第21話 ……しょうがないわね
「なっ…………」
舞子の方が先に産んだのに、後回しにするやと…………。
おかしいぞ。
史実では、一子の家系が、帝天を継いでいく。
そう習う。
もしかして、史実改変…………?
「…………それは本当のことなのよね?」
「噂ではございますが、帝天側の侍司が引き揚げていることから、可能性は高いかと…………」
そこから、誰も話を切り出せない。
安良子さんと和子さんは、御簾の方を見て固まっている。
舞子は、下を向いていて表情が分からない。
けど、何となく予想できる。
「…………それだけなの?」
「は、はい…………」
「じゃあ、下がりなさい。ありがとう」
その男性はどこかに戻って行った。
それでも空気は変わらない。
俺も御簾の前で立ったまま、動けない。
「…………行事も宴の予定も狂うわね」
表情はまだ分からない。
けど、声色はもはやいつも通りじゃない。
「…………でも、狂ってしまったものは仕方ないわね。よし、私たちだけで宴をしましょう」
頭を下げるしか無かった。
「(最近、お会い出来ていなかったのに…………)」
舞子は独り言のつもりだったのかもしれないけど、よく聞き取れた。
でも、何を言えばいいか分からない。
「和子、私たちだけで宴を明日することを、他の女房に伝えてくれる?」
「…………承知致しました」
「安良子、雅道はそこの出入り口で警備してちょうだい」
「「…………承知致しました」」
「巳之助、居るかしら?」
「はい、舞子様」
「誰も入れないでちょうだい。雅道たちもね」
「「「…………承知致しました」」」
指示を出していた舞子は普通だった。
けど、無理していることぐらいは分かった。
「和子、ありがとう。私が抱いておくわね」
和子さんは一子を舞子に渡して、走って廊下に出ていった。
俺と安良子さんも言われた通りに、警備をする。
「(舞子様…………)」
「(…………大丈夫ですかね)」
警備しろと言われても、舞子のことが気になってしょうがない。
すると、部屋の中から、布が擦れる音が聞こえてきた。
何をしているのだろうか?
音が止まり、しばらく静寂が続いた。
そして、部屋の中から声が聞こえてきた。
——松の木の
舞子の静かな声が、聞こえてくる。
多分、和歌だ。
意味はあまり読み取れない。
けど、悲しい感じの歌であることは何となく察せた。
「(舞子様…………)」
歌を詠み終わったあと、すすり泣く音が聞こえてきた。
いや、すすり泣くを越している気がする。
逆に、このくらいで済んでいることが不思議なくらいだ。
もし俺が同じ立場なら、聞いた時点で大泣きしている。
史実改変が起きないとええんやけど…………。
◇ ◇ ◇ ◇
結局、日が落ちるまで舞子は、部屋に誰も立ち入れさせなかった。
そして、いつも夕飯を食べている時間に、立ち入り禁止は解除された。
「四人とも、ありがとうね。和子以外は明日の朝まで居てくれる?」
「「「「承知致しました」」」」
舞子はまた何ともないようにしていた。
でもさっきより、無理していることが顔に出ている。
「舞子!!」
外から基晴の声が聞こえてきた。
スライディングをするように部屋に入ってきた。
「舞子…………」
基晴は、声が出ていなかった。
伝えたいことはたくさんあるのだろう。
けど、喉に張り付いて出ていないように見えた。
「……お父様、どうされたのですか?」
舞子は、無理やりの笑顔で基晴を見ていた。
「お父様が案ずるところではございません。必ず、お父様のお気持ちに添えてみせます」
思わず、胸が締め付けられる。
未来人として、「大丈夫ですから」と言って、安心させてあげたいと思ってしまう。
けど、本当に史実改変が起きて、このまま舞子が基晴の気持ちに添えないかもしれない。
どっちにしろ、未来人ということを明かせない。
「…………そうか」
基晴はそれだけ言って出ていってしまった。
「もう寝てしまうから、巳之助と雅道は少しの間だけ外に出ておいてね」
外に出たはいいものの、あの巳之助さんとすら会話が出来ない。
「(…………雅道さん、どうぞ)」
部屋に入ると、舞子と一子が隣り合って寝ていた。
「(舞子様、無理しておりました)」
「(そうですよね…………)」
逆に、バレバレとはいえ笑顔を出せていたこと自体、どうやっているのか聞きたいぐらいだ。
「(基晴様…………!?)」
「(え?)」
後ろを向くと、基晴が立っていた。
さっき、来たばっかりやぞ?
「(基晴様、どうされたのですか?)」
「(ちょっとな)」
基晴は真っ直ぐ、舞子の方へ行った。
「(舞子…………ごめんな)」
基晴は寝ている舞子の頬を少し撫でたあと、しばらく動かなかった。




