第5話 食べれてないでしょう?
舞子様はお許しになるのでしょうか…………。
もし、お許しにならなかったら…………。
雅道さんはどうなってしまうのでしょう…………。
こんな私に、お食事を優先してくださったり、穢れることを恐れずに治療をしてくださったり…………。
こんな私にお気遣いしてくださる殿方にお会いしたことありません。
最初は、お偉い殿方だと思っていました。
そんなお方が、内宮で大陸のお着物をしていては、舞子様が疑われると思って庇いました。
しかし、今はあのお優しい方が処罰されて欲しくないと思い始めました。
…………本当はいけないことなのに。
「あら、安良子じゃない。そんなに急いでどうされたの?舞子様にお会いしないといけないのかしら?」
「申し訳ありません。急ぎの用ですので…………」
私はその上級女房さんに対して儀礼的に返事をしました。
そんな言葉に構っている暇はありません。
舞子様のお部屋はいつ見ても立派です。
私みたいな身分の者は参上することすら憚られます。
「舞子様、入ってもよろしいでしょうか?」
「良いわよ」
閉じられた御簾を上げます。
舞子様は、一馬帝天様とのお子様をご懐妊されていて、肘掛けに身を預けておられます。
「安良子、腕は大丈夫なの?」
「大丈夫でごさいます。お手を煩わせてしまい、申し訳ありません」
「いいのよ」
舞子様の笑顔はいつでも素敵です。
「別に何もなくても来ていいのよ?」
「ありがたき幸せでございます。…………私の方から少しよろしいでしょうか?」
「なになに、どうしたの?」
そうおっしゃられた舞子様は、どこか嬉しそうに感じられました。
やはり、舞子様はお優しいお方です。
「その…………侍司に推薦させていただきたい方が居るのです」
そう言った後、舞子様は身を預けていた肘掛けから、体を起こされました。
「…………安良子、今の時期に侍司なんて簡単に採用出来ないわよ?」
「承知しております。しかし、どうしても推薦させていただきたい人物がいるのです。どうか、お願いします!!」
「…………分かったわ。安良子が言うなら、それだけ相応しい人なのでしょう。まずは連れてきなさい」
「ありがとうございます…………!!」
私はすぐに、雅道さんを呼びに行こうとしました。
その勢いで、少し腕が痛みました。
「ちょっと待ちなさい、安良子」
「な、何でございましょうか…………?」
舞子様は、不安そうな表情をされておりました。
舞子様の方から呼ばれていたことを忘れていました。
もしかして、私が忘れていたことが、気に食わなかったのでしょうか…………?
私のご無礼ではあります。
舞子様に限ってそんなことはないと、信じたいですが…………。
「はい、これ」
舞子様は、お魚などが盛られたお皿を載せたおぼんを持ってこられました。
「こ、これは…………?」
「安良子、食べれてないでしょう?私も今日は少ししか食べれなかったから、食べて良いわよ。もったいないし」
「で、でも…………」
「誰も居ないし、ね?」
舞子様は素敵な笑顔で、微笑まれました。
その笑顔は、まさに一馬帝天様の正妻に相応しい。
心からそう思います。
「あ、ありがとうございます…………」
私は、舞子様のご様子を伺いながら、食べていきました。
舞子様は私の食べる姿を見て、「食べるのが遅い」だとかそんな嫌な顔をされておりませんでした。
「ゆっくりでいいからね。その人を連れてきてちょうだい」
「はい!!」
舞子様はそう言われましたが、待たせてはいけないと思い、走って雅道さんを迎えに行きました。
きっと、髪が乱れていたと思います。
戻ったとき、私の机の上にあった紙が、散らばっていました。
もしかして、誰か来てしまったのでしょうか!?
「(雅道さん、大丈夫ですか!?)」




