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生命の書庫(お題:本/著者:髭虎)
夜空めいた藍色の空間に、無数の書物がふわふわと浮かんでいる。
「まったく……」
ここは書庫。
国を越えて、文化を越えて、世界を越えて。
人々の、獣の、あるいは草花の、生けとし生ける全ての者の軌跡が納められた“生命の書庫”
無限に広がり続ける書庫の中で管理者たる男はひとり、自嘲に満ちた独白をこぼした。
「私は随分と――ツマラナイ生き方をしているものだ」
どこか誰かの物語をまた一つ、その手に掴みながら。
「誰か、私をここから連れ出してはくれないものか……なんて」
男の仕事は書庫の管理。
増え続ける書物を把握し、分類し、整理すること。
傍観者として“生命”を羨み続ける、最低最悪の生き方だと男は認識していた。
「どこかのお姫様じみた考えだな」
本を開く。知るために。分類するために。
今回はさしずめ『塔の上のラプンツェル』と言ったところか。
「まぁ、今どきのお姫様は自分で行動するらしいが」
とある人間の一生。魔法の姫の物語。
男の手元から、書物が消える。
「素晴らしいことだよ、本当に」
一つの呟きの間に、数十の書物が夜色の書庫を拡張した。
一つの仕事を終える間に、数百の物語が綴られた。
それでも男は全ての物語へ、心よりの称賛を送り続ける。
「さて、分類を続けるとしよう」
――男はふたたび、物語を手に取った。




