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安良子の表と裏-一族の繁栄と政治闘争、その陰で交錯する人々-  作者: 綿ダッコ
第5章〜帝天と八子〜

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第32話 無礼講だよ!!

 俺は制服の包みと同じところに、香の入った箱を置いた。


 その後、安良子さんを待ってすぐに舞子の元へ戻った。


「あっ、そうだ!!宴を開きましょう」


挿絵(By みてみん)


 舞子は何かを思いついたように、宴の開催を宣言した。


 部屋にいたのは俺たちの他に、香合わせに参加していない女房が10人ほど。


 全員が急なことに戸惑っていた。


「今なら、準備は間に合うでしょう?そんな大規模にはしないから」


 その困惑を察知したのか分からないが、少し上目遣いで何かをお願いする子供のような感じで、部屋にいる人たちを見ていた。


 舞子みたいな人でもそんな表情するんやな…………。


「お願い」


 再度、同じように頼まれる。


 一人の上級女房が、観念したかのように口を切った。


「……承知致しました」


 舞子がこんなにも駄々をこねる、じゃないけど、急なことを頼み込むのは珍しい。


 仕え始めてまだまだやけど、そんな性格じゃないってことは分かる。


 なんでこんなにも急に…………。


◇ ◇ ◇ ◇


 準備は急いで行われた。


 そして、夜になってもお世話係や女房しか居なかった。


 そもそも、それ以上に座れる場所がない。


「さぁ、今日は無礼講よ。明日のことなんか気にせずに楽しんでちょうだい」


 大規模じゃないって、このことか。


 身分が高すぎる人たちをもてなさくていいから、大掛かりにしなくてもいい。


 舞子は位高すぎるけどね…………。


 無礼講とはいえ、全員が舞子に向かって頭を下げた。


 その後は各々自由に食事を楽しんだり、お酒を呑んだりしていた。


 俺が案内されたのは舞子の本当に近い席だった。


 もちろん俺にもお酒が出されたが、呑めなかった。


 舞子に何かあってはいけないし、そもそも初酒をタイムスリップ中にするのは良くない気がする。


 その代わり、舞子にお酒を注ぐ。


 色んな意味で良いのか分からなかったけど…………。


 舞子は嬉しそうな表情で、ちょっとずつ呑んでいた。


 せめて、この宴の最中では何も起こらないといいけどな…………。


「雅道」


「はい、何でございましょうか?」


「もう、無礼講って言ったでしょう。敬語なんて要らないわよ」


 舞子は酔っ払っているわけではなさそうだったが、いつもの笑顔に磨きがかかっているような気がした。


「も、申し訳ありません…………」


「まぁいいわ。雅道、仕えるようになって、困ったことはある?」


「え、えっと…………」


 俺は言い渋った。


 無礼講とはいえ、愚痴を言って良いものなのか?


「遠慮せずに言ってちょうだい」


 その間も舞子は、ニッコニコの笑顔で、俺の返事を待っていた。


「…………強いていうなら、礼法が合っているのかよく分からないことでしょうか」


 感覚や周りに合わせてやってきているが、合っているのか分かっていない。


 正直、何回も失礼を働いている気がする。 


「え、それだけ?」


 舞子は、急にキョトンとした表情で聞いてきた。


 そんな意外なことだったか…………?


「は、はい…………」


「何も礼法を欠かしていないわよ?むしろ、周りがやらないこともしているぐらいだから、好印象だけれど…………」


 え、むしろ多いぐらいやと…………?


 そんなことあります?


「そ、そうだったんですね…………」


「そうよ。だから、誇りにしなさい。他に心配なことがあったら言ってね。せっかく側に居るんだから」


「ありがとうございます」


 なんか、不思議な感覚や。


 タイムスリップなんてあり得ないはずやのに、こっちの時代で育ったような感覚になる。


「ましゃ、みちさん」


「はい、…………え」


 声のしたほうを見ると、フラフラしながら歩いてくる安良子さんが居た。


 顔が真っ赤だ。


 酔っ払っているのか…………?


「ましゃ——」


 安良子さんは俺の膝の上で倒れた。


 そして、すぐに寝息をかいた。


「安良子がこんな呑むなんて珍しいわね…………」


「そうなんですか?」


 舞子は寝息をかいている安良子さんを覗き込んで、不思議そうな顔をしていた。


 確かに、お酒を呑むイメージはない。


「いつもは恐れ多いからって、呑まないのだけれど…………無礼講って言ったからかしら?」


 すると、安良子さんの目がゆっくりと開いた。


 もう起きたのか…………?


「まいししゃま…………」


 目を開き、安良子さんはムクリと起き上がり、舞子の方へ向かっていった。


 その姿はまるで、血色のあるゾンビみたいだった。


「ちょ、ちょっと、安良子さん!?」


「安良子、止まって!?」


 そう言っても、安良子さんが止まる気配はない。


 いつの間にか、その様子に部屋の注目が集まっていることが分かった。


 俺は少し躊躇ったが、安良子さんが失礼を働かないように、もうすぐ舞子に届くか瀬戸際のところで、距離を取らせることに成功した。


「まいししゃまに、ようじがあるんです!!おはなしくだしゃい!!」


 安良子さんはすごい勢いで何回も拳を振り出していた。


 何回も、俺の顔面に当たりそうになる。


「あ、安良子さんの部屋に連れていきます!!」


 俺は安良子さんをおんぶし、何回も頭殴られながら、部屋を後にした。


 その間も安良子さんは叫び続けていた。


 部屋の中は完全に時の流れが止まっていた。

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