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『古典魔法?要らない』とクビにされた俺、自動魔法が止まった王国で“唯一まともに魔法を使える人間”でした  作者: 他力本願寺


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第25話 試験

「さあ、お前たちの『学び』で、この世界を救ってみせろ」


ゼクスの赤い義眼が不気味に瞬き、彼が再び指を弾いた。

その瞬間、大中継晶の広場を強烈な魔力の嵐が吹き荒れた。


――ゴゴゴゴゴォォォッ!!


「うわあああっ! 地面が!」


突如として石畳が波打ち、地割れが発生する。

同時に、地下を通っていた水脈が暴走し、間欠泉のように泥水が噴き出した。

それだけではない。ゼクスの放つ魔力の乱気流が突風となって吹き荒れ、広場周辺に残っていた僅かな灯りすらもことごとく吹き消していった。


火、浄水、結界、そして空間の安定。

それらすべてが同時に、かつ複雑に絡み合いながら乱れる「複合障害」だ。


「ヒィィッ! 何だこの魔力は! マニュアルにないぞ!」

「『土よ固まれ』! 『水よ鎮まれ』! ……だ、駄目だ! 複数のエラーが干渉し合って、単一の起動句では全く反応しない!」


王国調査団のエリート魔術師たちは、分厚い魔道書を抱えたまま右往左往し、指示待ちの案山子と化していた。

自動魔法の恩恵に浸りきっていた彼らに、複数の事象を同時に解析し、その場で術式を組み上げるような応用力はない。


俺は杖を手に持ったまま、あえて一歩後ろへと下がった。


「先生……!?」


ミリアが不安げに振り返る。

俺は彼女の目を真っ直ぐに見返し、静かに告げた。


「俺は手を出さない。これは、お前たちの試験だ」


俺がここで正解を与え、すべてを解決してしまっては意味がない。

ゼクスが見ているのは、俺の力ではなく、人類が再び『考える力』を取り戻したかどうかだ。


「……分かりました!」


ミリアは小さく、だが力強く頷くと、広場に散らばる仲間たちへ向けてよく響く声を上げた。


「みんな、落ち着いて! 一つずつ、自分ができる基礎を重ねていきましょう!」


その言葉を皮切りに、古典魔法塾の生徒たちが一斉に動き出した。


「まずは足元だ! 地面の揺れと泥水を止めるぞ!」


現場の土と水を誰よりも知る職人たちが、地割れの前に立ち塞がる。

彼らは慌てることなく、俺の授業で学んだ基礎――泥と水を分ける網目のイメージと、土を固める魔力の楔を同時に編み上げ、暴走する水脈を力強く押さえ込んだ。


「上空の突風と飛来物は、この私が防ぐ! 私に隠れろ!」


宮廷魔術師長ガルドが前に出る。

彼はかつてのように力任せな結界を張るのではなく、風のベクトルを読み取り、受け流すための『滑らかな曲面の盾』を広場の上空に展開した。

強烈な突風が曲面に沿って上空へ逸らされ、広場に安全な空間が確保される。


「ロイド先生、あっちに逃げ遅れた人が!」

「よし、俺たちで道を作るぞ! 風の基礎式で瓦礫をどけろ!」


若手教師のロイドが、数人の衛兵と学院生を指揮して動く。

彼らはガルドが守る傘の下で、地割れを迂回する安全なルートを即座に構築し始めた。


「こっちです! 私の光のほうへ来てください!」


ミリアが広場の少し小高い場所に立ち、両手から『灯火』を空高く放つ。

ただ明るいだけではない、人々の恐怖を和らげる温かな光。

村の子どもたちも彼女の周囲に集まり、自分たちの小さな魔力でミリアの光を補強し、あるいは足元を照らす小さな火花を維持して避難を助けていた。


「怪我をした方はこちらへ! 呼吸を落ち着かせてください!」


セレスティアが治癒班を率い、安全な場所へ誘導された市民たちのケアに当たる。

祈りではなく、確かな技術に基づいた治癒魔法が、傷ついた人々を次々と救っていく。


完璧な連携だった。

誰か一人の圧倒的な力でねじ伏せるのではない。

それぞれが自分の魔力と役割を理解し、足りない部分を補い合いながら、複雑に絡み合った障害を一つ一つ丁寧に解きほぐしていく。


「……あり得ない」


王国のエリート魔術師が、その光景を見てへたり込んだ。


「平民や子ども、落ちこぼれたちが……起動句もなしに、あんな高度な複合事象を抑え込んでいるだと……!?」


彼らの目には、それが奇跡のように映っただろう。

だが、奇跡ではない。彼らが泥臭く、何度も失敗しながら積み上げてきた『思考』の結晶だ。


俺は腕を組み、満足げに生徒たちの奮闘を見守りながら、空中に浮かぶ黒衣の男を見上げた。


「……」


ゼクスの顔から、先ほどまでの冷酷な嘲笑が消え去っていた。


機械で覆われた半顔が、微かに、本当に微かに引き攣っているように見える。

彼の赤い義眼は、広場で自分の役割を全うする人間たちの姿を、穴が空くほど見つめていた。


(人間が……再び、魔法の理を自ら考えているだと……?)


彼の沈黙が、驚愕の深さを物語っている。

百年間、彼が信じて疑わなかった「人類は必ず思考を放棄する」という絶対の前提が、今、目の前で音を立てて崩れ去ろうとしていた。


やがて、広場を荒れ狂っていた複合障害の魔力が完全に霧散し、静寂が戻った。


生徒たちは肩で息をしながらも、自分たちの力で危機を乗り越えた達成感に、誇らしげな笑みを浮かべている。


俺はゼクスに向けて、静かに声を張った。


「どうですか、ゼクス殿。これが、俺の生徒たちです。人間は、あなたが思っているほど愚かではない」


ゼクスはしばらくの間、ただ黙って俺と生徒たちを見下ろしていた。

やがて、彼はマントを翻し、赤い義眼を細めた。


「……確かに、お前たちのその『足掻き』は予想外だったと認めよう。エルドラの学統は、まだ死に絶えてはいなかったようだな」


ゼクスの低い声が響く。

だが、その言葉に安堵の色はない。


「だが、これで終わったと思うなよ、ユーリス・クロフト。世界を覆うこの暗闇は、お前たちの小さな教室の光だけで払えるほど浅くはない」


彼は大中継晶の頂上から、ふわりと宙に浮き上がった。


「次はこの程度ではない。……絶望の底で、お前たちの学びがどこまで通用するか、見せてもらうぞ」


ゼクスはそう告げると、虚空へ高く退き、冷たい視線で俺たちを見下ろした。


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