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『古典魔法?要らない』とクビにされた俺、自動魔法が止まった王国で“唯一まともに魔法を使える人間”でした  作者: 他力本願寺


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第4話 聖女様、その奇跡は補助付きです

「こちらです、ユーリス先生! どうか、お急ぎを……!」


青ざめた神官の案内に従い、俺とミリアは夜の王都を急ぎ足で進んだ。

背後からは、屈辱に顔を歪めながらも己の無知を自覚してしまった宮廷魔術師長、ガルドの足音も続いている。

彼は何も言わずに追ってきていた。自分が失敗した手動詠唱の真髄を、その目で見極めようというのだろう。


王立治癒院に到着すると、そこはまさに野戦病院のような有様だった。


突然の暗闇と、自動開閉扉や階段の魔力補助機能の停止により、街中では転倒や衝突事故が多発していた。

次々と運び込まれる怪我人たち。

だが、それを治療すべき治癒院の中もまた、完全な暗闇に沈んでいた。


「痛い、痛いよぉ……!」

「しっかりしろ! 誰か、早く止血を!」


ろうそくやランプの乏しい明かりの中、怒号と悲鳴が飛び交っている。


「ミリア、少し明かりを広げてくれ」

「はい、先生。……魔力指定、拡張。光よ、集え」


ミリアが慎重に手動詠唱を行い、彼女の掌の『灯火』がふわりと広がる。

柔らかな光が、最も重傷者が集められている大広間を照らし出した。


その中央で、純白のローブを血に染めながら、一人の少女が涙を流して崩れ落ちていた。


「どうして……どうして私の祈りが届かないの……っ! 『大いなる癒しを(ヒール)』! 『聖なる光よ(ホーリー・レイ)』!」


彼女こそ、王国が誇る聖女セレスティアだった。


どれほど彼女が悲痛な声で起動句を叫んでも、淡い光の粒子ひとつ発生しない。

目の前の長椅子には、ガラスの破片で腕を深く切った職人の青年が横たわり、苦しげに呻いている。


「私の信仰が……偽物だったからですか? 神様、どうか、どうかこの人を救って……!」


セレスティアは血に濡れた手で顔を覆い、絶望に打ちひしがれていた。

周囲のベテラン神官たちも、ただオロオロと祈りの言葉を呟くことしかできず、誰一人として具体的な止血処置すら行おうとしない。

彼らもまた、怪我を治すのは『魔法』の役割だと信じ切ってしまっているのだ。


「そこを退きなさい」


俺は群がる神官たちを掻き分け、セレスティアのそばへと膝を下ろした。

そして、迷うことなく青年の腕を布で強く縛り上げ、物理的な圧迫止血を行う。


「あ、あなたは……ユーリス先生……? なぜ、古典詠唱科のあなたがここに」


涙に濡れた瞳で、セレスティアが俺を見上げた。

彼女は心優しい善人だ。ただ、己の使っている技術の正体を知らなかっただけ。


「君の信仰が嘘だったわけじゃない。奇跡が偽物だったわけでもない」


俺は青年の傷口を確認しながら、静かな声で告げた。


「君はただ、その『奇跡』の仕組みを知らなかっただけだ。これまで君の祈りを具体的な治癒術式に変換してくれていた《アルカナ》が、今は眠っている」


「仕組み……? 魔法は、神への祈りに対する恩寵ではないのですか……?」


「祈りも魔力を練り上げる大切な工程の一つだ。だが、それだけでは足りない」


俺はセレスティアの震える両手を取り、青年の傷口の上にそっと添えさせた。

背後で、ガルドが息を呑んで見つめている気配がする。


「いいか、セレスティア殿。漠然と『治れ』と念じるな。君の莫大な魔力を、細分化して指定するんだ」


「指定……」


「治癒とは、三つの工程の複合だ。まず、開いた肉を繋ぎ合わせる。次に、溢れる血の巡りを整えて止める。最後に、痛みを和らげる。……さあ、傷口の断面を頭に思い描け。君の魔力で、その細胞を編み上げるんだ」


俺は手動詠唱の補助に徹し、彼女の魔力の流れを整える。


「肉を繋ぐ……血を、止める……痛みを……」


セレスティアは目を閉じ、俺の誘導に従ってゆっくりと祈りを――いや、術理を構築し始めた。

ガルドが火球を暴発させたのとは違う。

彼女は患者を救いたいという強烈な意思で、自らの魔力を極限まで精密に制御していく。


「――癒えよ」


セレスティアの掌から、暖かな淡い光が溢れ出した。


「おお……!」

「光だ! 聖女様の奇跡が戻られたぞ!」


周囲の神官たちが歓声を上げる。

光が収まると、青年の腕にあった深い裂傷は、うっすらとした傷跡を残して塞がっていた。

呼吸も落ち着き、痛みが引いたのか、青年の顔から苦悶の表情が消え去っている。


「あ、ああ……私が、私の力で……」


「そうだ。補助輪なしで、君自身が魔法を編み上げたんだ。立派な治癒魔法だった」


俺がそう告げると、セレスティアはポロポロと大粒の涙をこぼし、青年の無事な手を両手で包み込んだ。

神の恩寵という不確かなものではなく、自らの技術で命を救ったという実感が、彼女の心を震わせていた。


「ユーリス先生……私、何も知らなかった。祈るだけで、誰かが治してくれていることに甘えていた……!」


セレスティアは真っ直ぐに俺を見つめ、深々と頭を下げた。


「教えてください、先生! 本当の治癒の仕組みを。私に、魔法の基礎を……っ!」


その真摯な願いに、俺が頷こうとした、その瞬間だった。


『――手動詠唱による治癒術式の干渉を確認』


不意に、誰もいないはずの空間から、ひどく無機質で透明な声が響き渡った。

神官たちも、ミリアも、ガルドも、驚いて周囲を見回す。


署名シグネチャを照合。……合致。ユーリス・クロフト。王立魔法学院における、最後の保守教育者と認識』


「アルナ……か」


俺がその名前を口にすると、虚空に淡い光の粒子が集まり、一人の少女の輪郭を形作った。

《大魔導基盤アルカナ》の管理人格。

百年前、賢者エルドラが機構を制御するために生み出した存在だ。


光の少女は、感情の読めない瞳で俺を真っ直ぐに見つめていた。


『保守教育資格者、ユーリス・クロフト。あなたを、機構の正当な操作権限を持つ者として承認します』


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