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『古典魔法?要らない』とクビにされた俺、自動魔法が止まった王国で“唯一まともに魔法を使える人間”でした  作者: 他力本願寺


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第29話 大陸中から、学びに来る

ゼクスによる大陸規模の停止コマンドが発動し、アルナが中枢への物理経路を解析する間に、数日が経過した。

王都の城門は、朝から異様な熱気に包まれていた。


「本当に、ここだけは魔法の灯りが点いているぞ……!」

「ああ、水も浄化されている! 助かったんだ……!」


他国からの使者、魔法学院の学生、住処を追われた難民、そして各国の魔術評議会に属する高位の魔術師たち。

彼らは「王都の私塾だけは灯りが消えていない」という、細い糸を伝うような噂だけを頼りに、はるばる国境を越えてこの古典魔法塾へと殺到してきたのだ。


急遽、王都の巨大な中央広場を解放し、数千人規模の青空教室が作られた。

だが、集まった者たちの目的は決して一つではない。


「おい、責任者はどこだ! 私は西の魔法都市から来た特使である!」


豪奢なローブを泥だらけにした他国のエリート魔術師が、血走った目で教壇に立つ俺を指差した。


「貴様らは、アルカナを即時復旧させる『秘術』を知っているのだろう! 出し惜しみは許さん! 我が国の都市機能は完全に麻痺しているのだ、今すぐその起動句を教えろ!」


彼の言葉に同調し、他国の魔術師たちも「早く直せ!」「自分たちだけ助かる気か!」と怒号を上げる。

彼らは、俺たちが地道な努力で魔法を使っているとは夢にも思っていない。何か特別な「裏技」や「隠された起動句」があると信じ込んでいるのだ。


俺は大きく息を吐き、広場全体に響き渡るように声を張った。


「静かにしなさい」


魔力を乗せた静かな一喝が、数千人の騒ざわめきをピタリと止める。


「あなた方が期待しているような、即時復旧の秘術など存在しない」


俺の言葉に、エリートたちの顔が絶望と怒りに染まりかける。だが、俺はそれを制して手元の木箱から小さな蝋燭を取り出し、最前列の者たちへ配り始めた。


「俺が教えられるのは、自分の頭で考え、自分の手で火を灯す方法だけだ。……さあ、授業を始める。学びたい者だけ、席に着きなさい」


「ふ、ふざけるな! 我々は一から魔法を学び直すために、はるばる他国からやって来たのではないぞ!」


特使の魔術師が激昂し、手にしていた杖を振り上げた。


「火を灯すなど、児戯にも等しい! こんなもの、魔力を込めれば一瞬で――」


ボンッ!!


彼が力任せに魔力を込めた瞬間、蝋燭は火を灯すどころか、爆発音と共に木端微塵に弾け飛んだ。

真っ黒に焦げた顔で立ち尽くす特使を、周囲の者たちが唖然として見つめる。


「だから言ったはずだ。あなた方は『魔法』を知らないと」


俺は冷淡に事実を突きつけ、視線をその隣へ移した。

特使のすぐ横では、ボロボロの服を着た他国の難民の少女が、両手でそっと蝋燭を包み込んでいる。


「あのね、火は、優しく息を吹きかけるように……」


彼女の横で、ミリアがしゃがみ込み、丁寧にアドバイスをしていた。

少女は、暗闇の中で凍えていた夜を思い出し、「温かさ」だけを純粋に願って、ほんのわずかな魔力を芯に集めた。


チロリ……。


小さな、しかし確かな温もりを持った灯火が、少女の蝋燭に灯った。


「点いた……! お母さん、火が点いたよ!」

「おおお……! 偉大な魔術師様が失敗した魔法を、あの子が……!」


難民たちから歓声が上がる。

一方で、他国のエリート魔術師たちは、己の目を疑い、羞恥に顔を真っ赤にして俯いた。


彼らは魔法の分類名や理論の暗記には長けているが、「何を変えたいか」という根源的な意思が抜け落ちている。

生きるために必死な難民や現場の職人たちの方が、余計なプライドがない分、理を吸収するのが圧倒的に早かった。


「……これが、世界の現状だ」


俺は教壇からその光景を見下ろしながら、心の中で現状を整理していた。


今、世界は明確に三つの思想に引き裂かれようとしている。


一つは、ゼクスが目指す道。人類の愚かさに絶望し、《アルカナ》を恒久的に廃棄して、魔法社会そのものを終わらせる破滅の道だ。


もう一つは、エリート魔術師やバルザックの残党が望む道。自分たちの特権を取り戻すためだけに、考えることを放棄したまま『完全復旧して元通り』の依存状態へ戻ろうとする退行の道。


「だが、俺たちはどちらも選ばない」


便利さを否定せず、しかし依存もやめる。

仕組みを隠さず公開し、誰もが基礎を学び、自分の力で歩いていける世界を作る。

それが、俺とこの塾の生徒たちが選んだ『第三の道』だった。


「先生! 浄水班の指導、終わりました!」

「結界の基礎、衛兵たちへの共有が完了です!」


ロイドやガルド、セレスティアたちが、広場の各所で他国の人々に教えを説き、俺の元へ戻ってくる。

彼らの姿は、新しい時代の確かな希望だった。



だが、光が強くなれば、必ず濃い影が落ちる。


王都の影に隠れた一室。

そこには、復権の機会を虎視眈々と狙うバルザック財務大臣の姿があった。


「……ククク。見たか、あの大陸中から押し寄せる間抜けな連中の姿を」


バルザックは、窓の隙間から中央広場の様子を見下ろし、邪悪な笑みを浮かべていた。

彼の手元には、数枚の分厚い契約書が握られている。


「大陸の連中は皆、アルカナの恩恵にすがりついている。もしも我々が、あのユーリスの『復旧の手順』を国家権力で奪い取り、独占的な保守契約を他国と結ぶことができれば……」


彼の背後に控える派閥の残党たちが、卑しい笑い声を上げた。


「その通りです。魔法のインフラを我々が握れば、他国から莫大な予算と利権を搾り取れる。バルザック様は真の最高権力者へと返り咲くでしょう」


「その通りだ! あんなただの元教師に、これ以上の甘い汁を吸わせておくものか!」


バルザックは契約書を握り潰すほどに力を込め、目をギラつかせた。


「ただちに手を打て! あの塾を、法と権力の縛りで完全に我が物とするのだ!」


世界を救うための中枢への旅立ちを前に、最後の悪意が俺たちの背後に迫りつつあった。


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