ヒノカミ様(お題:竜/著者:ゆりいか)
竜という存在はこの世界に置いて最強の生物を意味する。
不老長寿であり、強靭な巨躯を持ち、空を飛べば、業火を吐いて街を焼き尽くすのも容易い。
故に、竜を神の使者として称える者もいれば、畏怖の対象として恐れる者もいるだろう。
「今日もよろしくおねがいします、ヒノカミ様」
僕の街にいる竜、ヒノカミ様は街の中心の祠でずっと眠っている。ここ数十年微動だにしないらしい。
いつから寝ているのかは分からないけれど、この街の守護神として昔から信奉されていた。
「お前ら、ちゃんと垢も拭えよ!」
孤児の僕たちの仕事は、ヒノカミ様の巨体を洗うことだ。
足場を組んで、モップを使いながら複数人で体を洗っていく。
その際に垢と一緒に取れた鱗や爪、糞などの老廃物がこの街の特産になる。
竜という生き物自体が非常に珍しく、その体から出るもの全てが高級素材になる。
僕らの命なんか、それに比べたらあまりにも安い。
だから、高所仕事の多い、こんな危険な仕事をさせられるのも仕方がないんだ。
「どうやったら、この仕事辞められるのかな」
親の居ない僕らにとって、この仕事しか食べる方法がなく。職を変えようにも、後ろ盾はない。
ただ、大人になったらこの仕事を辞めさせさえるので、それまでになにか考えておきたい。
「一応、これも名誉職だからな。ヒノカミ様へのご奉仕は、孤児しかしちゃいけないんだと」
「もしかして、ヒノカミ様は大人が嫌いなのかな?」
「かもしれないな」
僕も大人は嫌いだ。子供をこき使って、威張り散らしまくるし。いいことがない。
飯だって、僕らが粟しか食えないのを知ってるのに、ゲラゲラ笑いながら鶏肉食べてる時は殺意が湧いた。
でも、それに文句を言いにいったところで殴られるのがオチだ。
「でもさ、僕たち孤児の中で一番信用できる大人がこの中にはいるんだよ」
「誰だよ?」
「ヒノカミ様だよ。ヒノカミ様がいなきゃ俺たち生きられない。だから、親の居ない僕たちにとって、ヒノカミ様はお母さんなんだ」
ヒノカミ様は何も語らない。何も語らないけど、僕たちの生活を支えてくれている。
僕たち孤児はヒノカミ様のことを密かに“お母さん”と呼んでいた。
独り立ちするまで、この“お母さん”の背中を見ながら生きていこう。僕はそう考えながら、今を頑張ってる。




