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安良子の表と裏-一族の繁栄と政治闘争、その陰で交錯する人々-  作者: 綿ダッコ
第6章〜政敵〜

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第45話 接敵

 次の日、舞子は普通にしていた。


 …………多分、無理はしているだろうが。


「あー、あー」「うー」


 舞子に抱かれた一子と桜晴が、話すように交互に発声している。


「安良子、清見女房、少しの間だけ見といてくれる?」


「「承知致しました」」


「「おぎゃー、おぎゃー」」


 舞子から離れた2人の泣き声が響く。


「ちょっとだけ待っててね」


 舞子は2人の頬をなぞった。


 それでも、泣き止む様子はない。


「雅道、行きましょうか」


「はい」


◇ ◇ ◇ ◇


「…………雅道、八子さんは何を伝えたかったのかしらね」


「…………分からないですね」


 部屋から一変して、表情が曇った。


 やっぱり、無理をしていたのだろう。


「……あら、然子さん、ごきげんよう」


 東屋に、これまた豪華な十二単を纏った人が来た。


 然子…………って、八子の妹じゃね!?


 でも、なんでここに…………。 


 舞子は極力、自然に挨拶をしようとしていたが、八子の時より、どこかぎこちない。


「舞子様、ごきげんよう。舞子様もお庭を見に来られたのですか?」


「え、ええ」


 やっぱり、ぎこちない。


「あちらのお部屋でお話でもしませんか?何かの縁ですし」


 然子は依然として、余裕そうな笑顔だった。


 少なくとも、年長者に見せるような余裕ではない。


◇ ◇ ◇ ◇


 部屋に入った。


 その部屋は華美な装飾もされていない部屋だった。


 外はよく晴れていたはずなのに、この部屋には光が届きにくくなっている。


 そんな唯一の光が届いてくる御簾側に、俺たちは立っている。


「舞子様、ご相談なのですが——」


 然子は外で見たときとは違い、どこか不敵な笑みを浮かべていた。


挿絵(By みてみん)


 正直に言って、怖い。


「姉の子、桜晴を返してはいただけませんか?」


 その不敵な笑みのまま、舞子に迫った。


「桜晴は皇太子様ですよ。なぜ、然子さんなんかに…………」


 当たり前だ。


 いくら、姉の子とはいえ、皇太子だ。


 現代だったら、通用するかもしれないが、ここでは違う。


「それなら、心配はございません。私も一馬様の妃なんですから」


 …………は?


 いや、一馬帝天の内妃は八子と舞子だけやぞ。


 現代でも習うことだ。


「内妃ではないですが、引き取る資格はあるはずですよ」


 舞子は萎縮しているように見えた。


 何も言えていない。


「それだけでございます」


 絶対にそれだけじゃない。


 たしかに、それが本当なら論理的には合っている。


 絶対、何か裏がある。


「元々は姉の子でございます」


 そうやけど…………。


「さあ、早く」


 然子が舞子に一歩近づいた。


 俺は鞘と柄に手を掛けて、舞子の近くに寄った


 でも、相手も妃な以上、斬ることは出来ない。


 抑止にはなって欲しいという期待からだった。


「……それは出来ません」


 思わず、舞子の方を見た。


 その顔は萎縮しているようには見えなかった。


 覚悟を決めている顔だ。


「一馬様からのご命令です」


「じゃあ、私も一馬様からのご命令を持っているとしたら、どうされますか?」


 然子は、依然として不敵な笑みを浮かべ続けている。


 もはや、こっちの考えが見透かされているような気でさえ、してくる。


「っ、それでも——」


「舞子様ー?」


 突然、御簾が上げられると同時に、安良子さんの声がした。


 ちょうど良いタイミングだ。


「漢詩のお時間なのに…………。…………お邪魔しましたか?」


「安良子、ごめんね。すぐに行くわ」


「……承知致しました」


 そう言って、安良子さんはそっと御簾を下げた。


 これで有耶無耶に出来れば…………。


「そういうことだから」


 舞子は愛想笑いを浮かべて、部屋を後にした。


 俺は、舞子のことを気にかけた。


 にしても、然子のあの不敵な笑みが脳裏に焼き付いて、離れない。


 夢にも出てきそうだ。


 桜晴を返せ、か…………。


 普通のことなんだろうけど、なんかあかん気がする。


 決めるのは舞子やけど、もし意見が出来るのなら、全力で止める。


「(……返す、ね)」


 舞子は後ろにいる俺にだけ、聞こえる声量で、呟いた。

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