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母へ、私は  作者: ヤマト
第一章 名もなき者

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第五話 劫火


「……お母さん?」


「お母さん!!!」


アンが私の膝の上から飛び出す。



——次の瞬間。


ガッシャーン!


窓ガラスが弾けた。


破片が、部屋の中に降り注ぐ。


何者かが飛び込んできた。


エマの身体が、崩れる。


遅れて——

血が、吹き出した。


「いやぁぁ!お母さん!!」


アンが駆け寄る。


血が、広がっていく。


身体が、勝手に動いた。

アンを、引き寄せる。


守るように、覆い被さる。

——痛いのは自分だけでいい。



「悪魔憑きが娘を庇うか」


「……笑わせる」


泣き叫ぶアンを、押さえ込む。


三人に、囲まれていた。


「神の名を騙る悪魔め」


「その名は、お前のものではない」


「——断罪の時だ」


一人が、私の腰を踏みつける。


息が詰まる。


後ろから、祈りの言葉が聞こえる。


もう一人が、私の目の前に立つ。


動けない。

顔を見上げることしかできない。


——


何かが、身体を貫いた。


背中から胸にかけて、

焼けつくような熱が走った。



「討伐完了——」


その声が、やけに遠くに聞こえた。


薄れていく意識の中で、

襲撃者たちの背中だけが、はっきりと見えた。



 *



視界が、揺れている。


音が遠い。


誰かが、近づいてくる。


……あの男だ。

教会で会った、牧師。


膝から崩れ落ちる。


何かを祈っている。

その声が、やけに響く。


——終わったのかと思った。


牧師は立ち上がる。


「……私のせいだ」


何度も、力なく呟いている。


ふらつく足で、台所へ向かう。


戻ってきたその手には、包丁が握られていた。


エマが、ご飯を作るのに使っていた包丁。



再び、祈る。


「……神よ」

「どうか、愚かな私を許したまえ」


そのまま——


躊躇いなく、喉に突き立てた。


エマに覆いかぶさるように、

力なく倒れ込む。


視界の端で、

その光景だけが揺れていた。


何も、理解できなかった。



 *



いつからそうしていただろうか。


腕の中に、重みがある。


アンだ。


小さな身体が、ぐったりと動かない。

呼吸がない。


温かかったはずのアンの身体は、

もう温度を失っている。


——なのに。


私は、生きていた。


私が生きているのだから、

アンも助かる。


身体に穴が空いただけ。


それだけで、死ぬはずがない。


町へ行って、

手当してもらえば——


きっと、助かる。


腕の中の重みを、強く抱き寄せる。


「アン、また一緒に遊ぼう……」


私は、血に濡れたアンを抱えて

町へ向かった。



 *



町へ着くと、

住民が私を指差し悲鳴を上げる。


「キャー!!悪魔よ!!」

「衛兵!誰か衛兵を呼んで!!」


その声に呼応するように、

私の周りに人だかりができる。


「アンを、助けて」

「お願いだから」


声を出しているはずなのに——

誰にも、届かない。


人混みをかき分けて、

一人の男が目の前に立つ。


流れるように剣を抜き、

私へ切先を向けた。


「その娘は、どうした」


そんなこと、どうでもいい。

早く、助けてくれ。


「早く、アンを助けて」


声が、震えていた。


「お前が殺したのだろう」


男は、私の声をかき消すように言った。


「その血まみれの返り血が、何よりの証拠だ」

「お前を拘束させてもらう」


男は、剣を収める。


「その娘を渡せ」


——あぁ。

やっと助けてくれるのか。


私はアンをそっと地面に寝かせた。


次の瞬間——


背中を、強く押し倒される。


息が詰まる。


何が起きたのか、わからないまま

腕を捻り上げられた。


なすすべもなく、拘束された。


腕を捻り上げられたまま、引きずられる。


足がもつれる。

それでも、離さなかった。


「アンを返して」


誰かが、アンを抱き上げる。


「やめて」


思わず声が出る。


「その子はまだ——」


「この娘の遺体は後で埋葬する」




道が、勝手に開いていく。

視線が、突き刺さる。


「悪魔だ……」

「子供まで……」


気がつくと、石造りの台の前に立たされていた。

見上げると、あの教会だった。



「静粛に」


低い声が響く。

ざわめきが、止まる。



「この者は、女神の名を僭称し」


「挙句、善良な民を殺害」



「……違う」


声が漏れる。


「アンを助けて」



「まだ言うのか……」

「自分で殺したって言うのに何を……」

「やっぱり悪魔だ」



「よって——」

「磔では生温い」

「この者を、火刑に処す」



 *



杭の前に立たされる。


何をされるのか、よくわからない。

縄で、身体が縛られていく。


「……アンは?」



「懺悔の言葉はないのか」


答えは聞いていない。


「——点火」




足元で、火が上がる。


乾いた木が、音を立てる。


熱い。


煙が、目に入る。


息が、できない。


喉が焼ける。


視界が、滲む。



「アン……」


声にならない。

助けなければ。


熱い。


——死ぬ。

その瞬間、初めて理解した。


「——いや」


声が漏れる。


「いやだ、やめて——」


「いやぁぁぁ!!!」




視界が、白くなる。


音が、消える。


身体の感覚が、途切れていく。



ふと、思い出した。


何度も、繰り返してきたような——

奇妙な感覚。


さっきまでの恐怖が、すっと引いていく。





——ああ。


今日はここまでか。

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