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選んだお題で千文字ワンライ!  作者: アマチュア小説家同好会
十三周目(お題:『猫』『バレンタインデー』『ツインテール』/日付:2019/2/23)
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根子田萌香(29)の憂鬱(お題:猫、バレンタインデー、ツインテール/著者:ゆりいか)

 都内某所の小さなマンション。独身女性向けのセキュリティーがしっかりしたおしゃれな借家。

 その一室に、バレンタインデーに誕生日の独身女性、根子田萌香はイチゴのホールケーキを目の前にしていた。


「ファッッッッキン、バレンタインンンン!!! いぇいいいいいい!!」


 ドスンっっと銀色のナイフでケーキを大雑把に切り分け、左手のフォークでおもっくそぶっ刺した。

 誕生プレートも載っていない、帰りにケーキ屋で買ってきた2000円の奮発ケーキ。若い女一人では悔いきれない16cmサイズなのだが、萌香さんには朝飯前なのだ。

 

「むーしゃ、むーしゃ! うめえなぁ……グビッグビグビ。ぷっはぁ! ストロングうめぇ!」


 やけくそだった。甘くてお上品なスイーツに、アルコール度の高い安い酎ハイ。この組み合わせで美味いと言えるのは味覚がおかしいのか、精神状態がおかしいのかのどっちかだろう。一応、後者である。

 口に白いクリームでヒゲができようがお構いなし。その端正な顔が醜く歪んでいく姿は、三十路リーチの為せる技なのかもしれない……そう、萌香は崖っぷち女子なのだ。

 

「んだよぉ、なんで一人ぼっちなんだよ……私、めっちゃモテるのに彼氏できたこと無いってどゆことよ?」

「そりゃ、萌香がより好みしすぎだからだよ。萌香、美人だから選び放題だったのにねー」

「売れ残りみたいな言い方すんなよ! まだ旬じゃい!」

「どーだかねー」


 所狭しと乱雑に放置された洗濯物と、縦に積んだBLマンガと雑誌。萌香は片付けられない腐女子だった。

 そんななかでゴロニャンとしながら会話をしているのは、唯一の家族、愛猫のロシアンブルー:ミケーネである。

 

「そりゃ、私は生まれつきネコミミ生えてて? しかも美少女だったからモテたさ……でも、私に合う男がいなかっただけで、私悪くないもん! もん!」

「うわ、29歳が可愛こぶりっこしてる……」

「うるせー! 三味線にするぞ!」


 萌香は普通の人間とは違い、世にも珍しいネコミミとしっぽが生えた美少女だった。美少女は過去形である。

 そのため、他の人間とは違い、猫の言葉がわかったり、熱いものが苦手だったり、身体能力が高かったりと。普通の人間よりもはるかにユニークなキャラだったのだが……上手く持ち味を活かせずシングルなのである。

 

「今年はハラスメント云々で職場でチョコ配らなくて良かったけどさぁ……私チョコ食えないから。味覚が部分的に猫だし。ほんと、バレンタインデーにチョコ渡す文化作った業者ぬっころしたい」

「生まれてこの方本命も渡したこと無いもんね」

「そうなんだよ……別に私から渡すほどでもねえなって。昔は男が群がってきたのになぁ」


 若い頃は確かに萌香はモテたのだが、それにかまけすぎてしまった。

 自分はモテるから、相手が尽くしてくるものだと。キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンってやつで通しすぎて、自分からキャッチ・ユーすることがプライドが邪魔でできなかったのだ。

 三十路近くなってしまうと、そうも言ってられず。年齢でもう、避けられてしまう。若さゆえの過ちは味わえなくなってしまったのだ……哀れ萌香29歳。

 

「20の時はさ、ネコミミキャラのコスプレして、ツインテールしてイベントでたら。めっっちゃカメコが群がってきて、優越感やばかったよ……」

「今からでも同じようにすればモテるんじゃないの?」

「三十路近い女がツインテールってバカじゃないですかぁ!?」


 男は馬鹿な生き物だ。若いというだけで価値を求めてしまうのだから。だからといって、萌香がいい塩梅に熟した女かどうかは定かではない。

 

「合コンでもよぉ、私がお酒好きだからガバガバ飲んでたら『知ってます? 猫ってプリン体好きらしいですよ?』っつったやつがいたんですよぉ!」

「プリンって、萌香がよく食べてるおやつのこと?」

「いや、酒のつまみとかおっさん臭い食べ物ばっかり食ってるよねって皮肉ってきやがったんだよ……あの糞女ぁ!」


 プリン体はお肉や魚など、カロリーが多いもののことを指す。萌香が美人だったため、猫っぽいため。そういった嫌がらせめいたこともうけるのだった。そして、それを真に受けた男が萌香に対して一歩引いてしまうのもあるあるであった。

 

「もう、彼氏とかいいかなぁ……ミケーネ、結婚しゅりゅ?」

「またかわいこぶりっ子。歳を考えてよ。30歳とか僕にとって老婆だよ。それに、僕はメスだよ」

「タチやってよ、私ウケするから」

「いやだから………」

「彼氏が欲しいんだよぉおおお!! 一人で死ぬのやじゃああああ!!」


 いろいろこじらせてしまった萌香はもう後戻りはできないのである。だが、人生は常に前に進み続けなければならない。

 プライドが邪魔してややこしい系の女子である萌香だが、ちゃんと明日はあるのである!

 

 がんばれ、萌香! あと、29歳おめでとう! 4月からは同級生が30歳になるぞ!

 

「嫌だぁあああああああ!!!」

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