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私はただの『旅人』です。  作者: アジフライ
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第四十五話

前回、 全国魔試が終わり、 遂にカルミスと対面したエイン。

そこで彼女は自分の父について真実を知る事となった。

しかし、 その真実を知っても尚彼女は、 父に対する愛は変わらなかった。

父についての話を一通り聞いたエインは、 続いてカルミスについての話を聞くことにした。

それに対して彼女は少し表情を曇らせる。

聞いても面白い話じゃないと一言言うも、 それでも聞きたいと引かないエイン。

そして押しに負けたカルミスは渋々話し出した。


「……私は……もう、 いつから生きているかは忘れてしまった……最後に覚えている一番古い記憶は……悪魔と名乗る者と契約を交わした時……」


彼女が言うに、 子供の頃……争いに巻き込まれ死にかけていたところを悪魔に話し掛けられ、 助けてやると言われたのだそう。

当時死ぬのが恐かった彼女は、 愚かにも悪魔に助けを求めてしまった。

その時から自分は不老不死となったという。

ただその代わり、 悪魔は彼女の感情の一部を持ち去っていった。

それから何千年、 何万年、 何億年と時を掛けて魔法を研究して極め続け、 悪魔が奪った感情を取り戻す術を探し続けた。

そうしている内に気付いた時には、 自分の生きていた世界は無くなってしまった。

当時は人間としての感情が欠如していた彼女は、 その時は別に悲しいとは思わなかったそう。

ただ、 死ぬのだけは嫌だったカルミスは、 魔法で世界を渡り、 宇宙を彷徨う内にイースダルテに辿り着いたという。

それがこの世界周期で言う数千年以上も前の事だ。


「まぁ、 もう感情を取り戻す魔法の開発には成功したから……残ったのは不老不死の呪いだけ……でも、 これに関してはいつまで経っても原理が掴める気がしないから、 半分諦めかけてるけど……」


……すご~い……伝説は本当なんだ!

あまりに現実離れした話なのにも関わらず、 エインはカルミスの話になんの疑いも持たなかった。

目を輝かせて話を聞く彼女を見たカルミスは、 何だか嬉しい気持ちになった。

こんな人間とも思えない自分を、 ただ純粋に人として見てくれている。

そんな気がしたのだ。


そして同時に思った、 この子は恐れを知らなさ過ぎる。

きっとこの先、 彼女はもっと恐ろしい相手と対峙する事もあるだろう。

それこそ魔王のような強敵とも戦う事になるかもしれない。

そうなれば、 いくら剣術が強いと言っても必ず限界がやってくる。

……シュラス……この子に私の魔法を教えて欲しいと言ったのは……そういう事なのね……

エインを見て放っておけないと感じたカルミスは、 自分の知る魔法の全てを教える事にした。


「……エイン……あなたは魔力の神髄を掴んだみたいだけど……それは始まりに過ぎない……」

「えっ、 そうなの! ? 」

「えぇ……見せてあげる……魔力の神髄の……その先を……」


そう言うと、 カルミスは指を鳴らす。

次の瞬間、 周囲の景色が一瞬にして夜空のような空間に呑み込まれる。

そこはカルミスが創り出した時間がねじ曲がった空間。


彼女が言うに、 その空間では『無限の0秒』が繰り返されており、 空間内で何時間、 何日、 何年過ごしたとしても外では1秒も経つ事は無いという。

また、 空間内の物質の変化も停止するため、 空間内にいる生物は老いる事が無く、 物体が朽ちる事も無いそう。


何故そのような空間にエインを招いたのか、 理由はすぐに分かった。

これから空間内で三年の間、 カルミスがエインに魔法の修業を付けると言うのだ。

その時、 カルミスの背後から空を穿つ程の巨人が二体現れた。

体は見たことも無い物質で構成されており、 金属なのか液体なのか分からない。

ただ、 その巨人は凄まじく強いという事だけは肌で感じる。

同時に、 カルミスは自身の周囲に無数の魔法陣を展開する。

その術式はエインも知らない全く未知の構造をしており、 星座のような美しい模様を描いていた。

……こんな凄い空間を維持しながらあんな強そうな巨人さんに他の魔法まで……あれが……


……魔法の極致……


「……本来なら授ける魔法は一つだけど……魔力の神髄を掴んでいるなら話は別……私は義理堅いからね、 あの人の望み通り手解きしてあげる……」

「教えてくれるの! ? 全部! ? 」


凄まじいオーラを放つカルミスに対し、 エインは相変わらず子供のように目を輝かせていた。

それから空間内にて三年、 エインはカルミスに魔法の全てを叩き込まれた。

そして、 二人は元の空間へ戻って来た。


「はぁ~~……楽しかったぁ♪ 」

「三年ぶっ続けであの密度の修業した後とは思えないわね……全くシュラスに次いで末恐ろしい子ね……」


まるで遊園地から帰って来た子供のような様子のエインにカルミスは思わず苦笑いを浮かべた。

空間内での三年間でエインはカルミスが知る魔法の全てを教わった。

それは魔力の性質、 術式の構造や原理、 詠唱の作用、 そのどれもが世界によって異なるという事。

そして、 それらの知識は別世界でも適応されるという事。

つまりそれら知識を持ってさえいれば、 エインにもカルミスが使う別世界の魔法も使えるという事だ。

ただ、 魔力という概念そのものに干渉できる事、 すなわち魔力の神髄を掴むことが前提条件ではあるそう。

他にも、 カルミスが知る別世界の魔法を全て教えてもらい、 今まで以上に多彩な魔法を扱えるようになった。


新たな力を得たエインはカルミスに感謝した。


「ただ……魔法の極致と言っても、 これは私達生物が至れる領域の限界に過ぎない……シュラスがいる『神の領域』には遠く及ばない……もし、 あなたがそれを求めるなら……あなたの父親に再会した時、 直接聞いてみなさい……」

「うん! 」


こうして、 エインとカルミスの対面は終わった。


その後、 ウルと共に宿へ戻ったエインは、 三人に一連の出来事について簡単に話した。

それを聞いた三人は呆れたように顔に手を当てる。

……ただでさえ剣術が強い師匠が……遂に魔法まで……どこまでもこの人は……

脅威的なエインの成長にガルンは畏怖した。

それはさて置いて、 ウルは資格の事について聞いた。

するとエインは


「あぁ~、 資格ね……何か面倒くさそうだったからいらないって言っておいた♪ 」


清々しい程の笑顔でそう言い放った。

実はあの後、 エインは資格の授与を拒否していたのだ。


カルミスの話では国家魔導士の資格を持つ者とは多忙なモノらしく、 手にすれば間もなく各国の貴族や王族から仕事を頼まれるのだという。

『国家魔導士』はその依頼を受ける義務があり、 断る事はまずできないという。


その話を聞いた彼女は当然きっぱりと断った。

これにはカルミスも予想通りだったらしく、 協会にはエインは不合格者という事で扱うと伝える事になった。

……無理矢理やらされるのはちょっとねぇ……私はただカルミスさんに会いたかっただけだし……


「そんなこったろうと思ったぜ……まぁ俺も断ったクチだが……」

「でもねでもね! カルミスさん、 これをくれたの♪ 」


そう言いながらエインはポーチからある物を取り出す。

それは小さな青い宝石に装飾された金細工の首飾りだった。

宝石の中をよく見ると、 星を象ったような魔法陣が浮かんでおり、 眺めていると不思議と吸い込まれそうな感覚に陥る。

エインの話によると、 資格を拒否した際にカルミスが代わりにと言って渡してくれたと言う。


「なんかね、 これがあれば偉い人しか入っちゃダメな場所にも入れるんだって♪ 」

「大方カルミスかその関係者しか持てねぇ『通行証』みてぇなモンか……相当気に入られたなこりゃ……」


そんな事もありつつ、 フィエレンテでの目的を達成したエインは、 次の目的地について話した。


カルミスから聞いた情報では、 大陸南側には小さな国が集まった地域が存在しており、 そこではリエルデやベリスタなどの大国とは異なった文化を持ち合わせているそう。

また、 その地域には特有の生態系が存在し、 エインがまだ見たことも無い魔物や動物たちが生息しているという。

その情報を元に、 エインが定める次の目的地は……


「ここから西にあるヴェ・イテルタっていう国に行きまぁ~す♪ 」


それを聞いた三人はずっこける。

……今の話の流れで西に行くかね普通……てっきり南に向かうのかと思ったぜ……

ただ、 エインに考えが無い訳ではなかった。

彼女がカルミスから聞いた話は他にもあるらしく、 フィエレンテから西の遠方に進んだ所に『ヴェ・イテルタ』と呼ばれる宗教国家が存在しているという。

その国ではとある宗教が強く信仰されており、 国の出身の民は全員同じ宗教を信仰している。

また、 フィエレンテから最も近い国という事もあって独特の魔法技術を持っており、 中でも有名なのが『大陸内であればどこにでも転移が出来る魔法具』であり、 それを使えば大陸南側へ一瞬で移動する事が出来るのだという。

それを知ったエインは折角だからと、 その魔法具の力を体験するべく向かう事にしたという訳だ。

そうと決まればと、 一同は早速旅立ちの準備を始めた。



「……何故、 師匠はあれほど強くなれるんだろうな……」


出発の支度をしている時、 ガルンはふと、 そんな言葉を溢す。

それを聞いたウルは少し考える仕草を見せ、 答えた。


「……多分だが、 アイツは強くなろうと思ってなってる訳じゃねぇんだと思うぜ? 」


エインは、 『強さ』を求めて旅をしていない。

ただそこにあるのは、 まだ見ぬ世界に対する好奇心と、 未知に対する理解を諦めない探求心……

それでいて、 彼女は『ただの旅人』であり、 自由な存在……それは何者でもないが、 逆に言えば何者にもなれる。

ある時は、 一国は守る騎士団の一員になったり、 またある時は、 古代の遺跡や危険な魔物の巣を探検する冒険家になったり、 そして今に至っては、 世界屈指の魔法使いになったり……

エインはその好奇心の赴くままに、 あらゆる道を進んでは探求を繰り返している。

その経験の積み重ねが、 自然と彼女の強さに繋がっているのだろう。


「それにアイツは、 どんな事に対してもまるで遊んでるみてぇに楽しんでるだろ……心の底から理解を示そうとしてくれて、 最後まで楽しそうに遊んでくれる……そんな奴が嫌いな奴はそうそういねぇだろうよ……だから自然と色んなモノが寄ってくるんじゃねぇかな……」

「確かに……好かれやすい人柄ではあるな……」

「……言うなればエインは……『世界に愛された旅人』……と言ったところか……」


そんな話をしつつ、 三人はエインの方を見る。

彼女は楽し気な笑みを浮かべながら旅の支度をしている様子。

……『世界に愛された旅人』……か……大層な旅人なこったぁ……

彼女を見たウルは、 思わず笑みがこぼれた。

そして翌朝、 一同はフィエレンテを発とうと街の門の前に来ていた。

その時、 フィロウが声を掛けて来た。

彼女とは初対面だったウルとカミツグは軽く自己紹介を済ませた。


「……もう行くのね……」

「うん、 フィロウお姉さんはどうするの? 」

「私はリエルデに戻るわ……これから大忙しになるだろうし、 アンタが国に立ち寄る事が無い限り……また会う事は無いと思うわ」

「そっか……」


エインは少し寂しそうな表情を浮かべる。

……まぁ、 絶対会えないって訳じゃないしね……

すると、 続いてフィロウは次の目的地についてエインに聞く。

彼女はヴェイテルタに向かう旨を伝えると、 フィロウは何か思うような表情を見せる。

話を聞くと、 どうやら最近噂になっている宗教団の本拠地がそこにあるという情報が新しく出回っているという。


その宗教団と言うのはエイン達が知る『救済の灯』である。

最近、 『救済の灯』が魔物を使って各地の村々を襲撃しているという情報が入り、 ようやく国が動き出したそう。

ただ、 『救済の灯』は思った以上に巨大な組織となっており、 多くの信者が反乱を起こしている為対処が難航している。

そんな事もあり、 近々ヴェイテルタにて内戦が始まるのではないか……と、 何かと物騒な噂が流れている。

正直、 そんな状況でそこへ行くのはあまりおすすめしないとフィロウは言う。


しかし……


「んん~……まぁ、 大丈夫でしょ♪ 」


エインはいつもの調子でそう言った。

そんな彼女を見た一同はやっぱりといった様子で苦笑いを浮かべる。

しかし、 エインなら大丈夫。

そんな気がした。

そこに、 彼女はふとガルンと目が合う。


「……楽しんでるようね……」

「……あぁ……まぁな……」


パーティを離れた事もあってか、 どこかぎこちない二人。

しかし、 過去についてはどうこう言うつもりは無いとフィロウはハッキリ言い、 ガルンの胸に拳を当てた。


「あの子に何かあったら、 アンタが守ってあげるのよ? 」

「!……あぁ、 無論だ」


……フィロウ……何だか人が変わったようだ……

そんな事がありつつ、 一同はフィロウに別れを告げた。

続く……

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