壁はまるで別世界に来たような気持にさせる。分厚い門の前に数名の衛兵が警備していた。中の様子は一切分からない。
「殿下、本日護衛させていただくリンディ・コジットです」
短髪の女性がこちらへと近づいてきて、その場に跪いた。
……あ、この子、ポジー村で一緒になった騎士だ。
王子の言っていた護衛ってこの子のことだったんだ。
リンディ・コジット……、今初めて名前を知った。彼女の曰く、私とはポジー村よりも前にどこかの戦場で会っているらしい。
戦場での記憶ってほとんど魔族か魔物と戦った記憶しかない。共に戦った騎士のことなんてほとんど覚えていない。
よっっっぽど役に立たなかった騎士は記憶に残っていたりするけどね。
「よろしく頼む」
「はい」
リンディはゆっくりと頭を上げて、ミミの方へと視線を向けた。今日の任務の情報に彼女のことはなかったのだろう。
王子は「彼女も今回同行することになった」とリンディが質問する前にミミの紹介をした。ミミは頭を軽く下げる。それにつられて、リンディも頭を下げた。
名も名乗らず、マントで顔も見えないミミに対してリンディは何も質問してこなかった。
「では、メンバーもそろったことだし、行こうか」
王子のその言葉で、ミミはさっと立ち上がり、衛兵たちに門を開けるように指示する。




