少年と竜(お題:竜/著者:小鳥遊賢斗)
その昔、魔法の竜がある小島に暮らしていました。
その竜はある少年ととても仲が良く、長い休みに入ると、毎日のように一緒に遊んでいました。
ある時は竜の火炎の息で海賊船を撃退し、ある時は竜が少年を乗せて空高く飛び上がり、景色を二人で楽しみました。
けれど、少年が大人になるにつれて、少年はやがて小島に行かなくなり、竜の存在は少年の頭の中から次第に薄れていきました。
大人になった少年は、ある日夢を見ました。
それは、竜が水平線の向こうを幾日も幾日も眺めている夢でした。
かつての少年は、妙な胸騒ぎがして、久々に小島に出掛けてみることにしました。
すると目に飛び込んできたのは、すっかりお爺さんになった竜の姿でした。
竜は人間よりずっと寿命が長い筈なので、少年は驚きました。
「ああ……来たか……少年よ……」
竜はしゃがれた声で話し出しました。
「私は何度も人間の死に様を見てきたが、逆に私が看取られる側に回る日が来ようとはな……」
かつての少年は、竜が最期であることを悟り、思わず泣き出してしまいました。
「寂しい思いをさせて、ごめんなさい。会いに来ようと思えば、来れた筈なのに。君がどれだけ寂しい思いをしたか、僕は夢で見てきた」
竜は自らを嘲笑うかのように、軽く鼻で笑いました。
「もう寂しい思いをすることには慣れていた筈なのにな。だから私はこんな孤島へと住み始めた。もう二度と、置いていかれることのないように。だが、ある日君が突然現れた。こんな何も無い離れ小島に、自作のカヌーを使って冒険に訪れる人の子が居るとは、誰も思わないだろう」
そう回想する竜は、ずっと遠くを見つめているようにかつての少年には見えました。
「去りし日の君の爛々と輝いた目を、私は今でも鮮明に思い出すことが出来る。竜を目の前にして『友達になりたい』なんて言い出す怖いもの知らずは、とっくの昔に絶滅したと思っていたのだがな」
竜が言葉を切ると、打ち寄せては引いてゆく波の音が、鮮明に耳に入ってきます。
「私は最初君に冷たく接したが、君は決して諦めなかった。だから私は根負けして、君の遊びに付き合うようになった。仲良くなる人間は君で最後だと心に決めていたが、運命とは奇妙なものよな。本当に最後になってしまったのだから」
かつての少年は涙を拭き取ると、竜に話し掛けました。
「君が死んでも、決して一人にはさせない。いつまでもいつまでも、ここに君が居た事を伝えていく。君はやっと、寂しさから解放されるんだ」
「……そうだとしたら、私はとても嬉しく思う。最後に、君に会えて……良かった……」
竜はやがて息を引き取りました。
その後、少年の一族は竜の伝説を口伝し、竜の墓を毎年訪れたのでした。




