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聖女は世界を救わない  作者: 大木戸 いずみ


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 老人はどこか楽しそうに口元を歪めた。

 

「あの……貴方は?」

「わし? わしの名はモリス・ジャファー。……この書庫の番人だ」


 老人ははっきりとした口調で答えてくれた。彼は続けて「お主は何者なんじゃ?」と私に聞いた。

 ああ、やっぱり自己紹介した方がいいよね……。相手に聞いておいて、自分が名乗らないのは失礼だもんね。


「ケイト・シルヴィ……、聖女です」


 私は気乗りしないまま名乗った。

 すると、モリスは「聖女」と少し目を見開いた。この次に来る表情は大体予想できる。

 嫌悪を露わにして、顔を顰められる。これが聖女に対しての通常の反応。


「神もずいぶんと酷なことをなさる」


 ……え?

 私はモリスの口から出た言葉に思わず固まってしまう。モリスは私を興味深そうに見る。

 王宮にいる皆は聖女に対して寛容じゃない? 

 民衆は目を吊り上げ、容赦なく怒声を浴びせてくるのに……。


「あの、私が世間でなんと呼ばれているか知っていますか?」

「わしが知らないと思うか?」


 私の質問に質問で返された。

 そうですよね~~。書庫の番人が聖女の呼び名を知らないわけないよね。

 想像していた反応とあまりにも違うかったから、つい聞いてしまった。


「まぁ、外見までは知らなかったが……」

「こんな少女にって?」

「少女? 聖女は二十二歳ではなかったか?」


 さらっと私の実年齢を言われて、私は言葉を失ってしまう。

 私の年齢を知ってるの!? 

 さっきの「神もずいぶんと酷なことをなさる」ってセリフ、こんな少女に聖女という運命を背負わせるなんて、って意味じゃなかったの?

 驚いている私にモリスは話を続ける。


「ガディウスの戦いからもう十二年が経っている」


 開いた口が塞がらなかった。

 ガディウスの戦いは私の初陣。この戦いが原因で聖女――私は民衆の怒りを買い、大バッシングを受けることになる。ガディウスという名の丘の近くでの戦いだったから、そう呼ばれている。 


「若々しいという言葉で片づけられないほど、お主は若い(・・)。二十二歳には到底見えない。……きっと、聖女である代償として、老いを奪ったのじゃろう」


 なんという名推理。私を一目見て、そこまで考えるなんて流石書庫の番人……。

 書物だけでなく、人間を読み解くことにも長けているみたい。


「ほとんど正解です。ですが、どうして代償だと思ったのですか? どちらかと言うと、不老は『神からの恵み』と捉える人の方が大半だと思いますが…」


 モリスはこの王家秘蔵書庫の先輩にあたる方だから、一応敬語で話す。

 騎士団と同じで、王家秘蔵書庫もきっと上下関係には厳しそうだし……。

 悲しきかな、“聖女”って役職名みたいなもので、特別待遇は受けれるけど、偉くもなんともないんだよね。ぐすん。

 もっと最初の印象が良かったら、立場も変わってたのかもしれない。……まぁ、変えられない過去に憂いたってしょうがない!

 一呼吸置いて、モリスは「ほっほっ」と独特な笑い声を出した。

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