第18話 難航
「舞子様、頑張ってください!!」
部屋の真正面にも仕切りがあって、詳しくは見えない。
けど、床に所々、乾燥した米があることが分かった。
今も絶え間なく落ちてきている。
きっと、祈祷のためだろう。
…………じゃあ、甘んじて受け入れよう。
◇ ◇ ◇ ◇
「舞子様、あともう少しですよ!!」
いつの間にか、夜中になっていた。
俺はその間、ずっと祈っていた。
というか、それしか出来ない。
米が当たる感覚にも、お経の声にも慣れた。
「おぎゃー、おぎゃー」
「舞子様、お産まれになりましたよ!!」
すると、力強い産声が聞こえてきた。
良かった…………。
…………でも、舞子の声が聞こえてこない。
大丈夫なのだろうか…………。
「雅道、今から、基晴様と治輔様は通して良いと巳之助に伝えてちょうだい」
「承知致しました」
俺はそのことを巳之助さんに伝えた。
その頃には、仕切りも外されていた。
舞子は、白の布に包まれた一子を抱いていた。
良かった…………。
お坊さん達も、帰る準備をしている。
…………というか、数多すぎんか?
「舞子!!」
「お父様!!」
すると、廊下から基晴と治輔らしき声が聞こえてきた。
「お入りください」
基晴は、すごい勢いで御簾を乱暴に上げた。
流石に、びっくりした。
「お父様…………、それに治輔まで…………」
「舞子、よくやってくれた」
朝に来た時の基晴とは打って変わって、涙を流しながら、舞子と一緒に一子を撫でていた。
…………差がすごいな。
「舞子姉さま、体調は大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとう」
一方で、治輔は舞子の手を握っていた。
舞子も若干、顔色が戻った気がする。
…………お姉ちゃん思いやな。
真意は知らんけど。
「治輔、私の女房たちを呼んでくれる?今のうちに、お休みを指示したいの」
「分かりました、姉さま。私が指示いたします」
「ありがとう」
治輔と舞子、仲良さそうやな。
「入ってください」
治輔の号令とともに、続々と女房達が入ってくる。
…………泣き腫れている人が多い気がする。
というか、全員じゃね…………?
「これから、しばらく休まれよ。これは、舞子様からのご命令である」
女房全員が、頭を下げた。
統率がよく取れている。
「では、各自部屋に戻れ」
どんどん、部屋から人が出ていく。
その間に舞子は眠ってしまったらしい。
「安良子、君は残れ」
「え!?」
指示を出している間静かだった基晴が、安良子さんに指示を出した。
廊下に出たばっかりの人も含め、部屋中の視線が安良子さんに集中する。
「他の者は、出なさい」
それを切り裂くように、治輔がもう一度指示を出す。
ただ、さっきより廊下に出るスピードは遅くなった気がする。
「君が、授倉雅道だな?」
「は、はい…………!!」
急になんや…………?
「安良子の隣に座ってくれ」
俺は指示通りに、安良子さんの隣に座った。
めちゃくちゃ怖い。
何を言われるのかまったく分からない。
「一子という名は、雅道が名付けたのだな?」
「は、はい。私の登用試験の際に、考えた名前でございます」
「そうか。一馬帝天様も気に入っておられる。よくやってくれた」
「ありがたきお言葉でございます」
…………上げて落とさないよね?
「それと、この子を抱いてやってくれ」
基晴から一子を渡された。
はい…………?
ただの侍司ですよ…………?
「おぎゃー、おぎゃー!!」
一子を抱いた瞬間、泣かれた。
これでも、一応、従兄弟も妹も抱っこした経験あるんですけど…………。
「元気な子じゃな。ほら、安良子も」
「私なんかがですか!?」
「ああ」
俺は一子を、安良子さんに渡した。
安良子さんは、必死に泣いている一子をあやしていた。
「実はな、舞子が一番目の子やった」
舞子って、長女やったんや。
上に何人かおるもんやと思ってた。
「大切なあまり、大人数に抱かせなかった。今でも悔やんでいる」
何を悔やんでるんや…………?
別に、変なことでもない気もするけど…………。
「赤子の間にたくさんの人に抱かれると、人間関係に苦労しないということは、君たちも知っているだろう。だから、こうやって抱いて欲しいのだ」
そういうことね。
そういう迷信があってんや。
…………でも、俺でええの?
確かに、お付きの侍司やけどさ。
「安良子、あやすのが上手いな」
泣いていた一子は、いつの間にか泣き止んでいた。
もはや、スヤスヤと眠っている。
「安良子、乳母になるつもりはないか?」
「え!?」
安良子さんは、体まで動きそうなほどの速さなのに、首だけをブンブン振っていた。
…………器用ですね。
「舞子の女房に、己鴨家の人間が安良子しか居ないのだ。だから、なってくれないか?こうやって、一子も寝ているわけだし」
「…………でも、遠い分家の人間ですよ?」
「分かっている。それでも分家だ」
引く気は無さそうやな。
「…………承知致しました」
安良子さんは観念したかのように、軽く頭を下げた。




