第四十六話
前回、 街での目的を達成したエイン一行はフィエレンテを発ち、 次の目的地ヴェイテルタに向かう事にした。
ただ、 そこは今危険な状況下にあると話を聞く。
果たして四人を待ち受ける者は一体……
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フィエレンテから発って一週間後、 ヴェイテルタ国境付近の街道にて……
エイン達一行は魔物の群れと交戦中だった。
魔物の名は音蟲、 集団で過ごす習性を持つ小型の昆虫型の魔物である。
鋼のように硬い甲殻が特徴で、 その体を利用して音速に近い速度で飛び回り獲物を攻撃する。
その破壊力は攻城兵器の如く、 生身の人間が当たれば重傷は免れない。
食性は雑食だが、 特に甲殻を形成するために金属を摂取する事を好む。
因みに人間も食べる。
そんな魔物に対しガルンは冷静に向き合う。
彼は凄まじい速度で飛び交うロヌヴィギを素早く避け、 大剣で弾き飛ばしていく。
……見える……動きが……確実に動体視力が良くなっている……
ガルンは日々の稽古で成長しているのを実感していた。
エインのレベルとまでは行かずとも、 今の彼は一国の近衛兵に匹敵する程の実力に成長しつつあった。
そんな彼を見たエインは感心した。
「ガルンすごいじゃ~ん、 私が見てない間もずっと鍛錬してたんだね♪ 」
「えぇ、 師匠がご不在の間、 カミツグと共に稽古もしていましたから」
そんな会話をしながらよそ見をしていたエイン。
しかし、 彼女は飛んでくるロヌヴィギを目にも留まらぬ速さで斬り刻んでいく。
その速度はもはや剣を抜き、 収める動作も見えぬ程。
……師匠……明らかに前より速くなっている……カルミス様に付けてもらったという三年の修行の成果か……
そう、 エインはカルミスとの修業にて成長したのは魔法技術だけではなかった。
彼女は全国魔試にて、 アフィーレが創り出した自分の分身と闘った事で、 自身の剣術のムラを見つけ出していた。
そして、 カルミスとの修行に伴い、 三年という長い時間を得た。
これは丁度良いと感じたエインは、 そこで自身の剣術の修正点を補正し、 更に研磨したのだ。
結果、 彼女は剣技の最高速度を常に出せるようになったという訳だ。
……カルミスさんには感謝しなきゃねぇ♪
そんな事がありつつ、 一行はロヌヴィギの群れを撃退した。
エインはいつもの如く倒したロヌヴィギの死体を漁り、 スケッチする。
……なるほどぉ、 この虫さんは甲殻だけじゃなくて羽も丈夫なんだねぇ……だからあんなに速く飛べたんだぁ……
そうして彼女がロヌヴィギの生態を観察していると、 ウルが突然叫んだ。
「あぁ~~~! ! ! あんの虫けら共ぉ~~~! ! 」
何事かとガルンとカミツグがウルの方を見ると、 そこには無惨に食い千切られた一行の荷物があった。
襲撃の際にロヌヴィギにやられたのだろう。
三人は無事な荷物が無いか確認すると、 金品などは無事だったが食料は全滅していた。
どうしたものかと困る三人。
そこにロヌヴィギの観察を終えたエインが歩み寄って来た。
「あちゃ~、 派手にやられちゃったねぇ……」
「どうするよ……って、 何食ってんだ……お前……」
荷物の状態を確認する彼女はボリボリと何かを食べている様子。
その正体は、 先ほど討伐したロヌヴィグの死骸だった。
「みんなも食べる? 殻を剝いちゃえば全然食べれるし♪ 」
「い、 いえ……俺はちょっと……」
「あぁ~……確かに森育ちだから普通に食っててもおかしくねぇか……」
「……確か、 虫を料理して食べる文化がある地域がどこかに存在するというのは聞いたことはあるが……」
エインにとって、 虫は長い旅を続ける上では貴重なタンパク源……父と過ごしていた頃はおやつ感覚で食べる事もしょっちゅうだったエインは、 虫を食べる事に対して何の抵抗も無かった。
しかし、 見た目的にどうも抵抗があった三人は、 別の方法を探そうと提案する。
頑なに食べたがらない三人に仕方ないと思ったエインは、 どこか近辺に村でも無いかと高台に登って探し始めた。
すると、 遠方の森の中から煙が立ち昇っているのが目に入った。
どうやら何者かが焚火をしているようだ。
一行はその煙を目指し、 森を進んでいく事にした。
しばらくして、 一行は焚火の煙が昇っていた地点に辿り着いた。
しかし、 そこには燃えかけで残った焚き木と、 何者かが争った跡が残っているだけだった。
何事かと一行は辺りを調べる。
そこでエインは地面や木々に残っている痕跡を探る。
……これは結構大きな魔物だね……それに数も多い……勝てないと見て逃げたってところかなぁ……
「焚火の跡はまだ新しい、 きっとまだ近くにいる筈です……」
それを聞いたエインは焚火の主を探そうと言い、 ポーチから何かを取り出す。
出てきたのは謎の粉が入った小瓶だ。
彼女が言うに、 小瓶の粉は錬金術で作った魔法の粉らしい。
効果としては振り撒いた物の痕跡を示してくれるといった地味なモノである。
何でも、 ベリスタ帝国で手に入れた指南書から覚えた『錬金術』の実験の一環で作ってみた代物だという。
……まぁ、 今は失敗作しか作れないけど……これが初めての成功になるといいなぁ……
そう思いつつ、 エインは粉を辺りに振り撒いた。
すると、 周囲にあった爪痕や足跡が青く光り出した。
「よかったぁ~、 爆発しなくて♪ 」
『……え』
『爆発』という言葉に三人は少し背筋が凍った。
そんな事がありつつ、 一行は光る痕跡を辿っていった。
しばらく痕跡を辿っていくと、 一行は洞窟に着いた。
その洞窟からは異様な程の死臭がしており、 周りには様々な動物の骨が転がっている。
中にいるのは魔物であるのは想像に難くなかった。
しかし、 それでエインが臆する訳もなく、 気にせず洞窟内へ入っていった。
…………
洞窟内は更に死臭が酷く、 生ぬるい風が奥から微かに感じる。
警戒しつつ更に奥へ進んでいくと、 遠くから男女の叫び声が聞こえてきた。
急いで声のした方へ向かおうとしたその時、 洞窟の壁や天井から黒い影が飛び出し、 一行に襲い掛かって来た。
一行はその影を迎撃し、 それに光を当てる。
「……師匠、 こいつは……」
「何だろう……こんなの今まで見た本にも載ってなかったよ」
その正体はエインでも見たことも無い虫の魔物だった。
……よく見ると……ロヌシュっていう虫さんに似てるけど……大きさも脚の形も全然違う……
影蟲とは、 暗く狭い場所に生息する虫の事である。
特徴としては全身が真っ黒な甲殻に覆われ、 長い触角を持っており、 何とも嫌悪感を抱くような見た目をしている。
生息域は広く、 大陸中で目にする事が出来る。
食性は雑食、 人も含む動物が出す老廃物などが好物。
本来なら攻撃性も無く、 サイズも平均にして十センチ程と小さい。
しかし、 今回エイン達を襲って来た虫はサイズが一メートル程と大きく、 脚の形状はまるで鎌のようで攻撃性も高かった。
不思議に思ったエインは虫を調べようとするが、 今はそんな場合ではないとガルンは先を急がせる。
そうして一行は謎の虫の事は置いて先に進むと……
「……これは……! 」
「あ……アンタ達、 助けてくれ! 」
先程の謎の虫の群れに壁際へ追い詰められた一組のパーティがいた。
構成は三人、 一人は男の剣士、 もう一人は男の魔法使い、 あとの一人は神官らしき女性だ。
助けを求める彼らを見た一行は空かさず戦闘に加わり、 虫達を殲滅する。
そして、 無事にパーティを助けた一行は洞窟を脱出し、 彼らから事情を聞く事にした。
聞くに、 彼らも一行と同じくヴェイテルタに向かおうとしていたところを謎の虫の大群に襲われ、 手に負えないと思い逃げようと入った洞窟が、 偶然その虫の巣だったようで、 結局追い詰められてしまったのだという。
それを聞いたエインは、 続いてあの虫について何か知らないかと彼らに聞く。
その質問にはヴェイテルタ出身だという女神官が答えた。
どうやら、 近頃ヴェイテルタ周辺地域ではそういった魔物の事件が多くなっており、 今までは見られなかった全くの新種の魔物まで発生しているらしい。
故に、 彼らもあの虫については何も知らないとの事。
……分からないのかぁ……一応色々調べるためにいくつか死骸を持って帰って来たけど……もしかして本当に新種だったり……!
そう考えたエインは大発見だと興奮する。
するとそこに、 パーティの男剣士がこんな話をした。
「新種の魔物と言えば、 最近ヴェイテルタに本拠地を置いているって噂の『救済の灯』が魔物を使った何かの実験をしてるって噂で聞いたぜ」
「ほぅ……その『救済の灯』が新たな魔物を作り出し、 解き放っていると……」
話を聞いたガルンは少し考え込む仕草を見せる。
……この前のレオウスの件に続き、 新種の魔物とは……あくまで噂だが、 『救済の灯』は魔物を使って何かをしようとしている可能性はあるな……
果たしてこのままヴェイテルタに向かっても良い物か……
ガルンは嫌な予感がしてならなかった。
そしてそれはウルとカミツグも同じ気持ちだった。
しかし、 そんな中でもエインは相変わらずの様子で持ち帰った謎の虫の死骸を調べていた。
そんな彼女を見た三人は心配しても仕方が無いかと考え、 本来の目的であった食料事情について話す。
結果、 事情を知った相手パーティが礼も兼ね、 国境を越えた先にあるという町まで案内してくれる事になった。
その道中、 一同はお互いに自己紹介をした。
男剣士の名はフィル、 リ・エルデ出身の元見習い兵士で、 厳しい父親から自由になる為に魔物狩りとして各地を転々とする生活を始めたらしい。
雰囲気は明るい好青年といった感じで、 彼女を募集中との事、 いわゆるチャラ男である。
男魔法使いの名はスペルド、 彼もフィルと同様リ・エルデ出身の魔法使いで、 幼馴染として彼の旅に付き合っているそう。
こちらはフィルとは真逆の雰囲気であり、 フィル曰く、 冷静に物事を考える能力に長けているとの事。
そして最後に女神官、 名はレイファ、 彼女は他と違いヴェイテルタ出身で、 国からの依頼で、 国外でも活動しているという『救済の灯』の動向を調査しているらしい。
雰囲気としては淑やかで、 少し気弱な所があるといった感じである。
現在は経過報告の為に首都へ戻る途中だという。
彼らの自己紹介を聞いたウルは何か気になったのか、 レイファとはいつ出会ったのかと二人に聞いた。
聞く所、 レイファはヴェイテルタにある転移の魔法具でリエルデに来たらしく、 二人はリエルデ国境の街で彼女に出会ったという。
それまでの彼女の動向はよく知らないとの事。
それに対し、 ウルは本人に詳しく聞こうとするも、 彼女は国の依頼の為詳しい情報は話す訳にはいかないと一点張り。
そんなレイファの様子にウルは不信感を覚える。
二人が会った時点で彼女が一人だったというのは確か、 現にパーティがこの三人だけなのがその証拠だ。
だとすれば、 女神官という戦闘には絶対不向きな人間をたった一人で行かせるというのはあまりに変である。
加えて行きは転移の魔法具で可能であるとしても、 帰りは歩きというのもおかしい。
明らかに単独で何かを企んでの行動としか思えない。
……怪し過ぎる……この女……何か良からぬ匂いがプンプンしやがる……
そう思ったウルはレイファに警戒心を抱く。
彼女は他の三人と比べて長く裏社会で生きて来た身。
そんな悪人の蔓延る場所で生きて来た彼女からして、 レイファからはそんな悪人と同じモノを感じたのだ。
そんな事がありつつも、 一同はヴェイテルタ国境の町に着いた。
その町には至る所に見たことも無い紋章が刻まれた旗が立てられており、 警備している兵士の鎧は全て純白に統一されている。
レイファの話によると、 旗に刻まれている紋章は国が信仰している宗教の象徴らしく、 五つの剣が交わっているのを現しているそう。
言い伝えでは、 この世界の守護者として誕生した五人の勇者、 通称『始祖の勇者』と呼ばれる者達……その内の一人、 『水の始祖』と呼ばれる勇者の血を継ぐ者が、 二千年以上前に設立したと伝えられている。
そして、 その宗教は『始祖の勇者』の名に因んで、 『ミュルーラ教』と呼ばれている。
そんな話をしていると、 フィルが突然エインの前に歩み寄り、 その場で跪いた。
「麗しきお嬢さん、 名前は確かエインさんといいましたか……」
「え、 うん……」
「エインさん、 貴女に一目惚れしました、 どうか俺とお付き合いして頂けませんか? 」
それは唐突の告白だった。
そんなフィルに当然ガルンとカミツグは阻む。
どういう事かとウルはスペルドに話を聞く。
何でも、 フィルは昔から女性には目が無いらしく、 特にエインのような可憐な人が好きなんだと言う。
……ハハ~ン、 レイファって女とつるんでやがるのはそれが理由かぁ……確かにあの女は怪しいがツラはいいからなぁ……エインはぁ……まぁ、 モテないツラではないか……『中身』はともかく……
話を聞いたウルはエインを見ながらそんな事を思った。
そして、 告白に対してエインは笑顔と困り顔の狭間のような微妙な表情をして固まっている。
何も理解できていないようだ。
それを察したガルンは彼女に耳打ちでフィルの言っている事を分かり易く要約した。
……あぁ、 なんかパパも言ってたなぁ……世の中には女の子を狙う獣のような男の人が沢山いるって……このお兄さんがそれかぁ……
解釈が少しズレているが、 エインはフィルの言っている事を何となく理解した。
そうとなればと、 エインは父から教わった対処法を実践することにした。
「じゃあ、 私との勝負で勝てたらいいよ♪ 」
「え……? 」
エインの言う勝負、 それは言うまでもなく剣の模擬戦である。
それを聞いたガルン、 ウル、 カミツグの三人はすぐにその結果を察した。
そういう事で、 一同は町はずれの空き地に移動した。
結果……
空き地の真ん中で気絶しているフィルと、 それを見下すエイン。
エインの圧勝である。
……パパからはそういう男の人に会ったら勝負をして相応しい者か見極めろって言われてたからねぇ……
父はエインに勝てる者はいないと分かっていてそのように吹き込んでいたのだった。
戦いを見ていたスペルドは開いた口が塞がらなかった。
無理も無い、 エインの剣速を見切れる者がいるとすれば、 彼女の父 シュラス以外にいないのだから。
「な……何をしたのか全く見えなかった……一体何なんだあの子は……」
「ただの旅人です♪ 」
こうして勝負が終わり、 スペルドは気絶したフィルを背負って宿に帰っていった。
……あれがリエルデやベリスタで噂になっている旅人……エイン……なるほど……
別れ際、 レイファはどこか神妙な顔でエインの事を見ていた。
続く……




