第39話 何が八子よ!!
「……致し方ないことです。桜晴様のことは、我が子のように大切に育てますから」
「八子…………」
舞子が励ますものの、一馬帝天は八子の名前を淡々と言うだけだった。
…………どれほど、愛していたのだろうか?
というか、舞子の顔がどこか変なような気がする。
表情自体は別にあってもおかしくない表情だ。
けど、本能的に違うと思ってしまう。
◇ ◇ ◇ ◇
朝になるまでそれは続いた。
正直、聞かされるだけのこっちはノイローゼになりかけた。
「一馬様、私はこれで戻らせていただきます」
一馬帝天は何も言わず、そのまま見送りもせずにいた。
俺は舞子の後ろをついて行く。
舞子は何も喋らない。
いつもなら、気を利かして、何か喋ってくれる。
それは、内宮に戻ってからも一緒だった。
「「舞子様、おかえりなさいませ」」
一子と桜晴をお世話していた清見女房と安良子さん、和子さんが出迎える。
それから、数名の上級女房たちが入ってくる。
「「舞子様?」」
舞子は到底似つかないほど、いつもよりも乱暴に座った。
正直、腰が痛くないのかと心配になる。
「…………清見女房、あの文を持ってきてちょうだい」
「……承知致しました」
清見女房は少し困惑しながら、清見女房が夜に倒れながら置こうとした手紙を持ってきた。
そして、それを舞子に手渡す。
舞子はその手紙の封も開けず、両手で持ち、何もしない。
しかし、手紙がうねってシワができるのが分かる。
「何が八子、八子よ!!私なんかどうでもいいんでしょ!!」
舞子はそれを突然、怒鳴りながら袋ごとビリビリに破き始めた。
「「「「舞子様!?」」」」
「いっつも、いっつも!!」
その部屋に居た全員が舞子を抑えようと必死になっていた。
しかし、俺は蹴り飛ばされてしまった。
下腹部が痛む。
危うく、みぞおちに入るところだった。
このまま抑えるのはムリだと思って、ビリビリに引き裂かれた手紙を集めた。
粗く引き裂かれていたから、ギリギリ読めた。
その手紙の内容は、行幸の順序変更に関することだった。
その手紙は、舞子の母親からの手紙だった。
——八子が優先されたのは、八子の父、物我徨開の指示によるもの。
簡単に言えば、そういうことらしい。
つまりは、徨開が、一馬帝天に圧力をかけた…………ということか?
「うるさい、出ていきなさい!!」
一子と桜晴の甲高い泣き声に混じって、舞子の激昂した声が聞こえてきた。
それと同時に、舞子のことを止めていた人たちが全員、入り口の方へ突き飛ばされ、廊下に強制的に出させられた。
その後、舞子は一子を抱えて、さっきと同じように乱暴に座った。
抱かれた一子はすぐに泣き止んだが、放置された桜晴は依然として泣いていた。
俺は、桜晴を抱えて必死にあやした。
あやしていると、疲れたのか一子も桜晴も寝てしまった。
俺は桜晴を布団に置き、舞子の方へ体を向けた。
「ま、舞子様…………」
舞子の目は、一子から俺へ向けられた。
その目は、俺すらも廊下へ弾き飛ばされかねないように感じた。
「な、なぜそのようなことを…………?」
恐る恐る聞きながら、落ち着かせる方法を探した。
ちょうど、お茶を淹れるセットがあったから、それにお茶を淹れて、舞子に渡す。
舞子はそれを乱暴に取って、一気に飲み干す。
舞子らしくない。
どっちかって言うと、家臣に裏切られた戦国大名の方がその姿は近い。
「…………ありがとう、雅道」
ようやく言葉を発した舞子は、少し落ち着きを戻したのか、落ち込んだ様子になった。
「その手紙を読んだのでしょう?」
もしかして、読んでいたことに気付いてる?
だとしたら、観察力が半端ない。
「は、はい…………」
「…………城楽に行くわよ」
城楽…………。
なんで、物我家の支配地に行くんや…………?
「舞子様!!」
廊下に出された人達と、巳之助さんが入ってきた。
「…………安良子と清見女房、和子、巳之助以外は帰省しなさい。私が良いって言うまでね。それと、今言った四人以外は下がりなさい」
なんでその4人…………?
「…………城楽に行くわ。安良子、清見女房、巳之助は同行してくれる?和子は、ここで桜晴の面倒を見てくれる?」
…………本当に心の内が分からん。
「…………なぜ、城楽に?」
口を開いたのは清見女房だった。
清見女房は、時々大胆な行動をする。
意外な一面だった。
「いいから、同行してちょうだい」
舞子は少し声を荒げた。
さっきも含めてここまで強く当たるのは珍しい。
「「「「承知致しました…………」」」」




