「この世界の成り立ちを。」
「むかしむかし、世界中が深い悲しみに包まれていたころのお話です。
人々は悪の心にとらわれ、長いあいだ戦争を続けていました。
誰かが泣いていても、誰かが傷ついていても、戦いをやめる者はいませんでした。
その様子を、天のはるか上から神様はずっとご覧になっていました。
そしてある日―
まぶしい光とともに神様が地上へ降り立たれ、神様は、人々の心にひそむ、傲慢、強欲、色欲、嫉妬、暴食、憤怒、そして怠惰。
この『七つの業因』を取り出してくださいました。
すると不思議なことに、人々の心から争う気持ちが消えていきました。
長く続いていた戦争は終わり、国を超えて人々がたがいに手を取り合うようになったのです。
けれど神様は、負の感情は消えたわけではありません、再びそれが現れ、戦争の渦に巻き込まれないよう、人間たちに『七つの業因』を封じた魔石を授けられました。
魔石を託された者は、『宿主様』と呼ばれました。
宿主様たちは神様の力をその身に宿し、世界を悪しき感情から守ってくださっているのです。
だからみなさん。
神様への感謝を忘れてはなりません。
そして、尊き宿主様たちには、いつでも敬意を払いなさい。
今わたしたちが平和に笑っていられるのは、
神様と宿主様たちのおかげなのですから。」
総司令官はふぅ、と息を吐き、顔を思いっきり歪ませた。
「こんなの真実じゃない。」
バサっと、子供向け聖書と書かれたカラフルな本を床に落とした。きっと、先ほどの夜会にいた、世界を平和にした神を絶対神とする業律教の過激派の幹部にもらったのだろう。
聖書に描かれたデフォルメ調の神は残酷なほどにこやかに微笑んでいる。
その聖書を踏みながら、俺が殺した死体に近づいてきた。空気が鉛の塊になって、俺を押し潰そうとしてくる。
総司令官は、死体のその胸に、ナイフを深く突き刺した。
すると、血は一滴も流れず、美しく光る虹色の魔石が出てくる。
キラキラと光り輝くそれに一瞬で目が奪われる。
その味を俺は知っている。
甘いようで、辛いようで、繊細なようで、力強いようでー。
とにかく美しいその味を、一度知ったらもう戻れない。
思わずふらりと足が動く。
だって、そうだよな。
魔石は人に体内から出たら1時間で消滅してしまう。それだったら俺が食べてしまったほうがいいよな。だって、そしたら宿主の力は強くなるし、いいことずくめじゃないか。
もう一歩足が動く。
ニアたちの足も少し動くのが見えた。
いや、見えなかった。
俺の目は美しい魔石しか見ていない。もう手を伸ばせば届く。食べたい。食べたい。
食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたいー
俺の手は魔石に向かって伸びていった。




