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安良子の表と裏-一族の繁栄と政治闘争、その陰で交錯する人々-  作者: 綿ダッコ
第3章〜一大事〜

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第18話 難航

 「舞子様、頑張ってください!!」


 部屋の真正面にも仕切りがあって、詳しくは見えない。


 けど、床に所々、乾燥した米があることが分かった。


 今も絶え間なく落ちてきている。


 きっと、祈祷のためだろう。


 …………じゃあ、甘んじて受け入れよう。


◇ ◇ ◇ ◇


「舞子様、あともう少しですよ!!」


 いつの間にか、夜中になっていた。


 俺はその間、ずっと祈っていた。


 というか、それしか出来ない。


 米が当たる感覚にも、お経の声にも慣れた。


「おぎゃー、おぎゃー」


「舞子様、お産まれになりましたよ!!」


 すると、力強い産声が聞こえてきた。


 良かった…………。


 …………でも、舞子の声が聞こえてこない。


 大丈夫なのだろうか…………。


「雅道、今から、基晴様と治輔様は通して良いと巳之助に伝えてちょうだい」


「承知致しました」


 俺はそのことを巳之助さんに伝えた。


 その頃には、仕切りも外されていた。


 舞子は、白の布に包まれた一子を抱いていた。


 良かった…………。


 お坊さん達も、帰る準備をしている。


 …………というか、数多すぎんか?


「舞子!!」


「お父様!!」


 すると、廊下から基晴と治輔らしき声が聞こえてきた。


「お入りください」


 基晴は、すごい勢いで御簾を乱暴に上げた。


 流石に、びっくりした。


「お父様…………、それに治輔まで…………」


「舞子、よくやってくれた」


 朝に来た時の基晴とは打って変わって、涙を流しながら、舞子と一緒に一子を撫でていた。


 …………差がすごいな。


「舞子姉さま、体調は大丈夫ですか?」


「ええ、ありがとう」


 一方で、治輔は舞子の手を握っていた。


 舞子も若干、顔色が戻った気がする。


 …………お姉ちゃん思いやな。


 真意は知らんけど。


「治輔、私の女房たちを呼んでくれる?今のうちに、お休みを指示したいの」


「分かりました、姉さま。私が指示いたします」


「ありがとう」


 治輔と舞子、仲良さそうやな。


「入ってください」


 治輔の号令とともに、続々と女房達が入ってくる。


 …………泣き腫れている人が多い気がする。


 というか、全員じゃね…………?


「これから、しばらく休まれよ。これは、舞子様からのご命令である」


 女房全員が、頭を下げた。


 統率がよく取れている。


「では、各自部屋に戻れ」


 どんどん、部屋から人が出ていく。


 その間に舞子は眠ってしまったらしい。


「安良子、君は残れ」


「え!?」


 指示を出している間静かだった基晴が、安良子さんに指示を出した。


 廊下に出たばっかりの人も含め、部屋中の視線が安良子さんに集中する。


「他の者は、出なさい」


 それを切り裂くように、治輔がもう一度指示を出す。


 ただ、さっきより廊下に出るスピードは遅くなった気がする。


「君が、授倉雅道だな?」


「は、はい…………!!」


 急になんや…………?


「安良子の隣に座ってくれ」


 俺は指示通りに、安良子さんの隣に座った。


 めちゃくちゃ怖い。


 何を言われるのかまったく分からない。


「一子という名は、雅道が名付けたのだな?」


「は、はい。私の登用試験の際に、考えた名前でございます」


「そうか。一馬帝天様も気に入っておられる。よくやってくれた」


「ありがたきお言葉でございます」


 …………上げて落とさないよね?


「それと、この子を抱いてやってくれ」


 基晴から一子を渡された。


 はい…………?


 ただの侍司ですよ…………?


「おぎゃー、おぎゃー!!」


 一子を抱いた瞬間、泣かれた。


 これでも、一応、従兄弟も妹も抱っこした経験あるんですけど…………。


「元気な子じゃな。ほら、安良子も」


「私なんかがですか!?」


「ああ」


 俺は一子を、安良子さんに渡した。


 安良子さんは、必死に泣いている一子をあやしていた。


「実はな、舞子が一番目の子やった」


 舞子って、長女やったんや。


 上に何人かおるもんやと思ってた。


「大切なあまり、大人数に抱かせなかった。今でも悔やんでいる」


 何を悔やんでるんや…………?


 別に、変なことでもない気もするけど…………。


「赤子の間にたくさんの人に抱かれると、人間関係に苦労しないということは、君たちも知っているだろう。だから、こうやって抱いて欲しいのだ」


 そういうことね。


 そういう迷信があってんや。


 …………でも、俺でええの?


 確かに、お付きの侍司やけどさ。


「安良子、あやすのが上手いな」


 泣いていた一子は、いつの間にか泣き止んでいた。


 もはや、スヤスヤと眠っている。


挿絵(By みてみん)


「安良子、乳母になるつもりはないか?」


「え!?」


 安良子さんは、体まで動きそうなほどの速さなのに、首だけをブンブン振っていた。


 …………器用ですね。 


「舞子の女房に、己鴨家の人間が安良子しか居ないのだ。だから、なってくれないか?こうやって、一子も寝ているわけだし」


「…………でも、遠い分家の人間ですよ?」


「分かっている。それでも分家だ」


 引く気は無さそうやな。


「…………承知致しました」


 安良子さんは観念したかのように、軽く頭を下げた。

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