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『古典魔法?要らない』とクビにされた俺、自動魔法が止まった王国で“唯一まともに魔法を使える人間”でした  作者: 他力本願寺


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第30話 第三の道

王都の中央広場に設けられた青空教室は、いつしか大陸中から集まった者たちの公開討論の場と化していた。


「このままでは世界が滅ぶ! 手段は選ばず、とにかく《アルカナ》を完全復旧させて以前の生活に戻すべきだ!」


声を荒らげているのは、旧主流派のエリート魔術師たちだ。

彼らは魔法の仕組みを学ぶことを拒絶し、ひたすら「便利な自動魔法」という特権の復活だけを求めている。


一方で、別の勢力も声を上げていた。


「いや、魔王ゼクスの言う通り、アルカナがある限り人間は堕落する一方だ! いっそこのままアルカナを完全に捨て去り、手動魔法の時代に戻るべきだ!」


一部の若い魔術師や、ゼクスの圧倒的な力に恐れをなした者たちが、極端な原理主義とも言える主張を叫ぶ。


完全復旧か。

それとも、完全廃棄か。


広場が二つの極端な意見で真っ二つに割れ、激しい言い争いが続く中、俺は教壇の上で静かに杖の先で床を叩いた。


コンッ、という乾いた音が、喧騒を縫って不思議なほど遠くまで響き渡る。


「……極端な二者択一だな。どちらも、極めて人間らしい『思考の放棄』だ」


俺の静かな言葉に、広場がしんと静まり返った。


「ユーリス先生! では、あなたはどちらが正しいと!?」


他国からの使者が食ってかかる。

俺は彼らを見渡し、はっきりと答えた。


「どちらも間違っている。……俺が示すのは、第三の道だ」


俺は黒板代わりに立てかけた大きな羊皮紙に、文字を書き込んだ。


「アルカナは捨てない。便利さは残す。だが、それに『依存』することはやめる」


「なっ……! 便利さを残しつつ、依存をやめるだと? そんな都合のいいことができるはずがない!」


旧主流派の魔術師が鼻で笑うが、俺は一切揺るがずに言葉を続ける。


「できるさ。教育という制度があればな」


俺は、これからの世界に必要となる新しい社会のあり方を提示した。


「一つ、基礎教育の必修化。魔法の原理、術式の構築、魔力の制御を、誰もが義務教育として学ぶこと。

二つ、手動詠唱訓練の復活。アルカナの補助なしでも、初級魔法を自力で使える人間を育てること。

三つ、障害訓練の制度化。定期的にアルカナの接続を切り、手動でインフラを回す訓練を国主導で行うこと。

四つ、仕組みの完全公開。ブラックボックス化された魔法技術を隠さず、民衆に開示すること。

そして五つ……教師と、インフラを支える保守者の地位を、正当なものへと引き上げることだ」


俺の言葉が響くたび、広場に集まった難民や職人、そして現場で泥水に塗れてきた者たちの目の色が変わっていく。


「魔法は一部の特権階級のものではない。そして、思考を奪う呪いの道具でもない。人間が自分の頭で考え、誰かを守るための……ただの『技術』だ」


俺がそう締めくくると、教壇のすぐ横に立っていたフェリシア王女が、凛とした足取りで前へ進み出た。


「ユーリス先生の言葉を、私は次期王位を継ぐ者として全面的に支持します!」


彼女の宣言に、広場がどよめいた。

王女フェリシアだけではない。


「治癒院も支持します! 私たちはもう、祈るだけの存在には戻りません!」


聖女セレスティアが、泥だらけのローブのまま力強く声を上げる。


「我々、冒険者ギルドもだ! 自分の契約書も読めねえようなマヌケな時代は、もう真っ平御免だからな!」


ギルドのベテラン冒険者たちが、武器を掲げて同意の雄叫びを上げる。


「宮廷魔術師も、これに倣おう」


ガルドが腕を組み、かつての部下たちを睨みつけながら重々しく頷く。


「……私たちは、自分の力で火を灯せる。もう、暗闇に怯えるだけの人間じゃないんだから!」


ミリアが両手に小さな灯火を浮かべながら叫ぶと、それを見た王都の市民や難民たちが、次々と自分たちの手から小さな光や水を生み出し始めた。


「そうだ!」

「先生の言う通りだ!」

「俺たちで、新しい魔法の時代を作るんだ!」


完全復旧でもなく、完全廃棄でもない。

便利さを享受しながらも、決して思考を止めないという『第三の道』。

その力強い希望が、広場全体を一つの大きなうねりとして包み込んでいった。




だが。

その希望の光を、忌々しげに睨みつける影が一つ。


「……おのれ、おのれユーリス・クロフト! 平民どもを唆しおって!」


広場から少し離れた建物の陰で、バルザック財務大臣が歯軋りをしていた。


「このまま奴の『第三の道』とやらが主流になれば、我々が独占してきた教材利権も、特権階級としての地位も完全に失われる……!」


彼は懐に隠した分厚い契約書の束を握りしめ、配下の残党たちへ向けて低く囁いた。


「直ちに決行しろ。国家の非常事態における『治安維持』を名目に、私兵団を動かせ! あの鬱陶しい塾を物理的に閉鎖し、連中の教育権限を王家から――いや、私から奪い取るのだ!」


「ははっ!」


世界を救うための最終局面。

だがその直前に、特権にしがみつく人間の最も醜い悪意が、俺たちの背後へ牙を剥こうとしていた。


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