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『古典魔法?要らない』とクビにされた俺、自動魔法が止まった王国で“唯一まともに魔法を使える人間”でした  作者: 他力本願寺


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第9話 王都結界、一部崩壊

ズゴォォォォォォンッ!!


王都の西側から響き渡った轟音は、平和に慣れきっていた市民たちの心を芯から凍らせた。


空を覆う大結界の一部が、まるで脆いガラスのように砕け散る。

その漆黒の亀裂から、王都の魔力溜まりに引き寄せられた魔物たちが、雪崩を打って侵入し始めたのだ。


「ひぃぃっ! 魔物だ! 魔物が王都に入ってきたぞ!」

「逃げろ! 東の区画へ走れ!」


けたたましい警鐘が鳴り響く中、市場にいた人々は恐慌状態に陥り、先を争って逃げ惑う。


その混乱の最中、西の大通りから豪奢な馬車が猛スピードで駆けつけてきた。

馬車から転がり出るように降りてきたのは、肥え太った体を揺らすバルザック財務大臣と、それに追従する防衛隊の将校たちだった。


「ええい、騒ぐな平民ども! 王都の防衛は私に任せておけばいいのだ!」


バルザックは高らかに宣言し、追従する将校たちに指示を飛ばした。


「見ろ、私が『教育予算を効率化』して導入した、最新の自動魔法防衛装置だ! これさえあれば、結界の穴などすぐに塞げるし、魔物など一網打尽よ! さあ、起動しろ!」


荷馬車から下ろされたのは、金属と魔晶石で造られた数台の無骨な魔導兵器だった。

防衛隊員たちが一斉に起動句を叫ぶ。


「『防衛陣形展開』! 『自動迎撃オート・インターセプト』!」


…………。


しかし、魔導兵器は微かな駆動音すら立てなかった。

ただの重たい金属の塊として、石畳の上に沈黙している。


「な、なぜだ!? おい、早く撃て! 魔物が来るぞ!」


「だ、駄目です閣下! この兵器も《大魔導基盤アルカナ》からの魔力供給と制御補助を前提に作られています! 基盤が眠っている今、ただの鉄屑です!」


「馬鹿な……っ! これには莫大な国家予算を注ぎ込んだのだぞ! 動け、動かんか!」


バルザックが兵器を蹴りつけるが、無情にも魔物の群れはすぐそこまで迫っていた。

彼の「防衛新事業」が、癒着した企業から買い上げただけの、自動魔法依存の欠陥品であったことが、白日の下に晒された瞬間だった。


「醜態ですね、バルザック財務大臣」


静かな、しかし怒りを孕んだ声が響いた。

護衛に守られながら進み出たのは、フェリシア王女だった。

彼女の隣には、顔面を蒼白にさせたオルグレン学院長も控えている。


「王女殿下……! こ、これは何かの手違いで……!」


「言い訳は後で聞きます。ですが今、あなたの無能のせいで王都の民が危険に晒されている」


フェリシア王女はバルザックを一瞥して切り捨てると、振り返って俺を見た。


「ユーリス先生。……どうか、皆を」


「ええ。お任せください」


俺は静かに前に出た。

空から迫り来るのは、刃のような翼を持つ低級の飛行魔物たちだ。


俺が単独で大規模な殲滅魔法を撃てば、一時的に蹴散らすことはできるだろう。

だが、それでは意味がない。俺一人の力では、いずれ尽きる。

必要なのは、彼ら自身が自らの足で立ち、この危機を乗り越えることだ。


「これより、この場にいる全員で迎撃と避難誘導を行う!」


俺の声に、動揺していた者たちの視線が集まる。


「ミリア! 君の光が頼りだ。一番高い場所に立ち、避難経路を照らし続けなさい。絶対に火を絶やすな!」


「はい、先生! 魔力指定、極大……燃やさず、ただ明るく……!」


ミリアが石柱の台座に上り、両手から強力な『灯火』を放つ。

真っ暗だった大通りに、暖かく安全な光の道標が生まれた。

パニックを起こしていた市民たちが、その光に導かれるように秩序を取り戻し始める。


「セレスティア殿!」


「はい、ユーリス先生! 怪我人は私たちが!」


いつの間にか駆けつけていた聖女セレスティアが、治癒院の神官たちを率いて後方に展開していた。

彼女はもう、祈るだけの聖女ではない。

教わったばかりの基礎工程を丁寧に紡ぎ、転倒して怪我をした市民たちを次々と自力で治療していく。


「ロイド。君は動ける生徒や若い教師たちを指揮して、市民の誘導と瓦礫の撤去を。手動の生活魔法でも、十分に障害物は退かせるはずだ」


「分かりました! 皆、俺に続け! 焦らなくていい、魔力を丁寧に練るんだ!」


かつて俺の授業を「時代遅れ」と笑っていた者たちが、今はその基礎魔法を使って必死に瓦礫を動かし、道を切り開いている。


だが、空からの魔物の侵入は止まらない。

防衛隊のエリートたちは、暴発を恐れて手動詠唱ができず、杖を握りしめて震えているだけだった。


「くそっ……! 俺の、俺の力では数が多すぎる……っ!」


前衛で孤軍奮闘していたのは、宮廷魔術師長のガルドだった。

彼は王城での失敗を教訓に、小さな魔力弾を一つ一つ手動で構築し、魔物を撃ち落としていた。

しかし、彼一人で穴を塞ぐことは不可能だ。徐々に押し込まれ、息が上がっている。


ガルドは屈辱に顔を歪めながら、俺の方へ向かって叫んだ。


「ユーリス! 頼む、教えてくれ!」


王国の最高戦力である彼が、追放された古典教師に向かって頭を下げたのだ。


「この結界の穴を、俺の力で塞ぐ方法を! 局所的な防衛結界の構築式を、俺に教えろ!」


俺は小さく口角を上げ、彼の横に並び立った。


「良い判断です、ガルド殿。一人で抱え込まず、教えを請う。それが成長の第一歩だ」


「説教は後にしてくれ! どうすればいい!」


「壁を作ろうとするから破られる。先ほどの授業の続きです。川の石を思い出せ」


俺は上空の亀裂を指差した。


「亀裂全体を塞ぐ必要はない。魔物が侵入してくる『通り道』をすり鉢状に絞り込み、風の属性で滑る曲面を構築する。侵入の勢いを逆利用して、外側へ弾き返すんだ」


「すり鉢状……摩擦を無くし、ベクトルを反転させる曲面結界……!」


ガルドの頭脳は優秀だ。

理論さえ示されれば、その莫大な魔力を正確に制御し、形にすることができる。


「魔力指定、空間固定。属性、風と土の複合。……流転せよ!」


ガルドが杖を振りかざすと、亀裂の入り口に透明な漏斗状の魔力場が展開された。

直後、突っ込んできた魔物たちが、その見えない滑り台に足を取られ、勢いそのままに結界の外側へと弾き飛ばされていく。


「やった……! 弾いたぞ!」

「ガルド様が、手動で結界を……!」


防衛隊員たちが歓喜の声を上げる。

ガルドは肩で息をしながらも、自分の生み出した確かな『防衛魔法』を見上げ、震える手で杖を握り直した。


俺たちの連携によって、致命的な崩壊は免れ、応急的な結界の蓋が機能し始めた。

怪我人の治療も進み、避難はほぼ完了した。


その光景を呆然と見ていたのは、バルザックただ一人だった。


自分が用意した高額な兵器は全く動かず、自分が追放した教師と落ちこぼれの生徒たちが、王都を救ったのだ。


「そんな……馬鹿な。私の、私の立場が……」


へたり込むバルザックの前に、フェリシア王女が冷徹な足取りで歩み寄る。


「見損ないましたよ、バルザック財務大臣」


「で、殿下! これは不測の事態で――」


「黙りなさい。あなたの持ってきた『防衛新事業』とやらは、完全に無価値な鉄屑であることが証明されました。教育予算を削り、その裏で派閥企業と癒着していたことも、すでに調査が入っています」


王女の言葉に、バルザックの顔から完全に血の気が引いた。

周囲の市民たちも、事の顛末を理解し、彼に向けて冷ややかな怒りの視線を向けている。


「王族の権限をもって命じます。バルザック、あなたから教育および防衛に関する一切の裁量権を剥奪する。後日、厳しい査問があると思いなさい」


「あ、あああ……っ!」


バルザックはその場に崩れ落ち、頭を抱えた。

誰も彼に同情する者はいなかった。


騒動が落ち着き、夜明けの光が王都を照らし始めた頃。


疲れ切った俺と生徒たちの前に、フェリシア王女と、そしてオルグレン学院長が進み出た。


「ユーリス先生。そして、ミリアさんも、皆さんも……王都を救っていただき、本当に感謝します」


王女が深々と頭を下げると、その後ろでオルグレン学院長も土下座をする勢いで額を擦り付けた。

これは、王国からの正式な謝罪の使者としての振る舞いだった。


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