8話 剱崎灯台へ
曲がって入った道はセンターラインのない細い道だった。少し進めば視界に映るのはほとんど畑と海だけという、すがすがしい光景。緩やかな登り斜面の道を行けば、遠くにこの景色の中では目立つ真っ白な、ひときわ高い建造物が見えた。
「見えた!灯台!」
奥に見える建物はどう見ても灯台の形をしていた。
「……でも、アンテナのほうが目立っちゃってるね」
その手前に立っているアンテナのほうが、灯台と同じかやや高い背丈をしているので目立ってしまっている。左手には海がちらりと見えて、その奥には陸地と、そこに立つ建物がしっかりと見えた。東京湾を挟んでいても、ここまでくればこうも千葉県がはっきりと見える。
自転車を進めると右手に分かれていく道の先にも海が見えた。景色と相まってあまりにものどかに時間が過ぎていく。道は木々の中につながっていて、そこに灯台への入り口があった。自転車を降りる。
入口あたりは木々が鬱蒼としていたが、先に進めばすぐに木々の背丈は下がって、遠くから見えていたアンテナがすぐ近くに見えた。海も見える。今もその輝きは失われないまま。
広場まで出れば、灯台がその姿を現した。やっぱり、アンテナよりも少し背が低くて目立たない。そもそもこれ、何のアンテナなんだろう。
「青~い!」
海と空、そして向こう側に見える房総半島すら、うっすら青い。同じ青色でもそれぞれ個性があって、それらすべてが灯台と、どこか遠くに見える入道雲の白を際立たせる。
今日はほとんどの場所で海が見えていたのに、今でさえ海を見るのは飽きない。ただ青く輝く水に引き込まれて、気づけば動けなくなりそうになっている。何隻か船も見えた。東京のほうへと向かっている。
房総半島の手前側にはしっかりと建物を確認できた。
「あそこは……鋸南町っていうんだ」
スマホの地図を今向いている方向にまっすぐ動かすと、ちょうどそのあたりになる。そのすぐ北には名前の通り、鋸山があるらしい……が、房総半島の大部分が丘陵地帯となっているため、肉眼ではどれが鋸山かは特定しずらい。今まで訪れたことのないこの山は、ロープウェイもあって山頂、展望台までほとんど登山をせず向かうことができるようだ。
「少し未来のあたしが、あっち側から見ていたら……ちょっとおもしろいな」
海岸沿いに広く見晴らしの良いこの地では、同じようなことを思いやすいようだ。先月江の島からここを見ていたということも大きな理由になっている。
「あれ?」
少し『心の穴』が癒えた感覚がした。さっきの道を進んでいた時にも感じたけれど、今はさっきとは違って、ゆったりとした時間が流れていて、何が効いているのかわからない。
「まだわからないことばっかりだな」
胸のあたりを抑えてつぶやいた。だんだんと癒えの感覚が薄れて、またいつもの『心の穴』に戻った。
灯台と自分が写った写真と、そのほかこのあたりの写真を何枚か取った後、茉莉は白南風とともに来た道へと戻っていった。




