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『古典魔法?要らない』とクビにされた俺、自動魔法が止まった王国で“唯一まともに魔法を使える人間”でした  作者: 他力本願寺


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第14話 聖女、初めて自分の力で人を救う

地方の農業地帯へと出発するため、俺とミリアが王立治癒院の前に停めた馬車へ荷物を積み込んでいた時のことだ。


「どいてくれ! 重症だ!」


にわかに騒がしくなった治癒院の入り口に、数人の衛兵が血まみれの男を担ぎ込んできた。

王都結界の一部崩壊に伴う瓦礫の撤去作業中、崩れた石柱の下敷きになったらしい。

男の息は浅く、一刻を争う状態だった。


「ひ、ひどい怪我だ……! 早く、祈りを!」

「大いなる癒しよ! 神の恩寵よ、ここに!」


ベテランの神官たちが慌てて男を取り囲み、目を閉じて必死に祈りの言葉を叫び始める。

だが、どれだけ大声で祈ろうとも、淡い光の粒子ひとつ発生しない。


神官たちは焦燥に顔を歪め、やがて絶望したようにその場に崩れ落ちた。


「ああ……神は我々を見捨てられたのか……っ!」

「《アルカナ》が眠った今、我々にはただ死を看取るしか……」


彼らは動けない。

これまで、彼らの「祈り」という漠然とした意思を、完璧な治癒術式へと変換してくれていた巨大な基盤がないからだ。

彼らは魔法を使えなくなったのではなく、最初から仕組みなど何も知らなかったのだ。


「先生……! あの人、このままじゃ……!」


ミリアが青ざめた顔で俺の袖を引く。

だが、俺は馬車のそばから動かず、静かに首を振った。


「俺の出番はない。あそこにはもう、頼もしい生徒がいる」


俺の視線の先。

崩れ落ちる神官たちを掻き分け、純白のローブを揺らして進み出たのは、聖女セレスティアだった。


「退いてください。私がやります」


「セレスティア様! 無駄です、奇跡はもう……!」


「奇跡ではありません。これは、技術です」


セレスティアは血に濡れることも厭わず、男のそばに膝をつき、その傷口の上に両手をかざした。


(傷を塞ぐ。血流を整える。痛みを抑える。体力を戻す……)


彼女の唇が、小さく動いているのが見えた。

それは、俺が教えた治癒魔法の基礎工程だ。

これまでは《アルカナ》が瞬時に行っていた複雑なパズルを、彼女は自分の頭の中で一つ一つ、丁寧に組み上げている。


だが、彼女は神官としての自分を捨てたわけではなかった。


「慈悲深き神よ。どうか私の魔力を導き、この命を紡ぐ力となれ……!」


セレスティアは、祈りを捨てなかった。

漠然と「助けてほしい」と他力本願にすがるのではなく、自らの魔力制御を極限まで高め、術式を安定させるための絶対的な集中力として、自らの信仰を技術と結びつけたのだ。


――ポォォォン……ッ。


彼女の両手から、太陽のような暖かく力強い光が溢れ出した。

それは自動魔法の無機質な光とは違う、術者の強い意思と魔力が編み込まれた、本物の魔法の輝きだった。


光が男の体を包み込むと、見る間に開いた傷口が塞がり、失われた血の巡りが整っていく。

苦痛に歪んでいた男の表情が和らぎ、やがて穏やかな寝息へと変わった。


「おおっ……! 傷が、傷が消えたぞ!」

「聖女様の奇跡だ……! やはり神の恩寵は失われていなかったのだ!」


歓喜の涙を流し、平伏しようとする神官たち。

だが、セレスティアは額の汗を拭いながら、彼らを真っ直ぐに見据えて首を振った。


「違います。神が勝手に治してくださったのではありません。私が、私の魔力で治したのです」


彼女の凛とした声が、治癒院の入り口に響き渡る。


「祈りは、神に丸投げする言葉ではありません。命を救うと心を定め、魔力を乱さないための、私の最初の術式です」


神官たちが、雷に打たれたように目を見開く。


「私たちは知らなければなりません。祈るだけで人を救える便利な時代は終わりました。これからは、私たちが自らの手で魔法の理を学び、命を繋いでいくのです」


その言葉に、神官たちは呆然とし、やがて自分たちの手を見つめて深く反省するように俯いた。


祈るだけで何もできなかった大人たちが、基礎から学び直した少女の背中を見て、己の無知を恥じた瞬間だった。


「……立派になったな」


俺は満足して頷き、御者台に乗り込んだ。

ミリアも嬉しそうに微笑みながら、俺の隣に座る。


「出発するぞ、ミリア。王都のことは、もう彼女たちに任せておいて問題ない」


「はいっ!」


馬車はゆっくりと動き出し、王都の城門を抜けて東の街道へと進み始めた。


目指すは、農業魔法が停止して危機に陥っている地方の領地だ。

街道を小一時間ほど進み、王都の喧騒が完全に遠ざかった頃。


チカッ……。


不意に、馬車の荷台の空間に青白い光の粒子が寄り集まり、見覚えのある少女の姿を具現化した。

《大魔導基盤アルカナ》の管理人格、アルナだ。


『保守教育資格者、ユーリス・クロフト。あなたに報告すべき事項があります』


「どうした、アルナ。こんな王都から離れた場所まで、わざわざご苦労なことだな」


俺が手綱を握りながら振り返ると、アルナはいつも通りの感情の読めない瞳で俺を見つめ返し、淡々と告げた。


『目的地である地方の《中継晶》に関する情報です。……該当の魔力中継拠点には、過去百年間、一度も保守点検が行われた記録が存在しません』


「なんだと……?」


俺は思わず眉をひそめた。


百年間、一度も保守されていない。

それはつまり、賢者エルドラが自動魔法の基盤を作り上げてから今まで、王国が地方のインフラ管理を完全に放置し、ただ魔力を搾取し続けてきたという事実を示していた。


『当該地域の《中継晶》は、限界状態にあります。速やかな対応を推奨します』


アルナの姿がスッと空間に溶けて消える。

俺とミリアは顔を見合わせ、より一層強く馬の手綱を握り直した。


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