第33話 ベロンベロンだー
安良子さんは部屋に着いた瞬間、眠りについた。
何回も叩かれて、まだ少し痛みが続く。
安良子さん、酔うとあんな風になるんやな…………。
「(雅道、安良子は大丈夫?)」
「(舞子様…………)」
「(雅道も、何回も叩かれてたけど、大丈夫?)」
「(はい、なんとか…………)」
まぁ、痛みはまだあるんですけどね…………。
「(本当に大丈夫?)」
舞子は心配した顔で俺の頭を撫でてきた。
「(え…………?)」
なんだ、この複雑な気持ちは…………。
舞子にこのようなことをさせてはいけない。
けど、なんだか安心する。
この2つが脳内で喧嘩している。
「(た、大したことではありませんから…………)」
俺は、少し後退りした。
このようなことをさせてはならない、その気持ちが勝った。
「(そう…………何かあったら、絶対に言うのよ)」
「(しょ、承知いたしました)」
「(それと、今夜は安良子の様子を見ておいて。心配だから)」
◇ ◇ ◇ ◇
「う、うーん…………」
安良子さんは乱れた髪のまま起きてきた。
俺はちょくちょく寝ながらも、安良子さんの様子を見守っていた。
安良子さんは寝てから、寝返り一つ取っていなさそうだった。
1回も目を覚ましていないのだろう。
「…………って、なぜ雅道さんがいらっしゃるのですか!?」
「昨日、酔っ払って、暴れてたんですよ…………。というか、体調はどうですか?」
「…………え?」
安良子さんは何も覚えてない様子だった。
まぁ、あそこまで酔っ払ってたら覚えてないのも無理ないか…………。
「も、もしかして、雅道さんにご無礼をしてしまいましたか!?」
「ま、まぁ、何回も叩かれましたけど…………どうってことないですよ」
いや、正直に言って、痛かった。
けど舞子を守ることが俺の職務やし、それよりも安良子さんが処罰されたら、俺が1人でやって行けるか分からない。
まだ元の時代に帰れる方法も分からないのに…………。
「も、申し訳ありませんでした…………!!」
「とにかく、あのまま舞子様に触れなくて良かったです。俺は大丈夫なので」
「ま、舞子様にも…………!?」
「ま、まぁ…………。こうやって、俺が居るわけですから…………」
安良子さんの顔は明らかに青ざめていた。
もはや、倒れてしまうのではないかと思うほどに。
「すぐに謝罪に行かないと…………」
「そんなに急いだら——」
「あっ…………」
部屋中。
いや、御所中に響いたかと思うほどに、安良子さんが自分の十二単に躓いてコケた。
御所用の服を着ていた俺は、咄嗟に動けなかった。
「いてて…………」
「大丈夫ですか!?」
「は、はい…………動けますので…………」
安良子さんはそう言いながらも、立ちにくそうだった。
俺は肩を貸す。
前もそうだった。
安良子さんは大丈夫じゃないことまで大丈夫と言ってしまう。
「安良子、大丈夫!?」
安良子さんを立ち上がらせている間に、舞子がドタドタと到底出さなそうな足音を立てて、やって来た。
「「ま、舞子様!?」」
「すごい音したけど、大丈夫!?」
「ま、舞子様…………急に走るのはお辞めください…………」
後ろからは、清見女房がやって来た。
そう言えば、和歌の授業が入ってると言ってたな。
「昨日に続き、今日までお手を煩わせてしまって申し訳ありません…………!!」
安良子さんはせっかく立てたのに、すごい勢いで土下座をした。
足は痛くないのだろうか…………?
「大丈夫だから、今日はこのまま部屋に居ていいわよ。一子は私がお世話するから」
流石の舞子もこの状況には、アワアワしている。
俺も平然を装っているが、脳の処理が追いついていない。
「いえ、私のせいで舞子様にご負担は掛けられません」
「そう言って、安良子に何かあったら、私まで悲しいのよ」
舞子の目は本当だった。
お世辞でも何でもない。
「足を挫いただけですから、大丈夫でございます」
その心配を吹き飛ばすように、安良子さんの目も本気だった。
確固たる意志があるのだろう。
「…………そう。せめて、雅道に支えてもらいなさい。雅道、良いわね?」
「承知致しました」
今更、断わる理由なんかない。
泥酔した安良子さんをおんぶしたのだから。
「ゆっくり来なさい」
そう言って、舞子は戻って行った。
ゆっくり来なさいとは言っても、服はほとんど昨日のままだから、用意することはあまりない。
「…………では、よろしくお願いします」
「はい」
俺は安良子さんをおんぶした。
疲れのせいか、少し重く感じる。
けど、安良子さんの身に何かあるよりマシだ。
「申し訳ありません…………雅道さん」
「これも俺の仕事ですよ」
こんな公で、安良子さんが居ないといけないとは言えない。
少し、気恥ずかしい。
もちろん、そんな意味は無いのだが…………。
「失礼いたします。安良子と雅道、参上いたしました」
俺は部屋に入ってから、安良子さんを降ろした。
部屋には沢山の女房が居て、昨晩のことがあってか、少し白い目で俺たちを見ていた。
「…………早かったわね。本当に大丈夫なの?」
「はい、本当に申し訳ありませんでした…………」
「いいのよ。それよりも、歌合するわよ」
歌合…………。
宮中恒例の暇つぶし方法兼、実力を測るためのものだと聞いたことがある。
「そうね…………清見女房と安良子が対決してちょうだい」




