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エワット特別自治区に訪れる日がやってきた。
私は心を躍らせながら、食卓へとつく。
朝は得意な方じゃないけれど、今日は日が昇る前から目が冴えていた。
ミミとクリフがいない食卓は随分と静かだ。ジェフリーと朝の挨拶を交わして、私はエワット特別自治区のことを考えていた。ワクワクが止まらない。
ジェフリーが用意してくれたサンドイッチを頬張りながら、私は口を開く。
「じゅぇふぇりー」
「口の中を空っぽにしてから喋って」
私の言葉にジェフリーは冷たく返す。
エプロンをしたままの彼はキッチンの方でオニオンスープを作っていた。
ジェフリー曰く、昨日モッカト食堂に立ち寄った際に、ブレナンさんから玉ねぎをもらったらしい。何かとブレナンさんにはずっとお世話になっている。
私はサンドイッチを飲み込み、口を開いた。
「ジェフリーの今日の予定は?」
「……エワット特別自治区に同行するよ」
「え、なんで?」
まさかジェフリーが一緒に行くことになっているとは知らず、目を見開いてジェフリーを見つめた。そんな私にジェフリーは短く「王家からの命令」とだけ答える。
そう言ったのと同時に、コンコンっと扉を強くノックする音が部屋に響く。次の瞬間、ミミの声が聞こえた。
「ケイト様! 馬車がやって来ます!」
ええぇぇ、早くない!?
私は慌てて、サンドイッチを片手に家の外へと飛び出した。
視界にはミミの戸惑った顔と、まだ眠っているクリフ、そして豪華な馬車が入ってきた。
本当に馬車だ。多分、王子だよね?
ジェフリーもエプロンを脱ぎ、急いで私の隣へとやって来る。
「派手な登場だね……」
私はサンドイッチを食べながら、そう呟き、こっちへと向かってくる馬車を眺めていた。
「これでもだいぶ地味な方だろう」
「え、どこが?」
眉をひそめる私にジェフリーは簡潔に説明してくれる。
「護衛もつけていないし、あれは下級貴族が乗るランクの馬車だ。王家の紋章も入っていない」
それでも、あれは地味じゃなくない?
馬車のランクなんてさっぱり分からない私には、全然お忍びじゃないじゃん、という感想しか出てこない。
どうしよう、これで本当に王子じゃなかったら……。巨漢の大富豪の可能性もまだあるもんね……。
馬車の音にクリフがゆっくりと目を覚ました。
「ワンワンワン(王族の匂いがする)」
良かったぁ、王族なのは確約さえたぁ……。
私はホッと胸を撫でおろす。
というか、クリフ、もう本当に犬みたいじゃん。段々、魔族要素薄れていってない?
私がクリフに心の中でつっこんでいると、馬車は私たちの目の前に止まり、扉が開く。
――王子だ。
逆に王子しかいない。レイかセスかどっちかいるのかなって思っていたけれど、どっちもいない。
優雅に眩しく麗しいイケメン王子様が馬車から降りてくる。
……いつ見ても王子はキラキラしている。あのキラキラは王族の教育課程で身に付くものなのかな。
「本日もお美しいですね、殿下」
ジェフリーがすぐさま頭を下げている隣で、私は呑気にそんなことを言っていた。ジェフリーは「姉さん」と小声で私を叱責する。
私は少し遅れて軽く頭を下げる。
「頭を上げて、楽にしてくれ」
王子の澄んだ声が耳に響く。私たちは彼の言葉に従い、頭を上げた。




