第6話 待ち時間で
俺は大量の本の中から、一つだけ取り出して、その他は、俺の前後に積み上げた。
そして、上から布を被せる。
これでバレないはず…………。
取り出したのは、この時代の宮廷でのマナーについてだった。
古文が怪しい俺は、完全に読むことは出来なかったが、現代の知識と安良子さんの教えてくれたことをフルに活用して、どうにか最初の方だけ読み解いた。
「(…………あれ?)」
最初の方には、宮廷での言葉遣いについて書かれていた。
でも、大体現代と変わっていなかった。
安心して、次の段を読もうとしたが、外から物音がした。
安良子さんだと信じたいが、念のために物音を消す。
息すら怖いほど、静かな環境だ。
外から、何やら書く音が聞こえてきた。
それだけでは、安良子さんかそうじゃないかは判別出来ない。
「…………よし」
勢い余って出したであろう声は、明らかに安良子さんの声ではなかった。
けど、女性であることは分かった。
その人は、そのまま廊下を出ていった。
安良子さんに何か用があったのだろうか…………?
「(雅道さん、大丈夫ですか!?)」
「(あっ、安良子さん)」
安良子さんは、上に被せていた布を勢いよく取っ払った。
「(誰か来ていましたけど、気付かれてはないですよ)」
「(それなら良かった…………)」
安良子さんはまだ腕が痛そうだった。
ずっと、腕を押さえている。
「(安良子さん、腕の様子をもう一度見せてもらっても良いですか?)」
「(きゅ、急にどうされたのですか?)」
「(いや、傷口が広がっていたら大変なので)」
「(…………)」
安良子さんは、何も言わず腕を差し出してきた。
俺は同じように袖をめくる。
巻いていた手ぬぐいは、血で真っ赤に染まっていた。
傷口は完全には塞ぎきっていなかったが、治りかけみたいな感じだった。
これぐらいなら、今日中には血は出なくなっているだろう。
…………多分。
「(安良子さん、まだお湯ってありますか?)」
「(え、ええ、まぁ…………)」
俺の意図が通じたのか、安良子さんは走って行った。
時間的に余裕はないのかもしれない。
けど、安良子さんの傷口が広がるのも良くない。
俺は同じ要領で、新しい手ぬぐいを巻いていく。
まだ慣れていないのか、少し痛がっていた。
「(…………はい。これで今日中には血は止まるはずです)」
「(…………ありがとうございます。舞子様の元へ行きましょう)」
俺は安良子さんに袖を引っ張られた。
もしかして、本当に時間がヤバいのだろうか…………?
出るときにチラッと机の上を見たが、乱雑に置かれた紙は、黒っぽかった。
字を書いているにしては、少し黒すぎる気がする。
さっき来た人が墨をこぼした…………?
いや、それにしては黒いところが、規則的だ。
良く見えなかったから、帰ってきた時に見てみよう。
…………まぁ、無事に帰れたらの話なんですけど。




