無題(お題:散歩/著者:灰主)
どこまでも青く、雲一つ無い晴天。自由を象徴しているかのような空に座す太陽は、今日も様々な命に温もりを与えていた。
綺麗な、としか表現出来ない――いや、この場所に限ってはどんな言葉も不要だろう。赤、青、黄、一目見ただけでも十数種類の色で溢れる花園の中心を、僕は歩いていた。
「言葉にならないくらい。ありきたりですけど、そう思えるくらい素敵な場所ですね」
ここには下界の観察、という名目で散歩に来ていたのだが、想像を容易く超える光景に驚きを隠せない。
僕のいる世界とは違った、生命そのものの飾らない美しさ。見れば見るほどに様々な感想が浮かんでくるが、吟遊詩人でもない僕の言葉では到底言い表すことなど出来ないだろう。この場所にはそれほどの美しさが内包されているのだから。
細かな色の違いも含めれば、無数にあると感じる花達。自分好みの花を見つければそちらに駆け寄り、変わった形状のものを見つければ触れてみる。
そうしていると、いつの間にか散歩というより花の魅力に引き寄せられる蝶のような気分になってくる。
「楽しい、で合っているのでしょうか? 上手く言い表せませんが、胸がポカポカします」
間違ってはいないだろうが、正解かと言われればそうでもないだろう。
一ヶ所に留まることなく散る歩み。成程、これが本当の『散歩』かと冗談半分本気半分で思っていると、気づけば既にお昼時。名残惜しいが、そろそろ戻らなければならない。
ここは自分だけの秘密の場所にしようと心に決め、空へと視線を移し遮るもののない陽の光に一つの願いを込める。
――どうか、この場所を守ってください。
でなければ、散歩に来る理由が無くなってしまう。なんて、それが全てでは無いが、嘘でもないのでそう祈る。
「散歩、いいものですね」
明日も、必ずここに来よう。




