表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
選んだお題で千文字ワンライ!  作者: アマチュア小説家同好会
一周目(お題:『秋』『夕暮れ』『並木道』/日付:2018/11/3)
3/36

16時50分くらいのことだった(お題:夕暮れ/著者:細雪きゅくろ)

病院の道路はきちんと舗装されている。だから、車椅子を押しやすい。

「あのさ」

車椅子に乗っている彼が呟く。それは、後ろに私に届かないくらいの小さな声。

「病院の中だけでも、デートできて嬉しかったよ。」

穏やかで、囁くようで。この時がいつまでも終わってほしくないと思った。それでも病院の白い建物はもう近くだ。傾いた日差しが辺りを柔らかく染め上げ、寒さが足元から這い寄る気配がした。

「私も楽しかったよ。」

本心で、そう答えた。彼は、少し笑ったようだった。

色が変わった紅葉が落ちていく。『あの葉が落ちた時、私は死ぬ』とか言っていたのは誰だっけ。

「絶対に、今日のことは忘れない。」

震えた声が、それでも強めに言う。

「どこに行っても、あなたと離れても忘れないよ。」

「行かないで。」

彼の身体を、後ろから抱き締める。そうしないと彼はどこかへ行ってしまいそうだった。衝動的に体が動いてしまった。

「……ごめんね。」

その声は、か細く震えていた。抱き締めたから気付いた、彼の贖罪の声だ。

「謝らないで、お願い。」

「ごめんね。君には、しっかりと言っておきたい。」

触れた頬に液体が伝う。私の顔にも多分同じものが沢山ある。

「好き、だから。だから、ごめん。」

「私も……私も、好きだから。」

白い手を絡め取る。この手を離さなければ、彼は遠くに行かないかもしれない。

「僕のこと、忘れてね。」

「忘れない、絶対忘れない。」

街灯が光を放つ。いつもの帰りはこの時間だ。それでも彼の痩せた身体から、回した腕を離すことができなかった。

「どこに行くのかくらい、教えてよ。」

「僕も分からないなあ。だから、忘れてって言ってる。」

「ひどい、こんなに好きにさせておいて。」

「ごめんね。」

私は泣きじゃくって、今ではない別れを惜しむ。それが彼を困らせていることを知っている。

「……なら、僕は行った先に、すごく遅れて君が来るのを待つよ。何十年かかるかな。」

「いや、そんな話しないで……。」

「君を悲しませるのは知ってる。でも、君が何十年先に来てくれるなら、僕はいつまでも待ってるよ。」

「いっ、一緒に……」

「だめ。君のこれからの話を、聴きたいんだ。」

私は抱きしめた腕を離した。車椅子に手を掛け、ゆっくり歩く。

「ここまででいいよ。中にお迎えの人が来てる。」

「……貴方が、行った先に、土産話を聴き飽きるほどいっぱい持って行く。」

「楽しみだね。」

彼は、笑って小さく手を振った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ