第9話 試験2
「(よくあんな人を推薦しようと思ったわよね)」
隣の上級女房の小言が聞こえてきました。
正直、分かっていたことです。
雅道さんに聞こえてないといいですけど…………。
「(ね、あんな字の汚い男の人なんか見たことないわ。さすが、町人の出なだけあるわね)」
隣から笑い声が聞こえてきました。
扇の角が手に食い込んで、痛いです。
私は、下級貴族の出。
だから、抗うことも出来ません。
けれども、あの方々を蹴落としてしまいたい。
そう思ってしまいます。
「(しかも、理由で躓いているわよ。情けない)」
雅道さん、お願いです。
早く、早くお書きください。
そうでないと、雅道さんの肩身が狭くなってしまいます…………。
「(安良子、ちょっと来なさい)」
「(はい…………)」
私は、真隣にいた上級女房に呼ばれてしまいました。
舞子様のお部屋から大分離れたところで、その人は歩みを止めました。
「舞子様にあんなやつを推薦するなんて、どういうつもり?」
その人は、明らかに怒っていました。
それと、私を軽蔑をした口調でした。
「…………」
私は、何も答えられませんでした。
こういう時、いつも黙ってしまう自分に腹が立ってしまいます。
「あんな身分のせいで、舞子様のお顔に泥を塗ってしまうじゃない」
たしかに、町人の身分として雅道さんは、あそこにおられます。
けれど、そんなものないに等しいのが雅道さんです。
「はぁ…………一丁前に貴族の服なんか着せて、形だけじゃないの」
形だけじゃないです。
雅道さんは、絶対に良いお方です。
貴族の出なら、確実に良い地位で良い殿方になられていたと思います。
「もう、あんたみたいなやつが推薦出来ないように、舞子様に伝えておくから」
「ちょ、ちょっと待ってくだ——」
「何か文句でも?」
「…………」
文句しかないです。
けれども、あの人は私が黙って何も言えないことを分かって、言っています。
それは、幾度も経験してきたこと。
私とその人とは、先程よりも大きく離れたところを歩きました。
歩きたくなかったのかもしれません。
「申し訳ありません!!」
「(え……)」
雅道さん、どうされたのでしょうか!?
舞子様を怒らせてしまったのでしょうか…………。
「それぐらい、いいから。続けなさい」
舞子様、怒ってはなさそうですが…………。
雅道さん、大丈夫なのでしょうか…………。
「…………出来ました」




