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『古典魔法?要らない』とクビにされた俺、自動魔法が止まった王国で“唯一まともに魔法を使える人間”でした  作者: 他力本願寺


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第20話 生徒たちが、夜を照らす

崩れかけた夜空のドームを、名もなき無数の光が支えていた。


「土の楔、定着しました!」

「こっちは風で瓦礫を浮かせてる! 今のうちに魔力線を繋ぎ直してくれ!」


王都の中心、第一中枢塔の広場。

そこは今、王国の正規部隊やエリート魔術師たちが指示待ちで立ち尽くす中、『古典魔法塾』の生徒たちによる巨大な修復現場と化していた。


彼ら一人一人が使う魔法は、決して派手なものではない。

職人が練り上げる土の魔力は小さな柱を作る程度だし、子どもたちが生み出す水の膜は両手で包めるほどの大きさでしかない。

だが、彼らは魔法の『意味』を知っていた。


自分の持つ魔力を、結界のどの部分にはめ込めば構造が安定するのか。

パズルのピースを合わせるように、基礎式を積み上げていく。


俺は全体を見渡し、わずかに魔力の流れが乱れた箇所にだけ声をかけた。


「風の角度が急すぎる! 上へ逸らすのではなく、横へ流せ!」

「治癒班、魔力出力がブレているぞ。祈りに頼るな、傷の断面をイメージし直せ!」


俺の助言を受けると、生徒たちはすぐに自分の魔力を微調整し、誤差を修正していく。

教師である俺がすべてを代わりにやってやる必要は、もうどこにもなかった。


「ハァッ……ハァッ……!」


広場の中央では、宮廷魔術師長ガルドが、全身から汗を吹き出しながら杖を掲げていた。


「どうした、お前たち! それでも宮廷魔術師か! この私の魔力制御に遅れるな!」


彼が怒鳴りつけているのは、腰を抜かしていた彼の部下たちだ。

ガルドは彼らを見捨てることなく、手動詠唱による絶対的な出力制御で、崩落する結界の破片から部下たちを守る傘を作り上げていた。


「起動句に頼るな! 魔力の結び目を意識しろと言っているだろうが!」


そこでガルドは、一瞬だけ唇を噛んだ。

そして、部下たちへ向けて低く、しかし確かな声で告げる。


「……私は、お前たちに魔法を教えていたつもりで、起動句の押し方しか教えていなかった。すまなかった」


部下たちが、驚いたように彼を見る。


「だから今から学び直せ。私もそうしている。恥じる暇があるなら、目の前の魔力を見ろ!」


かつて手動詠唱を「児戯」と笑った男が、今は不格好に顔を歪めながら、必死に自分の魔力で他人を守っている。

その背中に感化されるように、一部の正規魔術師たちも震える手で杖を握り、見よう見まねで魔力を練り始めていた。


「みんな、こっちです! 足元に気をつけて!」


少し離れた場所では、ミリアが両手から放つ『灯火』を掲げ、避難する市民の列を導いていた。

彼女の生み出す光は、ただ明るいだけではない。不安に駆られる人々の心を落ち着かせるような、温かな波長を持っていた。

彼女が歩くたび、暗闇に怯えていた市民たちの顔に安堵の色が広がっていく。


「怪我人はこちらへ! 止血を急いで!」


セレスティアもまた、修羅場の中で立派に治癒班を統率していた。

神官たちに具体的な術式の工程を指示し、自らも絶え間なく魔力を紡ぎ続ける。

彼女の純白のローブはすっかり泥と血で汚れていたが、その顔つきは本物の『聖女』と呼ぶにふさわしいものだった。


「生徒たちは俺の背中から離れるな! 瓦礫を弾くぞ!」


若手教師のロイドが、学院の生徒たちを率いて防衛線を張っている。

彼もまた、エリートとしての殻を破り、現場で泥臭く生きるための魔法を身につけつつあった。


子どもたち、落ちこぼれ、職人、衛兵、そして心を入れ替えた魔術師たち。

それぞれが自分の役割を全うし、巨大な結界の一部となっていく。


やがて、彼らが積み上げた基礎式のパズルが完全に噛み合った。


「……結界の魔力流、安定しました!」


ロイドの叫びと共に、夜空を覆うドームの亀裂が、彼らの魔力によって編み込まれた新しい光の網目で塞がれた。


ズンッ、と重い音が響き、結界にぶつかっていた魔物たちが弾き返される。

応急処置ではあるが、王都大結界は完全に崩壊の危機を脱したのだ。


「やった……!」

「俺たちで、結界を支えきったぞ……!」


広場に、歓声と安堵のため息が広がった。

その場にへたり込む者、互いに抱き合って喜ぶ者。

王都の市民たちは、自分たちを救ったのが王国の偉い魔術師ではなく、泥だらけになった寄せ集めの塾生たちであることを、確かにその目に焼き付けていた。


「よくやった。全員、合格だ」


俺がそう告げると、生徒たちは疲れ切った顔に満面の笑みを浮かべた。


その時だ。

夜明けの光が差し込み始めた広場の中央に、青白い光の粒子が舞い集まった。

《アルカナ》の管理人格、アルナだ。


彼女は静かに教室の――いや、広場に集まった全員を見渡した。


『事象の観測を完了。……多数の対象者において、術理の真の理解、および事象の自律制御を確認』


アルナがすっと手を上げる。

すると、ガルド、セレスティア、ロイド、そして数人の職人や神官、衛兵たちの胸元に、淡い光の紋様が浮かび上がった。


『第二から、第十二の《継承者》をここに認定します』


「こ、これは……《源紋》……!?」

「俺にも、本物の魔法の資格が……」


自分の胸に灯った光を見て、ガルドやロイドたちが息を呑む。

ミリアを含め、これで継承者は十二名。


アルナは俺の方を向き、微かに頭を下げた。


『現在、継承者カウント――十二名。第一中枢塔の機能、暫定的に維持されました』


「ああ。よく見ていてくれたな、アルナ」


俺が労いの言葉をかけようとした、その時だった。


「急報!! 急報であります!!」


王都の外へ通じる大通りから、一騎の伝令が猛スピードで駆け込んできた。

馬も乗り手もボロボロに傷つき、限界を超えて走り続けてきたことがひと目でわかる。


「どうした! 何があった!」


王国の将校が駆け寄ると、伝令は血を吐くような声で叫んだ。


「こ、国境の砦より報告……! 魔物の軍勢が……統率された魔王軍の軍勢が、国境を突破しました!」


「なんだと!?」


「奴らは略奪もせず、ただ一直線に……各所の《中継晶》だけを正確に破壊しながら進軍しています! このままでは、大陸全土の魔法基盤が完全に……っ!」


伝令の絶叫に、歓喜に沸いていた広場は一瞬にして凍りついた。


魔王軍。

そして、《中継晶》の正確な破壊。

それは単なる魔物の暴走ではない。機構の仕組みを完全に理解した者の、明確な悪意を持った侵略だった。


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