第40話 移動1日目
翌日、引っ越しの時より装飾が控えめな2台の牛車があった。
先頭の牛車には、舞子と一子を抱えている安良子さんと清見女房。
その周りを俺と巳之助さんが守る。
荷物は2台目の牛車で後から運ぶらしい。
お忍びなのだろうか、内宮の裏口から出る1台の牛車に対しての見送りは、基晴と治輔だけだった。
「…………気をつけて行ってくるのだよ」
そんな基晴の言葉に、舞子は返しもせずに出発してしまった。
しばらくの間、木陰に沿って、引っ越しの時より早めのスピードで進む。
会話はない。
身バレを防ぐためでもあるだろう。
けどそれ以上に、喋れる雰囲気とは到底思えない。
牛車は、都の端から2つ目の通りを進む。
時々、話し声が聞こえてくる。
八子の失踪の噂は都中に回っているらしい。
反応は様々だ。
舞子は喜んでいるだの、帝天も可哀想だの、物我一族は没落するだの、色々視点が違う。
もはや、未来の知識ですら、予測は出来ない気がする。
過去改変が起きても何もおかしくない。
「(……少し急いでちょうだい)」
中から、舞子の小さな声で牛車のスピードが上がった。
少しペースが乱れたが、全然追いつける。
民衆の噂話が舞子の耳にも入っているのだろうか?
◇ ◇ ◇ ◇
牛車は山に入った。
めちゃくちゃ神秘的だった。
現代だったら、有名観光地になっていただろう。
大体の土地勘だが、現代でここはもう市街地になっていたはず。
「キャン、キャン!!」
すると、野良犬が前からすごい勢いで吠えてきた。
それに驚いた牛が暴れ、牛車が傾く。
牛車を管理する人は牛を強引に制止しようとするが、それすら意味がない。
その野良犬は引く気はないらしい。
「雅道さん、これを!!」
牛車から一つの包みが渡された。
中には黒っぽい丸い何かが一つ。
とにかく、その一つを犬の前に投げた。
犬は唸りながら、それの匂いを嗅いだかと思えば、がっつき始めた。
すると、満足したかのように、どこかへ走り去っていった。
「安良子さん、これは一体…………」
「舞子様によると、犬の大好物だそうです。舞子様が昨日作られたそうです」
舞子が作ったのか。
というか、そんな知識どこから…………。
「舞子様、ありがとうございます」
「…………いいのよ」
いつもの言葉遣いだった。
けど、声色は到底、いつもと違っていた。
◇ ◇ ◇ ◇
山の麓にあった宿に泊まった。
宿主は、舞子の存在に気付かなかった。
けど、貴族の一行ってことはさすがにバレた。
舞子たちが泊まる部屋の警備を巳之助さんに任せる。
俺たち侍司の仕事は、牛車の周りと舞子たちの泊まる部屋の警備。
俺が寝ている部屋は、舞子たちの隣。
隣からは、物音一つ聞こえない。
もう寝てしまったのだろうか?
俺は明日に備えて、早めに目を閉じた。
月明かりは雲にかかって、あまり入ってこなかった。




