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メグナドル国に来たエワットについてだけど、彼らは疫病に感染していなかった。
というより、この疫病はルメア国の外に広がることはなかった。これに関しては、不幸中の幸いともいえる。
病の原因は、争いによって酷く腐敗した花から立ち上る毒気だった。
扱いに気を付けなければならないと言われているルメア国特有の大きな赤い花――ルノドゥというものだった。
毒々しい見た目が特徴的で、今もまだルメアには咲いているらしい。
ルノドゥについて、私が読んだ本では軽くしか触れられていなかった。また今度、花図鑑で詳しく見てみることにする。
とにかく、この疫病は人から人へ感染するものではなかったから、メグナドル国は彼らを受け入れたんだと思う。
そして、ようやくエワット特別自治区の内側について……!!
エワットはメグナドル国内に設けらえた特別な区域の中で必要最低限の生活が与えられている。
その区域は高い壁で完全に囲まれた、内部の様子がまったく見えない閉鎖区域。
エワットはこの国の民との交わりは禁止されており、贅沢は決して許されない場所。
……………………現時点で私が脳内にインプットした情報はここまで。
ルメア国の言語も少しは覚えておこうと、ルメア語の本に手を出しちゃったせいで時間が意外と足りなくなっちゃったんだよね。完全に自業自得なんだけど。
まぁ、別に内側について詳しく知らなくたって大丈夫!
街並みや人々の様子については、明日実際にこの目で確認したらいいもんね。
「ふぁ~~~」
私は大きなあくびをしながら、手に持っていたエワット特別自治区関連の本を元あった場所へと戻す。
王家秘蔵書庫の広大な天窓から月が見え始めていた。もうすぐ完全に夜になる。薄暗くなりつつある空を眺めながら私は今日の夕飯について考えていた。
ジェフリー、今晩は何を作ってくれているんだろな~~。楽しみだな~~
私は鼻歌を口ずさみながら、「モリスさん、さようなら~~」とスキップで王家秘蔵書庫を出た。
♢
あ、レイだ。
クリフの元へ向かっている途中、王宮の廊下でレイが対面から歩いてきた。
ここ約一週間で初めて知り合いに出会った。王宮に毎日来ていたけれど、王子は相当忙しいのか一度も見かけなかった。
「やっほ~~」
私はレイに向かって手を振った。
レイとは別に仲良くはないけれど、声ぐらいはかける仲…………だと私は勝手に思っている。レイは私に気付いたが、挨拶はない。
なにこいつぅ、と思ったけど、レイがこちらへ近づいてきて初めて、挨拶を交わす気力さえ残っていないことが分かった。
レイの周りだけ陰鬱なオーラがある。なんか空気重いし……。
彼の表情には、寝不足と疲労が滲み出ていた。激務に追われ、すっかりやつれた顔だ。
「え、大丈夫?」
「大丈夫とは程遠い」
彼は私の前で足を止めて、私を睨むようにして目を合わす。
その視線に込められていたのは私に対しての嫌悪ではなく、疲労の末に剝き出しになった苛立ちだった。
…………私と一緒にいた数週間よりもストレス溜まってない?
嫌いな奴と二人っきりで遠征よりも疲労困憊するってどんな仕事?
なんて声を掛けていいのか分からないし、沈黙も気まずく、私は「あ~~」となんの意味もない言葉を適当に発してしまった。
ああ、もう最悪だ。終わった。
なんの話題に振ろうか全く考えてなかったよ。
大変そうだね、とか、お疲れ様、とか言ったら殺されそうな雰囲気だもん。




