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安良子の表と裏-一族の繁栄と政治闘争、その陰で交錯する人々-  作者: 綿ダッコ
第5章〜帝天と八子〜

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第39話 何が八子よ!!

「……致し方ないことです。桜晴様のことは、我が子のように大切に育てますから」


「八子…………」


 舞子が励ますものの、一馬帝天は八子の名前を淡々と言うだけだった。


 …………どれほど、愛していたのだろうか?


 というか、舞子の顔がどこか変なような気がする。


 表情自体は別にあってもおかしくない表情だ。


 けど、本能的に違うと思ってしまう。


◇ ◇ ◇ ◇


 朝になるまでそれは続いた。


 正直、聞かされるだけのこっちはノイローゼになりかけた。


「一馬様、私はこれで戻らせていただきます」


 一馬帝天は何も言わず、そのまま見送りもせずにいた。


 俺は舞子の後ろをついて行く。


 舞子は何も喋らない。


 いつもなら、気を利かして、何か喋ってくれる。


 それは、内宮に戻ってからも一緒だった。


「「舞子様、おかえりなさいませ」」


 一子と桜晴をお世話していた清見女房と安良子さん、和子さんが出迎える。


 それから、数名の上級女房たちが入ってくる。


「「舞子様?」」


 舞子は到底似つかないほど、いつもよりも乱暴に座った。


 正直、腰が痛くないのかと心配になる。


「…………清見女房、あの文を持ってきてちょうだい」


「……承知致しました」


 清見女房は少し困惑しながら、清見女房が夜に倒れながら置こうとした手紙を持ってきた。


 そして、それを舞子に手渡す。


 舞子はその手紙の封も開けず、両手で持ち、何もしない。


 しかし、手紙がうねってシワができるのが分かる。


「何が八子、八子よ!!私なんかどうでもいいんでしょ!!」


 舞子はそれを突然、怒鳴りながら袋ごとビリビリに破き始めた。


挿絵(By みてみん)


「「「「舞子様!?」」」」


「いっつも、いっつも!!」


 その部屋に居た全員が舞子を抑えようと必死になっていた。


 しかし、俺は蹴り飛ばされてしまった。


 下腹部が痛む。


 危うく、みぞおちに入るところだった。


 このまま抑えるのはムリだと思って、ビリビリに引き裂かれた手紙を集めた。


 粗く引き裂かれていたから、ギリギリ読めた。


 その手紙の内容は、行幸の順序変更に関することだった。


 その手紙は、舞子の母親からの手紙だった。


——八子が優先されたのは、八子の父、物我徨開(もが おうはる)の指示によるもの。


 簡単に言えば、そういうことらしい。


 つまりは、徨開が、一馬帝天に圧力をかけた…………ということか?


「うるさい、出ていきなさい!!」


 一子と桜晴の甲高い泣き声に混じって、舞子の激昂した声が聞こえてきた。


 それと同時に、舞子のことを止めていた人たちが全員、入り口の方へ突き飛ばされ、廊下に強制的に出させられた。


 その後、舞子は一子を抱えて、さっきと同じように乱暴に座った。


 抱かれた一子はすぐに泣き止んだが、放置された桜晴は依然として泣いていた。


 俺は、桜晴を抱えて必死にあやした。


 あやしていると、疲れたのか一子も桜晴も寝てしまった。


 俺は桜晴を布団に置き、舞子の方へ体を向けた。


「ま、舞子様…………」


 舞子の目は、一子から俺へ向けられた。


 その目は、俺すらも廊下へ弾き飛ばされかねないように感じた。


「な、なぜそのようなことを…………?」


 恐る恐る聞きながら、落ち着かせる方法を探した。


 ちょうど、お茶を淹れるセットがあったから、それにお茶を淹れて、舞子に渡す。


 舞子はそれを乱暴に取って、一気に飲み干す。


 舞子らしくない。


 どっちかって言うと、家臣に裏切られた戦国大名の方がその姿は近い。


「…………ありがとう、雅道」


 ようやく言葉を発した舞子は、少し落ち着きを戻したのか、落ち込んだ様子になった。


「その手紙を読んだのでしょう?」


 もしかして、読んでいたことに気付いてる?


 だとしたら、観察力が半端ない。


「は、はい…………」


「…………城楽(じょうらく)に行くわよ」


 城楽…………。


 なんで、物我家の支配地に行くんや…………?


「舞子様!!」


 廊下に出された人達と、巳之助さんが入ってきた。


「…………安良子と清見女房、和子、巳之助以外は帰省しなさい。私が良いって言うまでね。それと、今言った四人以外は下がりなさい」


 なんでその4人…………?


「…………城楽に行くわ。安良子、清見女房、巳之助は同行してくれる?和子は、ここで桜晴の面倒を見てくれる?」


 …………本当に心の内が分からん。


「…………なぜ、城楽に?」


 口を開いたのは清見女房だった。


 清見女房は、時々大胆な行動をする。


 意外な一面だった。


「いいから、同行してちょうだい」


 舞子は少し声を荒げた。


 さっきも含めてここまで強く当たるのは珍しい。


「「「「承知致しました…………」」」」

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