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安良子の表と裏-一族の繁栄と政治闘争、その陰で交錯する人々-  作者: 綿ダッコ
第5章〜帝天と八子〜

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第40話 移動1日目

 翌日、引っ越しの時より装飾が控えめな2台の牛車があった。


 先頭の牛車には、舞子と一子を抱えている安良子さんと清見女房。


 その周りを俺と巳之助さんが守る。


 荷物は2台目の牛車で後から運ぶらしい。


 お忍びなのだろうか、内宮の裏口から出る1台の牛車に対しての見送りは、基晴と治輔だけだった。


「…………気をつけて行ってくるのだよ」


 そんな基晴の言葉に、舞子は返しもせずに出発してしまった。


 しばらくの間、木陰に沿って、引っ越しの時より早めのスピードで進む。


 会話はない。


 身バレを防ぐためでもあるだろう。


 けどそれ以上に、喋れる雰囲気とは到底思えない。


 牛車は、都の端から2つ目の通りを進む。


 時々、話し声が聞こえてくる。


 八子の失踪の噂は都中に回っているらしい。


 反応は様々だ。


 舞子は喜んでいるだの、帝天も可哀想だの、物我一族は没落するだの、色々視点が違う。


 もはや、未来の知識ですら、予測は出来ない気がする。


 過去改変が起きても何もおかしくない。


「(……少し急いでちょうだい)」


 中から、舞子の小さな声で牛車のスピードが上がった。


 少しペースが乱れたが、全然追いつける。


 民衆の噂話が舞子の耳にも入っているのだろうか?


◇ ◇ ◇ ◇


 牛車は山に入った。


 めちゃくちゃ神秘的だった。


 現代だったら、有名観光地になっていただろう。


 大体の土地勘だが、現代でここはもう市街地になっていたはず。 


「キャン、キャン!!」


 すると、野良犬が前からすごい勢いで吠えてきた。


挿絵(By みてみん)


 それに驚いた牛が暴れ、牛車が傾く。


 牛車を管理する人は牛を強引に制止しようとするが、それすら意味がない。


 その野良犬は引く気はないらしい。


「雅道さん、これを!!」


 牛車から一つの包みが渡された。


 中には黒っぽい丸い何かが一つ。


 とにかく、その一つを犬の前に投げた。


 犬は唸りながら、それの匂いを嗅いだかと思えば、がっつき始めた。


 すると、満足したかのように、どこかへ走り去っていった。


「安良子さん、これは一体…………」


「舞子様によると、犬の大好物だそうです。舞子様が昨日作られたそうです」


 舞子が作ったのか。


 というか、そんな知識どこから…………。


「舞子様、ありがとうございます」


「…………いいのよ」


 いつもの言葉遣いだった。


 けど、声色は到底、いつもと違っていた。


◇ ◇ ◇ ◇


 山の麓にあった宿に泊まった。


 宿主は、舞子の存在に気付かなかった。


 けど、貴族の一行ってことはさすがにバレた。


 舞子たちが泊まる部屋の警備を巳之助さんに任せる。


 俺たち侍司の仕事は、牛車の周りと舞子たちの泊まる部屋の警備。


 俺が寝ている部屋は、舞子たちの隣。


 隣からは、物音一つ聞こえない。


 もう寝てしまったのだろうか?


 俺は明日に備えて、早めに目を閉じた。


 月明かりは雲にかかって、あまり入ってこなかった。

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