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私はただの『旅人』です。  作者: アジフライ
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第四十八話

前回、 ヴェイテルタ国内へ入ったエイン達一行。

これから待ち受ける未知に心が躍ると共に、 先に進む毎に『救済の灯』の黒い影が濃くなっていくように感じられた。

ヴェイテルタ東部地域、 街道沿いの村にて……

エイン率いる一同は依頼で魔物を討伐していた。

その魔物は最近遭遇したロヌシュに似た魔物と同じく、 全く見たことが無い魔物だった。

討伐を終えたエインは倒した魔物の死骸を調べる。

……この歯の形……吸血鬼みたいだけど……翼と足の形は鳥さんみたいだし……羽の模様と形からしてウレーシュと同じ……


影鳥(ウレーシュ)、 文字通り影のように黒い翼が特徴の鳥である。

羽をよく見ると、 薄く白い線のような模様が入っているのが特徴であり、 形も剣のように先が尖っている。

食性は雑食であり、 主に動物の食べ残した木の実などを好んで食べる。

本来の生態であれば動物の血肉に飢えるようなことなど無い大人しい鳥なのだ。


そんなウレーシュの特徴も持った奇妙な吸血鬼型の魔物に、 エインは興味津々だった。

何故そのような魔物がいるのか、 それは全員察しが付いていた。


「首都に近付く毎に魔物も強くなってる気がするな……まるで内側に近付く毎に高くなっていく壁って感じだ……」

「この様子では騎士団でも対処が困難だろう……『救済の灯』は無計画に魔物を放っている訳ではないようだな……」


魔物が戦闘能力の高さに比例するように配置されていると気付いた一同は、 『救済の灯』は外部から来る人間を近付けさせないようにしているのではと考えた。

ただ、 エインが共にいる以上はここから先も問題はないだろうと感じた。

そんな調子で一同は街道の村々を転々としながら魔物の討伐を受けたり、 村人の仕事を手伝ったりと、 エインの気の赴くままに旅をしつつ首都を目指した。


そうして国境を越えてから数週間程経った頃……


「わはぁ~~……! 」

「ここがヴェイテルタの首都、 セフィエンゼか……」


一同はヴェイテルタの首都に到着した。


その名は『セフィエンゼ』、 国が信仰する宗教『ミュルーラ教』発祥の地でもある都市だ。

街の景観としては白や水色を基調としており、 白塗りの壁が日の光を反射してて全体が明るい印象だ。

特に目が行くのは、 街中を流れる水路の多さだ。

セフィエンゼはハフケアヌ山脈の雪解け水が多く流れてくる地形に位置しており、 灌漑技術が他より発達している。

故に、 農作物の生産量は大陸一である。


エインはそんな神秘的な街の景色に目を輝かせる。


「どうする、 早速転移の魔法具があるという大聖堂に向かうか? 」

「それは賛成だな、 『救済の灯』の連中に絡まれでもしたら堪ったモンじゃねぇからなぁ」


街に着くなり、 エイン一行の三人は本来の目的である転移の魔法具の場所へ向かう事にした。

そこで街に詳しいというレイファが、 自ら大聖堂に案内すると名乗り出た。

エイン以外の三人は疑念を抱きつつも、 それで早く大聖堂に行けるならと彼女についていく事にした。

フィルとスペルドは次の旅に備えて買い出しをすると言い、 ここで別れる事となった。

尚、 フィルに関してはエインと別れたくないと言っていたが、 半ばスペルドに引っ張られる形で連れて行かれた。


そして一行はレイファの案内で大聖堂に向かった。

その道中、 エインは街中を探索したいと言って寄り道ばかりしていたが、 さっさと要件を終わらせたかった三人にとっては気が気ではなかった。

その理由は『救済の灯』のせいでもあったが、 それよりも街を歩く人々の雰囲気にあった。

……何というか……静かというか、 張りつめているように感じられる……やはり『救済の灯』の影響か……街は綺麗だが、 所々暴動の跡が見られるな……

内戦が起きるのではという噂はあながち間違いではないのかもしれないと感じたガルン。

そんな事をしつつ、 一行は大聖堂に到着した。


「ここが『ミュルーラ教』の本拠地、 セフィエンゼの王城、 もとい大聖堂です」


『セフィエンゼ大聖堂』、 外観としては街に馴染むような純白の壁をしており、 上部に水の勇者と思われる絵が描かれた大きなステンドグラスがある。

レイファの話によると、 ヴェイテルタでは大聖堂は王城と同じ役割を持っており、 元は王族にしか入る事が許されない場であったそう。

しかし、 近年になってそういった法律が撤廃され、 誰でも入る事ができるようになったという。

これは最近、 ミュルーラ教の最高位聖職者となった王が、 国民も王族も隔たり無く祈りを捧げられる場を作りたいという想いから実現された事なのだそう。

すなわち、 世界で唯一国民の自由入場が許された王城なのである。


そんな立派な聖堂に圧倒されながらも、 一行は早速中に入ろうとする。

すると、 扉が勝手に開き、 大聖堂の中からある人物が出迎えた。


「……お待ちしておりました……旅人 エイン様、 そしてそのご一行様……私はエーフィル・ミュルセイル・ヴェ・イテルタ……この国ヴェイテルタを束ねる王であり、 ミュルーラ教の最高位聖職者でもあります……」


水のように滑らかになびく白い衣装、 澄み切った水のような青い瞳の女性。

エーフィルである。

その隣には、 銀色の髪をした騎士と思しき男が立っていた。


「私はエーフィル様の護衛役を賜っております、 ギルファルド・デューラ・クライウムと申します……」


……ギルファルド……魔物狩りをしていた頃に聞いたことがある……大陸北方の某国を守る騎士団の団長にして、 『水紋級の勇者』の男がいるとか……

彼の事を以前から知っている様子のガルンは、 何故そんな大物が揃ってわざわざ出迎えたのかと疑問を抱く。

すると彼らは、 詳しい事は後に話すと言い、 とりあえず一行を中へ案内する。

…………

大聖堂の中は一面真っ白な壁や柱で造られており、 それらに伝うように天井から水が流され、 他にも水を使った装飾が多く施されている。

空間内で響き渡る穏やかな水の音は、 まるで水中にいるかのような気持ちにさせる。

そんな神秘的な空間を創り出す聖堂内を見た一行は、 思わず目を奪われる。


「……レイファ……ここまでご苦労様でした……あとは私が話をします……」


エーフィルがそう言うと、 レイファは頭を下げ、 その場から立ち去った。

そうしてレイファがいなくなったのを確認すると、 彼女は一行を連れて聖堂の奥へと歩きながら話を始める。


「……皆様がここへ来られたのは転移の魔法具の為だという事は、 既にギルファルドから聞き存じております」

「え、 もしかしてずっと見てたの? 」


実は一行がフィエレンテを出た時から、 ギルファルドがウレ―ラーフを使って監視していたのだ。

……あぁ……だからあの時から変な視線を感じてたんだ……てっきり盗賊かと……

見られている事には何となく勘付いていたエインは、 今までの謎の感覚に納得がいった。

しかし、 何故そんな事を……

理由を聞こうとすると、 巨大な彫像の前に来たエーフィルは一行の方へ振り返る。


「申し訳ありませんが、 ここで詳しくお話する事はできません……ただもし、 私からの依頼を受けて下さるというのなら……その先をお話しします……並びに依頼が終わった暁には、 本来であれば許可を得た教徒にしか使用を許されない転移の魔法具の使用を許可します」


……そう来たか……まぁ、 世界に一つだけの魔法具とあっちゃそんなモンだと思ってたが……内容も分からねぇ依頼なんか本当なら断りてぇ……だがエインに至っちゃそんなん関係無ぇだろうな……

そんなウルの予想通り、 エインは何の躊躇もなく依頼を受けると言ってしまった。

しかし、 エインの自由奔放ぶりは今に始まった事ではなかった三人は、 仕方ないと言いつつ、 大人しく彼女に付いて行く事にした。

そうして、 一行は大聖堂のさらに奥、 王城の応接間へ案内された。

…………

応接間にて……

エーフィルとギルファルドと共に部屋に入る一行。

すると……


「……はぁ~~……やっと落ち着ける……ギル、 アレ持ってきて……」

「はしたないですよ……人前で……」

「大聖堂じゃないんだからいいでしょぉ~……ホラ、 さっさと持ってきて」


ソファーにドカッと座りながら悪態をつくエーフィル。

先程のお淑やかな雰囲気は見る影もなく、 その態度はまるで普段のウルのようだった。

そんな彼女の変貌ぶりに言葉が出ない一行。

すると、 ギルファルドから煙管と思しき道具を受け取ったエーフィルは、 それで何かを吸いながら一行を席に促す。


「……フゥ~……驚かせて済まないね、 これが本当のアタシなんだ……」

「えっと……お姉さん、 それは……?」

「これ? 焚いた薬草の煙を吸うための道具さ……東の大陸から仕入れた物なんだけど、 これがまたいいモンでさぁ……コイツがあれば一日溜まった鬱憤が綺麗サッパリよぉ」


つまり煙草である。

世間では煙草は平民から貴族まで使われている嗜好品である。

だが、 世間では煙草は魔物狩りや盗賊などが吸っているイメージが強い上、 煙の臭いが強く、 吸い込むと呼吸器系に害が及ぶとされている。

故に、 煙草とそれを吸っている者に対する印象はあまり良くない。


そんな聖職者が吸うのなんてもっての外な物を、 エーフィルはさも当たり前のように一行の前で吸っている。

とても最高位聖職者とは思えない姿に呆気に取られている一行に、 ギルファルドは彼女について説明した。


何でも、 エーフィルは幼い頃から何かに束縛されるのを嫌がる性格のようで、 昔から王族間で問題行動が目立っていたという。

その性格は成人するまで治る事は無いまま、 先代の王であった彼女の父が病に伏して亡くなった後、 王族で唯一『始祖の勇者の力』を継承していたエーフィルが王位と最高位聖職者の座を引き継ぐ事になってしまったそう。

しかし、 ただでさえ多忙である王族の仕事に加え、 ミュルーラ教の最高位聖職者という責任重大な役職を並行している。

ただでさえ束縛される事を嫌う彼女は、 そんな休む暇もないような環境にいきなり置かれてストレスが溜まらない訳が無い。

そこに東の大陸からやって来た商人から、 ストレス解消の道具として煙管を受け取ったという。

それからというものの、 彼女は国民の前や大聖堂にいる時以外は煙草を吸うようになったそう。


「でも……まぁ、 仕事は真面目にやっているので……あまり厳しくは言わないようにしてるんです……」


……ヴェイテルタの王は苦労してるんだな……

話を聞いた一行は、 エーフィルがこうなってしまうのも無理もないと、 少し同情した。

そんな話はさて置いてと、 エーフィルは早速依頼について詳細を話し始めた。


まず、 依頼の内容というのは、 『救済の灯』の本拠地に潜入し、 彼らが企んでいる計画の阻止をしてもらいたいというものだ。

そして現在のヴェイテルタ国内の状況は、 『救済の灯』によって国民の不安は最高潮に達しつつある。

国外にまで出回っている噂は全て本当であり、 ヴェイテルタの騎士団が現在も教団の動向を調査中との事。

噂はその過程でどこからか情報が漏れてしまったのが一人歩きし、 少し誇張された形で広まったのではと推測している。

そんな形で調査が進み、 敵の情報もある程度集まった。

しかし、 敵組織の規模は思った以上に肥大化していたようで、 国の騎士団のみで対処ができるかは怪しい状況だという。

その中である時、 リエルデからの貿易商にエインの噂を聞き、 教徒達を各地に送って行方を捜索していたのだそう。


「そんで最近、 丁度フィエレンテから出てくアンタらを『運良く』ギルがたまたま見つけたって訳……」

「む? ……『運良く』とは……一体どういう意味ですか? 」


ガルンの質問にエーフィルはため息交じりに煙を吐き、 答えた。

実は最近の調査で、 『救済の灯』の手がミュルーラ教の内部にまで伸びているというのが判明したそう。

調査を担当する騎士の一人が、 街の人目に付かない場所で『救済の灯』の教団とミュルーラ教の教徒が会話しているところを目撃したというのだ。

そしてその時には既に、 エインの捜索は始まっている段階だったため、 捜索している教徒の中に教団と手を組んでいる者がどれほど紛れ込んでいるかは不明だった。

故に彼女は、 一番信頼できるギルファルドに秘密裏に調査をさせていたという。


「いい? 『運良く』って言ったのはそういうこと……ギルがアンタらを見つけた後すぐにレイファと鉢合わせた時には……正直ヒヤヒヤしたよ」

「もう一つ聞かせてくれ……他国や魔物狩り達には協力を要請できなかったのか……? それこそ、 すぐ隣にあるフィエレンテにでも助けを求めれば……」

「それが出来れば既にやってるさ……ここまで旅をしてきたアンタたちなら分かるでしょう? 」


大陸北側はハフケアヌ山脈によって断絶された陸の孤島。

そこに位置するヴェイテルタは、 他国からの侵略がされにくい分、 逆に救援もしにくい国となっている。

故に、 助けを寄越してくれる事になったとしても、 それが来るのには少なくとも一か月以上は掛かるそう。

また既に、 リエルデには救援要請を送ったそうだが、 救援が来るまでに『救済の灯』が動き始めないとは限らない状況であるため、 油断は許されない。

隣国であるフィエレンテに至っては、 ヴェイテルタに対して魔法技術による援助をする代わりに、 戦争に関する援助や干渉は一切しないという条約を交わしている。

これは距離が近いからこそ、 互いに争い事を避ける為にカルミスとヴェイテルタの王族が昔に決めた事。

魔物狩りに関しては、 彼らは国家間の戦争や政治に関わる依頼は一切受け付けないため、 協力は望めないという。

寧ろ、 狩った魔物を教団に売り渡すなどをして協力している者もいる可能性は捨て切れないため、 信用できるかも怪しい。


一連の話を聞いた一行は考え込む。

……結局こうなるかぁ~……となると協力を得られそうなのは信用できそうな騎士団の連中くらいか……他の教徒はどうか分からねぇが、 あのレイファって女に関しちゃ……教団と手を組んでる可能性は高ぇ……だからあの時警戒して話を聞かれないようにすぐ追い払ったのか……

そう思ったウルはエインの考えを聞こうと様子を伺った。


肝心の彼女は部屋に置いてある本や置物に夢中で話をほぼ聞いていない様子。

これに三人は呆れ顔。

しかし、 エーフィルはそんな彼女を見て笑みを浮かべ、 何か聞いてみたい話が無いかと持ち掛けてきた。

それに対しエインは『ミュルーラ教』の歴史について聞きたいと言う。

その要望にエーフィルは頷き、 ギルファルドに頼んで大聖堂にある『ミュルーラ教』の歴史の全てが記されているという本を持ち出し、 それを元に語り出した。

続く……

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