感情を食べるロボット(お題:感謝/著者:ゆりいか)
感情をエネルギーに変える装置が発明され、人間社会は大いに発展していった。
ただ、その感情はプラスの方向でないと駄目らしく、笑ったり喜んだりしないとエネルギーにならない。
枯渇してしまう燃料依存だった人間にとって、感情は新時代のエネルギー資源だった。
そのため、人間は如何に楽しく生きられるかが主題となり、この世界には幸せな人ばかりがあふれるようになった。
「え、えええと、そう、ですね。はい、コーヒーをお持ちします」
退屈で苦痛な労働は、全て感情エネルギーで動くロボットに任せられる。
感情エネルギーを稼ぐのも私達ロボットの仕事だ。
私もそのロボットの一人で、古錆びた喫茶店で給仕のお仕事をしていた。
「いつもありがとうね、ディーバちゃん」
いつもこのお店にやってくるおじいさんが私に愛想よく笑ってくれる。
この瞬間、感謝の言葉で私の中でエネルギーが溜まっていった。
「い、いいいえいえ、喜んでいただけで、ななによりです」
可愛らしいメイド服に身を包み、私は人間の幸せのために働く。
人間の感情を把握するために、私達には高度なAIが施されているから、ある程度の自我はあった。
楽しいことも、そして苦しいことも。生きている限り、いくらでも学ぶ機会はある。
「吃音、治るといいね」
「そ、そう、ですね」
テレビに映っているのは、最近流行りのアイドルライブ。
そこにはきらびやかな衣装と素敵な歌声で歌うロボットの姿があった。
本来なら、私がそこにいたのだけど。
「しかし、世の中わからないものだね。ロボットでも吃音になってしまうだなんて……」
私にも感情があるからなのか、自我があるせいなのか。
アイドルとして人工的に作られた私は、突然吃音になってしまい、歌を歌うことが出来なくなってしまった。
そうなればお払い箱だ。あっけなく捨てられた時はとてつもない喪失感に襲われた。
「でもさ、ディーバちゃんの声。僕は今でも大好きだよ」
場末の喫茶店のメイドとして廃棄されずには済んだけど。これもまた人生なのだろう。
アイドルをやってたときより、感情エネルギーを稼ぐことは出来ないけれど。私はこれでも満足だ。
「うん、あ、あありがとう!」
こうやって、感謝の言葉を楽しく言える私は、多分幸せなのだから。




