第4話 そんなこと気にするな
気付いたら、朝になっていた。
朝の風は、現代よりも涼しい。
目覚めも良かった。
安良子さんはまだ寝ているようだった。
昨日見た十二単は、後世に伝わる十二単より、色が控えめだった。
それでも、華やかと感じた。
けど、今は十二単の対極と言っていいほど、真っ白な服だった。
おしろいも落とされている。
失礼かもしれないが、おしろいがない方が、似合っているような気がした。
起きていないから直視出来ているが、起きていたら俺の方が恥ずかしさで、直視出来ないだろう。
「(うーん…………、おはようございます!?)」
安良子さんが目を覚ました後、驚いたように飛び起きた。
「(やだ、こんなお姿を見せるなんて…………)」
「(おはようございます…………。すみません…………)」
「(いえ、私が先に起きなかった私が悪いので…………)」
安良子さんは枕元の扇子を広げて、表に出ていった。
そういえば、この時代の女性は、内妃みたいな高貴な人を除いて、婚約者以外の男性に顔を見せるのを嫌がる傾向があるって、習ったような気がする。
…………めちゃくちゃ、失礼なことしてしもうた!?
…………でも、昨日は隠してなかったぞ?
◇ ◇ ◇ ◇
体感1時間ぐらい経っただろうか、化粧は昨日の見た目になっていた。
出来るだけ安良子さんの方を、見ないようにしていた。
「(すぐに、お食事を準備しますね…………)」
安良子さんは、昨日とは違い扇子を広げながら、顔を出した。
…………本当に悪いことしてしまったのかもしれない。
夕食の時と同じように庭先から、準備する音が聞こえる。
「あっ!!」
そんな声のあとに、食器が割れる音が響いた。
体が動いた。
「安良子、大丈夫!?」
けど、すぐに引き返した。
舞子の声だ。
「舞子様…………。大丈夫でございます…………」
「ほら、立てる?」
「舞子様、ご無理なさらず…………」
状況は分からない。
安良子さんにケガがないことを願うことしか出来なかった。
「これで全部?」
「は、はい…………。魚が駄目になってしまいましたが…………」
「これだけって…………。急だけど、来てちょうだい」
「しょ、承知致しました」
しばらくして、食事の音が聞こえてきた。
そして、俺のところに持ってくる。
「(すみません…………)」
運ばれてきたのは雑穀のご飯だけ。
「(それよりも、安良子さんに怪我はないですか!?)」
「(はい…………大丈夫です)」
大丈夫と言っておきながら、顔を隠すのを忘れて、腕をさすっていた。
「(腕、怪我してるじゃないんですか?失礼かもしれませんが、見せてください)」
「(だ、大丈夫ですって)」
「(いや、見せてください)」
「(え、あっ…………)」
明らかに大丈夫じゃない。
俺は安良子さんの袖をめくる。
幸い、ラフな服装になっていたからめくりやすかった。
「(…………やっぱり。血が出てるじゃないですか!!)」
安良子さんの腕には、擦り傷ではなく、小さな切り傷っぽいのが出来ていた。
食器か何かで切ったのだろう。
服にも、砂っぽい汚れや小さな穴が空いていた。
「(雅道さん、血に触っては穢れてしまいます!!)」
「(大丈夫です。未来人なんで)」
「…………」
まだタイムスリップを受け入れていれないが、そんなことはどうでもいい。
近くにあった手ぬぐいみたいなものを手に取った。
「(これ、使っても大丈夫ですか?)」
「(はい…………)」
消毒する術を探す。
せめて、お湯があれば…………。
「(あの、お湯って無いですか?)」
「(ちょうど、沸かしています)」
「(じゃあ、これを少しの間、浸してもらってもいいですか?)」
「(分かりました…………)」
本当は、自分で行くべきだ。
けど、存在がバレてしまってはどうしようもない。
「(…………浸してきました)」
「(ありがとうございます)」
手渡された手ぬぐいを少し冷まし、絞ってから、慎重に血が出ているところに巻いていく。
安良子さんは、巻いていく度に体を跳ねさていた。
この痛みに慣れていないのだろう。
本当は、消毒液とかが欲しかった。
けど、それは現代の技術や。
この時代にあるわけがない。
「(はい、これで大丈夫です)」
「(…………ありがとうございます)」
安良子さんは、何かを確かめるようにまじまじと見つめている。
どうしたのだろうか?
「(本当に、大丈夫なのですか?穢れていませんか?)」
「(大丈夫です。2026年では、そういうふうに信じられていませんから)」
「(そう、ですか…………。2026年ではそういうふうになっているのですね…………)」
安良子さんは腕をさすりながら、驚いた様子をしていた。
「(ありがとうございます。雅道さんにこんなことさせてしまって…………申し訳ありません)」
安良子さんは俯いていた。
謝られる理由が分からない。
「(これぐらいしか出来ることがないので、そんな謝らなくても…………)」
「(お手を煩わせてしまったので謝りますよ…………)」
「(匿ってもらっているのはこっちなんで、出来ることがあったらなんでも言ってください)」
「(…………ありがとうございます)」
安良子さんは、扇子で顔全体を隠した。
「(早くお食べください。冷めてしまいます)」
「(いえ、安良子さんが食べてください)」
「(え!?雅道さん、昨日からあまり食べてらっしゃらないのでは…………?)」
「(いつも朝は食べないんです)」
ウソだ。
けど、安良子さんの細さをほっとけない。
「(本当に食べてらっしゃらないのですか?)」
「(はい)」
「(では…………)」
安良子さんは、恐る恐る残り少ないご飯を口に運んでいた。
一口一口は小さいものの、ニ口、三口ほどで食べ終えていた。
それだけ、食事が散らばったのだろう。
「(…………この後は、舞子様のところに行ってきます。もし、誰かが来たらこれで隠れてください)」
安良子さんから、5枚ほどの布と大量の本を渡された。
なるほど、本で壁を作って布で隠れろということか。
「(分かりました。よろしくお願いします)」




