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『古典魔法?要らない』とクビにされた俺、自動魔法が止まった王国で“唯一まともに魔法を使える人間”でした  作者: 他力本願寺


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第22話 アルナの製作者

国境の砦が突破され、魔王軍が侵攻を開始したという絶望的な報告。

広場に集まったエリート魔術師や王国の上層部たちが、パニックに陥って喚き散らす中、俺の目の前の空間に再び青白い光の粒子が収束していった。


『――事象の解析を完了。大結界に強制破棄コマンドを実行した介入者の署名シグネチャを、完全に特定しました』


具現化したアルナが、感情の読めない透明な声で告げる。


『当該署名を「製作者の権能」と認識。対象は、元大魔導師ゼクス』


「ゼクス……!」


その名を聞いて、俺は息を呑んだ。

王立魔法学院の歴史を深く学んだ者であれば、その名前自体を知らない者はいない。


百年前、大賢者エルドラの時代に名を馳せながら、正史から共同開発者としての記録を消された異端の大魔導師。

だが、彼は歴史の表舞台から忽然と姿を消し、その後の行方は誰も知らないとされていた。


「彼が生きていたというのか……。いや、それよりも『製作者の権能』だと? 彼は、アルカナの心臓部に直接干渉できるのか?」


『肯定。ゼクスはエルドラと同等の最上位権限を有しています。……追加アーカイブを開示します』


アルナの周囲に、再び《星の記憶》の幻影が浮かび上がった。


そこに映し出されたのは、若き日のエルドラと、もう一人の男――先ほど幻影で見た、顔の半分を機械で覆ったあの黒衣の男だった。


『アルカナは人を過酷な労働から解放する、素晴らしい発明だ。だが、これを与えれば、人間は必ず便利さに甘え、己の頭で考えることをやめるだろう』


若き日のゼクスが、冷たい声でエルドラに言い放っている。


『いずれ人間は、魔法の理を忘れ、ただ機械のように言葉を繰り返すだけの愚かな生き物に成り下がる。そんなものに、これほどの強大な力を与えるべきではない』


エルドラは、親友の言葉に悲しげに首を振った。


『人は弱いが、愚かではない。間違えれば、また教えればいい。私が教育の制度を作り、この理を後世に継承していく』


だが、ゼクスはエルドラの言葉を鼻で笑った。


『教育だと? 人間がそんな面倒なものを何世代も維持できるわけがない。……私は、人類に絶望した。思考を放棄する生き物と共に歩むつもりはない』


幻影の中で、ゼクスは自らの肉体を魔法的な機械構造――半機構化していく術式を展開していた。

永遠に近い時間を生き、人類の愚かさの結末をその目で見届けるために。


『……私は去る。だが、もしお前の言う教育が廃れ、人間がただの力を持った獣に成り下がった時……私は、すべてを終わらせる』


幻影がスッと消え、広場は再び重い沈黙に包まれた。


「百年前の絶望、か……」


俺はため息をついた。

ゼクスの予言は、百年後の王国において見事に的中してしまったのだ。

王国は予算削減を理由にエルドラの遺した教育機関を廃止し、最後に残った俺の資格すら砕いた。


ゼクスから見れば、今の人類は『思考を放棄し、力だけを振り回す危険な存在』に他ならない。

だからこそ、不可逆的な停止を仕掛け、世界を終わらせに来たのだ。


「ひ、ひぃぃっ……! 百年前の大魔導師が、魔王となって攻めてきているだと……!?」


広場の隅で、王国高官の一人が頭を抱えて震え上がった。


「こ、こうしてはおれん! すぐに王宮の宝物庫を開けろ! 莫大な金銀財宝と、国境周辺の領地を割譲すると約束して、停戦の使者を送るのだ!」


高官の言葉に、周囲の貴族たちも「そうだ、そうしよう!」と賛同の声を上げる。

彼らはまだ、自分たちの持つ『財産』や『権力』に価値があると思い込んでいる。


だが、そんな彼らの浅はかな期待は、すぐに打ち砕かれることになった。


「無駄であります……!」


先ほど国境から逃げてきた伝令の兵士が、絶望的な顔で首を振った。


「私が砦を脱出する直前、砦の司令官が魔王軍に対して大量の貢物を乗せた馬車を送り出し、停戦を懇願しました。しかし……!」


兵士の顔が、恐怖に歪む。


「魔王軍の先頭に立っていた黒衣の男は、積まれた財宝を一瞥すらせず、司令官の首を風の刃で刎ね飛ばしました。『思考を捨てた家畜と交渉する舌は持たぬ』と……!」


「な、なんだと……っ!?」


高官たちが悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。


当然だ。

ゼクスの目的は、領土の拡大でも金銀財宝でもない。

魔法に依存しきった人類の甘えを憎み、その基盤である《中継晶》を破壊し尽くすことなのだから。


彼からすれば、起動句しか叫べない王国のエリートや、財宝で命を乞うだけの貴族など、対話のテーブルに着く資格すらない「家畜」に過ぎないのだ。


「もう終わりだ……! 王都も、この国も……!」


絶望の波が広場を飲み込もうとした、その時だった。


バササッ……!


夜空から、一羽の不気味な黒い鳥が舞い降りてきた。

魔力で編み上げられた使い魔だ。


「ヒッ……! 魔物だ! 魔王軍の斥候が王都まで……!」


エリート魔術師たちが怯えて後ずさる中、黒い鳥は彼らには目もくれず、広場の中央に立つ俺の目の前まで飛んできた。


そして、その嘴から一枚の黒い封筒をポトリと落とし、そのまま煙のように掻き消えた。


「先生、それは……」


ミリアが不安げに身を寄せてくる。

俺は地面に落ちた封筒を拾い上げ、封を切った。


中に入っていたのは、魔力で綴られた短い手紙だった。


『思考を取り戻した者たちへ』


宛先は、王国でもなく、王立魔法学院でもない。

俺たち『古典魔法塾』に対する、明確なメッセージだった。


俺は手紙の文面を、広場にいる全員に聞こえるように読み上げた。


『王国の家畜どもが絶望の淵に沈む中、王都の空に再び光を編み上げた者たちがいると見た。

補助輪を外され、這いつくばりながらも、再び理を思考しようとする者たちよ。

もしお前たちに、エルドラの学統を継ぐ意思があるのなら……』


俺はそこで言葉を区切り、手紙の最後の行に視線を落とした。


『東の霊脈の楔――大中継晶にて待つ。お前たちの学びが本物か、私が直々に試してやろう。 ゼクス』


それは、宣戦布告であり、同時に『招待状』だった。

ゼクスは王国の上層部を門前払いしたが、俺たち塾の生徒たちだけは、対等な交渉相手――あるいは、試験を課すに足る相手として認識したのだ。


「……試してやる、だと。ずいぶんと上から目線じゃないか」


俺の後ろで、ガルドが忌々しげに鼻を鳴らした。

だが、その目には恐怖ではなく、魔術師としての闘志が燃えている。


「先生。私たち、行くんですよね」


ミリアが、俺の顔を見上げて力強く言った。

ロイドも、セレスティアも、そして職人や子どもたちまでもが、怯えることなく真っ直ぐにこちらを見つめている。


彼らはもう、誰かが世界を救ってくれるのを待つような人間ではない。


「ああ。当然だ」


俺は黒い手紙を握りつぶし、生徒たちに向かって力強く頷いた。


「俺たちは、俺たちの魔法の理を証明する。……ゼクスの元へ行くぞ」


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