四章:二十五話:4
ダニエルが進み出る。エスコートされるエリンも合わせて入場する。
煌々と灯るシャンデリアが眩しくて、エリンは目を眇めた。
眩しさに順応すると、目の前に地下聖堂で会った時とは比べ物にならない豪奢な正装を纏う陛下がいた。
絵画の前王と同じく、数多の宝石が飾られた王冠を戴き、毛皮を縁にあしらった深紅のマントを羽織っていた。王冠と同等の宝石が散りばめられた錫杖を手にしている。
「来てくれて、ありがとう」
応えようもなく、エリンは曖昧にほほ笑んだ。
シャンデリアが大きく見え、天井がホールで見た時よりも近い。
精緻な彫刻を施された腰高の手すりがあった。
手すりの向こうを見下ろせば、貴族たちが揃っているホールがあるのだろう。
(私が、こんな高いところから……)
エリンはダニエルの腕を強くつかんだ。
陛下が錫杖をもって、隣に立つようにダニエルとエリンに無言で指示する。
ダニエルが頭を垂れ、エリンも倣う。
厳かに頭を上げて、進み出た。
陛下から一歩下がった位置で立ち止まる。
エリンからも階下が見えた。
ホール中央が円を描くようにぽっかりと空き、囲むように着飾った貴族たちが立っている。
円を維持するために騎士達が等間隔に並んでいた。
中央をなぜ空けておくのだろうと興味本位で覗き込んだエリンは、刺すような貴族たちの視線に晒された。恐れおののき、肩をすぼめた。
恐々とするエリンの目に見知った顔が映りこむ。
伯爵と夫人、アメリア。階下で見上げるたくさんの貴族に混ざり、三人が立っていた。
(どうしよう。アメリア様も伯爵も、伯爵夫人も。全員、いるなんて)
いるとは分かっていたが、こうもあっさり見つけることになろうとは思わなかったエリンは、ふらっと倒れこみそうな浮遊感を覚え、視線を泳がせた。
挙動不審の動きが目に留まったのか、階下に立つアメリアの表情がさっと変わった。
アメリアが伯爵と夫人の腕をつかんだ。
上階に立つエリンの存在に気づいた三人が三人とも、鳩が豆鉄砲を食った表情に一変する。
見つかったと察知したエリンは、しりもちはつきたくないと、ダニエルの腕にもたれ、踏みとどまる。
事前の言葉通りにダニエルはしっかりと直立し、エリンが身体を寄せても、びくともしなかった。
階下の貴族から目を逸らし、エリンはダニエルを見あげた。
不安げなエリンに向け、ダニエルが微笑む。震えるエリンの手をそっと撫でた。
指先から伝わるぬくもりに、波立つエリンの心が宥められる。
(堂々として、微笑んでいればいいのよね)
ダニエルの言葉を反芻し、エリンは一生懸命笑顔を作る。鏡で見た際に意識したことを思い出しながら。
(笑顔は鉄壁の盾。ダニエル様の傍にいれば、大丈夫)
緊張が嘘のように氷解し、エリンはダニエルの腕にしなだれかかる。
「皆の者」
陛下が自ら、階下に向けて呼びかけた。
「ここにいるは、奴隷からなり上がったとされる聖騎士ダニエル・スネル」
掲げ上げた煌びやかな錫杖をもって、陛下がダニエルを見るよう指し示す。
「彼こそが、その昔、我が母の策謀により暗殺された第二妃の子にして、我が異母兄。行方不明とされていた第一王子。ダニエル・スレイアルである」
会場中が騒然となる。
どよめく場に向け、王が錫杖を振った。
「静粛に。これより母たる太后の、王暗殺、第二妃暗殺の公開断罪をとり行う」
宣誓とともに、会場の出入り口が開かれた。
複数の騎士に囲まれた太合が、捕縛された姿で入ってきた。
猿轡を噛まされ、髪を振り乱した老女からは、かつての威厳は欠片も感じられない。
背を丸め、床を見つめる姿は、エリンが初めて見た時より二回りは小さく見えた。
地下聖堂に居た時と同じ衣装を着ているはずなのに、まるで別人のようである。
あまりの変わりようにエリンは凍り付く。膝が小刻みに震えだした。
ダニエルの腕にしがみついていなければ、立っていられずに崩れ落ちていたに違いない。
怯えるエリンの手の甲を、ダニエルは再び、そっと一撫でした。




