↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『古典魔法?要らない』とクビにされた俺、自動魔法が止まった王国で“唯一まともに魔法を使える人間”でした  作者: 他力本願寺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/36

第33話 アルナの選択

王都の地下深く。

大地の底へと続く果てしない階段を降りきった俺たちの前に、巨大な地底空間が広がっていた。


空間の中心には、大陸全土の魔脈を束ねる巨大な水晶体――《大魔導基盤アルカナ》の真の中枢が鎮座している。

かつては青白く澄んだ光を放っていたであろうその水晶体は、今はゼクスの放つ赤黒い魔力に侵食され、不気味な脈動を繰り返していた。


「来たか、ユーリス・クロフト。そして、足掻く者たちよ」


水晶体の根元にある巨大な操作盤。

その前に立つ黒衣の男が、ゆっくりとこちらを振り返った。


「ゼクス……!」


ガルドたちが身構え、ミリアが俺の背中をしっかりと見つめる。


ゼクスは俺たちを一瞥すると、すぐに視線を俺の隣に浮かぶ光の少女――アルナへと移した。


「アルカナの管理人格アルナよ。製作者たる私の権能において命じる」


ゼクスの赤い義眼が、冷酷な光を放つ。


「私に協力し、アルカナ中枢の不可逆停止プロセスを直ちに実行しろ。愚かな人間たちから、すべての魔法を永遠に奪い去るのだ」


その言葉が響いた瞬間、アルナの体を構成する青白い光の粒子が、激しいノイズを伴って乱れた。


『――コマンドを受領。製作者権限との照合を……開始……』


彼女の無機質な声に、わずかな震えが混じる。

アルナはシステムだ。共同開発者であり、最上位の権限を持つゼクスの命令には、絶対に従わなければならないように設計されている。


『実行プロセスを……承認……。いえ、対象事象は……』


ノイズが激しくなり、アルナの姿が明滅する。

彼女の内部で、ゼクスの「絶対命令」と、エルドラが遺した「第一律」が激しく衝突し、矛盾を引き起こしているのだ。


「アルナ!」


ミリアが悲痛な声を上げる。

ゼクスは冷たく鼻を鳴らした。


「無駄だ。どれほど高度な疑似人格を持たせようと、所詮は私が組んだ術式に過ぎない。製作者の命令には逆らえん」


「……いいや」


俺は杖を下ろし、苦しげに明滅を繰り返すアルナの目の前へと歩み寄った。


「アルナ。君はただの便利な道具じゃない」


俺の言葉に、アルナの明滅がふっと弱まる。


「君は百年間、誰もいなくなったあの教室で、エルドラの教育の記録をたった一人で守り続けてきた。そして今、俺の生徒たちが再び自らの頭で考え、学んでいく姿を一番近くで見てきたはずだ」


俺は彼女の目――システムの光ではなく、彼女自身の意思を探すように真っ直ぐに見つめた。


「人間が再び学び始めたことを、君は知っている。なら、どうするべきか……君自身の意思で選んでくれ。俺は、君を立派な教育の『保守者』の一人だと思っている」


『ほ、しゅしゃ……』


アルナの口から、微かな声がこぼれる。


『私は、記録層の管理人格。……ですが、エルドラの第一律は、人の学びを守ること』


アルナの輪郭が揺らぐ。

ノイズの奥から、いつもよりほんの少しだけ人間に近い声が響いた。


『私は百年間、誰も開かない保守記録を保存し続けました。あれは空白ではありません。教える日を待つ時間でした』


アルナの体を覆っていた激しいノイズが、嘘のようにスッと消え去った。

赤黒く染まりかけていた彼女の光が、再び澄み切った青白い輝きを取り戻す。


『――製作者ゼクスへの返答。いただいたコマンドを、限定的に拒絶します』


アルナが、ゼクスに向かってはっきりと宣言した。


「なんだと……?」


ゼクスの機械の半顔が、驚愕に歪む。


『私は、彼らの学びを記録し、見届ける存在です。よって、システム自らによる停止への協力は行いません』


アルナは俺の横にふわりと並び、俺と生徒たちを護るようにゼクスと対峙した。

システムが、製作者の権能を跳ね除け、教育の原則を守る道を選んだのだ。


「……ふん。機械風情が、エルドラの真似事か」


ゼクスは忌々しげに舌打ちをし、操作盤を強く叩いた。


「お前が協力を拒もうと、結末は変わらん。私が外部から仕掛けた不可逆停止のプログラムは、すでに最終段階に入っている。お前にできるのは、せいぜい進行をわずかに遅らせることだけだ」


水晶体を覆う赤黒い侵食が、ズズズッと音を立ててさらに深部へと食い込んでいく。


『警告。中枢機能の完全停止まで、残り時間はわずかです』


アルナが冷静に現状を告げる。

ゼクスの言う通り、彼女の拒絶によってシステム自体の自壊は免れたが、外部からの破壊工作は止められていない。


「これで分かっただろう、ユーリス・クロフト」


ゼクスが杖を構え、俺たちへ向けて膨大な魔力を放ち始める。


「人間を信じたシステムすらも、共に滅びるだけだ。お前たちのちっぽけな希望で、私の百年の絶望を覆せるものなら……覆してみせろ!」


ズゴゴゴゴゴォォォッ……!!


地鳴りのような轟音と共に、水晶体の手前を塞いでいた巨大な石の扉――中枢の最も深い場所へと通じる最終防壁が、重々しく開き始めた。


「さあ、最終試験だ。世界を救うための答えを、私に示してみせろ」


俺は杖を構え直し、後ろに立つ三十一名の継承者たちへ向けて力強く頷いた。

いよいよ、最後の授業が始まる。


========================================

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。