第二十一話「イザベルの孤立」
第二十一話「イザベルの孤立」
秋の社交シーズンが始まった。
王都に貴族たちが戻り、夜会や茶会が再び活発になる季節。だがモンテ侯爵家への招待状は、以前と比べて明らかに減っていた。
イザベルはその現実を、一つ一つ突きつけられていた。
茶会に出れば、以前のような歓迎がなかった。挨拶をしても、短い返事しか返ってこない。話しかけても、誰かが別の話題に切り替えてしまう。輪の中に入れているようで、実はその外側に置かれている——そういう感覚が、最近ずっと続いていた。
ある午後の茶会でのことだった。
イザベルは隣に座った夫人に、笑顔で話しかけた。
「先日の夜会、素敵でしたわね。あのお料理、特に美味しくて」
「……ええ、そうですわね」
夫人は短く答えて、すぐに反対側の人に話しかけた。イザベルは微笑みを保ったまま、手元のカップを見つめた。
少し離れたテーブルで、笑い声がした。
アメリアだった。
マリアンヌと並んで座って、周囲の夫人たちと楽しそうに話していた。アメリアが何かを言うたびに、周りが笑った。アメリアが笑うと、周りも笑った。自然に、輪の中心にいた。
以前は、あの場所にいたのは自分だった。
いや——違う、とイザベルは思い直した。
自分はあの場所に、一度もいたことがなかった。侯爵夫人になれば、あそこに立てると思っていた。でも実際には——アメリアがいなくなっても、その場所は自分のものにはならなかった。
茶会が終わり、帰りの馬車の中でイザベルは一人考えた。
何が足りないのだろう。
ドレスは一流のものを選んでいる。髪も丁寧に整えている。言葉遣いも、気をつけている。なのになぜ、誰も自分の方に向かってこないのだろう。
答えは、薄々わかっていた。
でも認めたくなかった。
屋敷に戻ると、エレナが玄関で待っていた。珍しいことだった。
「イザベル様、少々よろしいでしょうか」
「何?」
「来月の秋の収穫祭の準備についてでございます。例年、モンテ侯爵家では近隣の方々をお招きして、小さな宴を開いておりました。今年はどうなさいますか」
イザベルは少し考えた。
「例年通りでいいんじゃない?」
「はい。では準備を進めますが——例年は奥様が、招待する方々のお名前と、それぞれのご事情を細かくまとめてくださっていました。どなたにはどんなお料理が合わないとか、どなたとどなたは席を離した方がいいとか」
「……そんなことまで」
「はい。そのリストが、今年はございませんので——イザベル様にご指示いただければと思いまして」
イザベルは黙った。
そんなリストを、自分は作れない。招待する人たちのことを、そこまで把握していない。名前すら、まだ全員覚えていない人がいる。
「……エレナ、あなたはわかるでしょう。去年のを参考にして、進めてちょうだい」
「はい。ただ——去年のリストは奥様の手書きで、細かい注釈がついておりまして。私の判断だけでは、少し不安でございます」
エレナの言葉は丁寧だった。でもその奥に、はっきりとした意味があった。
私にはできません、ではなく——あなたにやってほしい、と。
「……わかった。後で見せて」
「ありがとうございます。では後ほど」
エレナが下がった。
イザベルは玄関に一人立って、天井を見上げた。
アメリアの手書きのリスト。アメリアが細かく書いた注釈。アメリアが積み上げてきた五年間の記録。
それを今、自分が引き継がなければならない。
でも——引き継げるだろうか。あの人が五年間かけて作り上げたものを、自分に引き継げるだろうか。
その夜、イザベルはアメリアのリストを広げた。
丁寧な文字で、細かく、でも読みやすく書かれていた。誰が何が苦手で、誰が誰と仲がよくて、誰には特別な配慮が必要で。人への、深い気配りが、一行一行に滲んでいた。
イザベルはそれをしばらく読んでいた。
読みながら、じんわりと、胸が痛くなってきた。
これが、アメリア=ヴァルロワという人だった。
肩書きではなく、人への気配りで、全てを支えていた人。
自分が欲しかったのは、その人の場所だった。でも——場所だけを手に入れて、そこに込められていたものは、何一つ持っていなかった。
イザベルは静かに、リストを閉じた。
第二十一話 了




