第四十七話
前回、 ヴェイテルタへ向かおうと旅を続けていた一行は、 その道中でフィルが率いるパーティと出会う。
しかし、 ウルはフィルのパーティメンバーにいたレイファに対し、 警戒の視線を見せる。
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町に来て翌日、 一行は路銀の為に依頼を受け、 魔物討伐に出る事にした。
そこにフィルの率いるパーティも同行した。
スペルド曰く、 どうやら彼はまだ諦めていなかったらしい。
……意外と図太いな、 こいつ……
コテンパンにやられて尚、 平然とエインにアピールをするフィルに三人はそう思った。
そして肝心のアピールは全て受け流されていた。
そんな二人のやり取りを眺めつつ、 一同は依頼で頼まれた現場に到着した。
現場は古びた地下墓地で、 依頼の内容ではそこにいる『ヴァルエーナ』という魔物の討伐である。
動屍とは、 魔力で動く死体の魔物、 俗に言うアンデットの事である。
エインは屍鬼とも呼んでいる。
学術的にまだ未知の部分が多い魔物ではあるが、 現在判明している発生条件としては、 死体が清められる事が無く何日も放置される事で、 体内に留まっている魔力が亡者の魂を呼び寄せ、 その魂が憑依し死体を操る事で生まれるとされている。
また、 例え清められた死体だとしても、 外部から魔力を与える事でも生み出す事が出来る。
実際にそういった術を使う魔物も確認されている。
故にヴァルエーナは魂というより、 数多の思念が集まる事で動いているのではという説も挙がっている。
因みに種類も様々存在しており、 人間以外にも動物や魔物のヴァルエーナもいる。
特に強力なのはドラゴンのヴァルエーナとされている。
「ヴァルエーナねぇ……宗教の国だってのにそんな奴らが湧くとはなぁ……」
「依頼主の話では最近まではそんな事は無かったみたいだがな……」
これも『救済の灯』の仕業なのでは……
エイン一行はそんな考えが頭を過る。
何がともあれ、 受けた依頼を終わらせる為、 一同は地下墓地へと足を踏み込んだ。
…………
地下墓地は薄暗く、 瘴気除けのランタンが青白い光でぼんやりと照らしている。
そんな雰囲気も相まってか、 一同の肌に触れる空気が異様に冷たく感じられた。
死体の他にはネズミや害虫ぐらいしかいないはずの墓地。
しかし、 そこにはそれ以外の気配を確かに感じる。
警戒しつつ一同は奥へ進んでいくと、 最奥の部屋からヴァルエーナのモノと思われる不気味な呻き声が聞こえてくる。
武器を構えながらその部屋を覗いてみると……
……一、 二、 三、 四……全部で十体ってところかなぁ……そして全員武装してると……
普通、 自然発生するヴァルエーナには武具を扱う程の知能は無い。
だが魔法によって生み出された個体は別であり、 術者が指示を出せば武具を装備させて戦わせることが可能である。
すなわち、 目の前のヴァルエーナ達を操っている術者がどこかにいるという事だ。
それを知っていた一同は、 まず誰が先に斬り込むか話し合おうとする。
すると、 いつの間にかその場からエインの姿が消えていた。
何処へ行ったのかと辺りを見渡し、 ヴァルエーナがいる部屋を再び覗いてみると
「あ、 終わったよぉ~、 先行こ♪」
既に部屋に入っていたエインと、 その足元で無惨に斬り刻まれたヴァルエーナがいた。
音も無く一瞬にして十体のヴァルエーナを始末した彼女を見た一同は唖然とする。
ガルンは一体どうやったのか聞くも、 本人はただ適当に近づいて斬っただけだという。
……適当って……師匠、 一体どこまで強くなったんだ……?
エインの脅威的な強さを見て驚愕しつつも、 一同は墓地の更に奥へと向かった。
すると案の定、 ヴァルエーナを操っていると思われる魔物と、 それを守っているヴァルエーナの群れがいた。
エインが言うには、 群れを操っているのは『エラフェンソー』という魔物だそう。
死縛魔、 それは死した者を操る魔物である。
主に強力な魔力を持った人間がヴァルエーナとなり、 長い年月放置される事で生まれる。
ただ、 大体はそうなる前に死体が清められるか、 ヴァルエーナとなった時点で討伐される為、 エラフェンソーとなる個体は殆どいない。
特徴としては、 他のヴァルエーナと違って強力な魔法を使って攻撃をしてくるというところだ。
また、 生者の持つ魔力に飢えており、 それが視界に入り次第喰らおうと攻撃してくるといった高い攻撃性も見られる。
強さとしては魔法を使える魔物狩りを二人、 近接戦闘が得意な者が三、 四人程度の構成の集団で闘えば討伐が可能。
端的に言えば、 エイン抜きだと今のメンバーで勝てるかは怪しい位である。
……エラフェンソーねぇ……懐かしいなぁ、 パパと一緒に何度か倒したっけ……
討伐の経験があったエインは余裕の表情を見せる。
そして、 彼女は自分がエラフェンソーの相手をすると言い、 その周りのヴァルエーナは一同に任せる事にした。
「それじゃ、 行こっか♪ 」
そうして一同は群れの前に立ち、 エラフェンソーの視界に入る。
次の瞬間、 エラフェンソーは凄まじい速さで氷の槍を一同に目掛けて飛ばしてきた。
それをエインは意図も容易く粉々に斬り刻んでしまった。
その速度は相変わらず動きが全く見えない程だ。
状況の理解が追い付かず、 唖然としている一同にエインは 任せた とだけ言ってエラフェンソーの傍まで突っ込んでいった。
残された一同はヴァルエーナの群れの数を減らし、 少しでも彼女が動きやすいように立ち回る。
……あのレイファという女……魔法の強さはウル程ではないと言ったところか……だが、 やはりヴァルエーナのような悪霊系の魔物に対する浄化魔法が凄まじいな……あれも『魔法』なのか……?
ウルと同様、 レイファの行動を気にしていたカミツグは彼女の戦い方を見てその特性に関心を抱く。
聖職者というのは戦闘全般で言えば決して強い訳ではない、 ただ、 悪霊系の魔物に対しては右に出る者はいない。
その理由としては、 その宗教を信仰した際に『特別な術』を授かるからだ。
それは通称、 『祈祷』と呼ばれるモノで、 『術式』を構築して発動する『魔法』とは違い、 こちらは『祈り』と呼ばれる儀式を行う事で発動する術である。
祈祷は、 世界に存在しているあらゆる宗教ごとに特有の術が存在しており、 それを各宗教における最高位聖職者たちが管理し、 代々受け継がれている。
そして、 その宗教を信仰する正式な聖職者となった際、 最高位聖職者がその宗教における祈祷の一部を授けるのだ。
レイファが現在使用しているのは、 『ミュルーラ教』にて継承される祈祷の一つ、 『聖水を生み出す祈祷』である。
そんな珍しい術を使うレイファに気を取られていると……
「……! 」
カミツグのすぐ目の前に氷の槍が飛んでくる。
反応が遅れたカミツグは被弾すると思われた。
しかし、 すぐ傍にいたガルンがそれを素早く大剣で弾いた。
「よそ見をするな、 ただでさえエラフェンソーの間合いに入っているんだ……」
「あぁ、 すまない……」
……ガルンも出会った頃より遥かに動きが良くなっている……これも稽古の成果か……
カミツグはガルンの動きを見て彼の成長を改めて感じた。
…………
その頃、 エインはエラフェンソーの相手をしていた。
エラフェンソーは氷や魔力を固めた刃を飛ばして攻撃する。
それを彼女は空間を駆け回って回避し、 または素手で受け流したり、 剣で斬り刻んで防御していた。
……なるほどねぇ、 このエラフェンソーは氷と魔力の刃を使った攻撃が得意なんだねぇ……二種類かぁ……森にいた奴は十種類くらいの魔法は普通に使ってきてたんだけど……やっぱり環境が違うからかなぁ……
エインはエラフェンソーの戦い方を観察していた。
それで分かった事が二つある。
一つは、 このエラフェンソーは自然発生的に生まれたモノではない事。
今回エラフェンソーが出現したのはヴェイテルタの国内、 あくまでも宗教国家である国が仮にもヴァルエーナのような亡者の魔物の発生を許すとは考えにくい。
だとすれば、 何者かが意図して生み出したと考えるのは自然と言えよう。
もう一つは、 このエラフェンソーは試作品のようなモノである事。
エインはエラフェンソーの生態については昔からよく知っている、 故に目の前のエラフェンソーは本来の強さでない事は戦って理解した。
一度は生まれた環境の違いの所為かと考えたが、 それにしては差が大き過ぎる。
先の事も含め、 エラフェンソーを生み出した者は本当の目的の為、 今回のような試作品を作ったと考える事も出来よう。
「ん~……まぁいっか、 とりあえず依頼依頼っと♪ 」
少し思うところを見せながらも、 エインはとにかく目の前の敵を討つことを優先した。
そして次の瞬間、 エインは瞬きをする間もなくエラフェンソーの目の前に瞬間移動し、 防御結界ごとその首を斬り落とした。
それと同時に操られていたヴァルエーナの動きが止まり、 灰となって消え去った。
……エインの奴、 何をもたもたしているかと思ってたが……またいつもの観察か……決着を付けたって事は何か分かった事があったみたいだな……
エインの様子を見たウルは後にそれについての話を聞くことにした。
こうして、 依頼は無事達成された。
…………
報酬を貰い、 一段落した一行は宿にて先の戦いの振り返りをする事にした。
そこで、 ウルはエインから今回戦ったエラフェンソーについて聞いた。
そして一つの推測に辿り着く。
『救済の灯』は魔物を使って戦争を始めようとしている……
ベリスタ国内で見られた厄災魔獣の騒動を始め、 ヴェイテルタ付近にて確認された未知の魔物、 及び国内でのエラフェンソーの発生。
加えて『救済の灯』に対する黒い噂の数々。
これらの事から、 『救済の灯』は何らかの手段を用いて魔物を操る実験をし、 戦争に用いようとしていると考えられる。
それに、 近頃本格的に国が動き始めているという話を鑑みるに、 一行が思っているよりも事態は深刻化しているのは想像に難くないと言える。
このままでは『救済の灯』と事を交える可能性も十分あり得る。
その旨をエインに伝え、 この先に進むのはやめた方が賢明だと一行は話す。
しかし、 それでもエインは行きたいと子供のように駄々を捏ねる。
……やはり師匠を止めるのは無理かぁ……こうなれば諦めるしかないな……しかし……
ガルンは謎の胸騒ぎが収まらずにいた。
『救済の灯』が危険だと感じているのもあるが、 それ以外に何か危険信号を感じていた。
それは……
国崩九魔の時と同じ感覚だった……
それから数日、 一行は路銀を稼ぎつついつものように旅の準備やガルンの稽古をし、 いよいよヴェイテルタの首都へ向かう事にした。
勿論フィルのパーティも一緒だった。
「エインちゃ~ん、 お友達からでも駄目~? 」
「ごめん……やっぱりお兄さんとお友達はちょっと……」
しつこく絡んでくるフィルにエインは若干死んだ目をしながら拒否する。
……魔族以外で師匠にあそこまで嫌われるとは……あの男、 ある意味凄いな……
ガルンとカミツグはそんなフィルを哀れむ目で見ていた。
ウルに関しては二人の様子を見て少し楽しんでいるようだった。
そんな事をしつつも、 一同はヴェイテルタの首都へ向かう。
その頃、 『ミュルーラ教』の大聖堂にて……
白と水色を基調とした美しい衣装を身に纏った一人の女性が彫像に祈りを捧げている。
その時、 陽光が差す天窓から一羽の白い鳥が入ってくる。
鳥は祈る女性の傍に降り立つと……
『ご報告します、 エーフィル様……現在、 レイファが例の旅人と接触、 及び同行中との事……このまま首都へ向かうものと思われます……』
ヒトの言葉を話し、 何かの報告をした。
鳥の名は天声鳥、 知能が高く、 先程のようにヒトの言葉を話す事が出来る鳥である。
鳥類の中では珍しく、 超遠距離から生物の魔力を探知する能力を持っており、 訓練すれば伝書鳩のような使い方が出来る。
ただ繁殖力はあまり高くなく、 そこまで数を用意できない故、 ウレーラーフを使った連絡法を使う者は少ない。
ウレーラーフの話を聞いた女性は閉じていた目をゆっくりと開く。
その瞳は澄み切った水のように青く、 見る者全てを癒すような優しい眼差しをしている。
彼女の名はエーフィル、 『ミュルーラ教』の最高位聖職者にしてヴェイテルタの王をしている。
すなわち、 太陽級の勇者の一族であり、 『水の始祖』の末裔である。
「……そうですか、 では予定通りに……」
透き通るような声でエーフィルはそう言うと、 ウレーラーフはお辞儀をし、 再び天窓から外へ飛び立った。
ウレーラーフが飛び立つのを見届けると、 エーフィルは心配そうな表情を浮かべる。
「……近頃、 国民は『救済の灯』に対する不安に暴動も激しさを増している……大きな争いが始まるのも時間の問題……」
そんな独り言を呟きながら彼女は再び彫像に祈りを捧げる。
「……あの旅人が来るまで……間に合うといいのですが……」
祈りを捧げながらそう呟くエーフィルは、 エインの到着を待っているようだった。
続く……




