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第十五話「クロードの告白」

第十五話「クロードの告白」


 三日後、クロードはまた来た。



 今日は早い時間だった。アメリアが庭で本を読んでいると、侍女が「殿下がいらっしゃいました」と告げに来た。



 庭に通した。春から夏へと移り変わる季節の中で、ヴァルロワ公爵邸の庭は緑が深くなっていた。白薔薇も、まだ咲いていた。



 クロードが庭に入ってきたとき、アメリアは立ち上がって迎えた。



「今日は庭で」



「ええ。天気がよかったので」



「そうだな」



 クロードはアメリアの隣のベンチに腰を下ろした。庭を見渡して、少し目を細めた。



「綺麗な庭だ」



「ありがとうございます。子供の頃から好きな場所なんです」



「知っている。昔よくここで遊んだな」



 アメリアは少し驚いた。



「覚えていたんですか」



「全部覚えている」



 クロードは静かに言った。その言葉の重さに、アメリアは少し胸が揺れた。



 しばらく、ふたりは庭を眺めていた。風が吹いて、白薔薇の花びらがひとつ、ふわりと舞った。



「アメリア」



「はい」



「前回、お前が泣いた夜——一つ、言えなかったことがある」



 アメリアは少し緊張した。



「何ですか」



 クロードは庭を見たまま、口を開いた。



「お前がベルナールに嫁ぐと決まったとき、俺は止めなかった」



「……ええ」



「止められなかった、というのが正確だ。王太子という立場が、お前の人生に踏み込むことを許さなかった。そう思っていた」



 クロードは少し間を置いた。



「でも——本当は、怖かったんだと思う」



「怖かった?」



「ああ。お前に気持ちを伝えて、断られることが。それよりも、幼馴染のままでいる方が、まだお前の隣にいられると——そう思っていた」



 アメリアは息を呑んだ。



 クロードが怖かった、という言葉が、意外だった。いつも落ち着いていて、感情を表に出さない人だと思っていた。でもそんな人でも、怖いものがあったのだと——その言葉が、胸に深く落ちた。



「だから俺は、何もしなかった。お前が嫁いでいく日も、五年間も、ただ遠くから見ていた。それが正しいと思っていた」



「クロード……」



「正しくなかった」



 クロードが、初めてアメリアの方を向いた。金色の瞳が、まっすぐに見ていた。



「お前が五年間、どれだけ辛かったか。俺が動いていれば、あの五年間は違ったかもしれない。そう思うと——今でも、後悔する」



「そんなことは——」



「謝りたい、とは思っていない。謝って済む話じゃないから」



 アメリアは黙った。



「ただ、伝えたかった。俺がずっと、臆病だったということを。お前の五年間に、俺も少し責任があるということを」



 風が吹いた。白薔薇がまた揺れた。



 アメリアはしばらく、クロードの言葉を胸の中で受け取っていた。



 責任がある、とクロードは言った。でもアメリアには、そうは思えなかった。あの五年間は、ベルナールとアメリアの間にあったことで、クロードには関係がなかった。



 でも——クロードが、そう感じて、今日ここで話してくれたことは、アメリアには素直に嬉しかった。



「クロード」



「何だ」



「あの五年間は、あなたのせいじゃないです」



「……」



「でも——そう思っていてくれたことは、嬉しかった」



 クロードは少し目を伏せた。



「お前は優しいな」



「優しくないですよ。本当のことを言っているだけです」



 クロードは小さく笑った。



 アメリアも笑った。



 ふたりの間に、穏やかな沈黙が流れた。庭の木々が風に揺れ、白薔薇の甘い香りが漂っていた。



「クロード」



「何だ」



 アメリアは少し迷って、それから言った。



「もう少し、だと思います」



「……何が」



「答えを出せるまで。もう少しだけ」



 クロードはしばらく黙った。それから、静かに頷いた。



「わかった」



「ありがとうございます」



「礼はいい。——ただ」



 クロードが、少し口元を緩めた。



「三日に一度は来る」



 アメリアは思わず笑った。



「知っています」



 白薔薇が、また風に揺れた。



 夏の空が、どこまでも高く青かった。



第十五話 了


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