その20
レイスフォームでサナギの間近まで来た。周辺はおびただしい数の虫が塊となって全方位から襲いかかってくるが、全て攻撃は通り抜けている。
近くで改めて見ると、表面に艶と光沢があり、潤いがあるように見える。砂漠のど真ん中で、しかも乾燥しているのに、だ。
そのまま内部に突っ込む。レイスフォームは、自分自身を分子分解したものに霊波バリアーで霊殻を保つ構造だ。構造物は元より、生体でも高密度の物でもほぼすり抜けられる。
思った通り、サナギの外殻は厚いゼリー状で、湿り気がある。内部は水分で充たされていた。
中身が空洞ではなかったが、粘膜の成分しか採取されなかったのは頷けた。水分も粘膜には大量に含まれているしな。
不思議なことに気づいた。サナギの中の水中を漂っていると、心の奥底で2つの囁きが感じ取れる。1つは「あの異物を駆除せよ」だ。そしてやたら俺たちの拠点が気になり出した。
その感情はそのうち次第に高まり、「あれは壊さなくては」という使命感のような気分を強く沸き立たせた。やはり精神的な影響力を持っているらしい。洗脳装置のようなものかな?
ふと下を見ると、たくさんの虫達が仮死状態でサナギの底の方に沈んでいるのが見える。
多種が確認でき、透明な空気の泡みたいなもので包まれ、サナギの下側の一部から外に排出されている。
恐らく、あの虫達が司令塔になって拠点を襲っているんだろう。フェロモンでは制御できない「メンタル制御」の様なものを、感情や記憶に刷り込んでいるに違いない。
目の前を、薄い膜に包まれたハエアブが、ビクッ、ビクッと痙攣しながら沈んで行く。
サナギの外を見ると、ゼリー状の半透明なので外壁を埋め尽くす大群がへばりついているのが見える。が、中に侵入はしてこない。
流石に虫以外の霊体が侵入する状況は想定してないのだろう。もっとも、相手が知的生命体であればと言う前提だけど。
もうひとつの声は、か細くて小さいのでよく分からない。そちらに意識を全力で集中する。聞いたことがない言語の様だ。
「サット、分析できるかな?」
「君の能力で、しばらくすれば理解できるではないか。ちょっと待ってごらん。」
あはは、忘れてた。結構安全な状況に感じられるので、つい緩んでいたのかも。10分位待つと、段々理解できるようになってきた。
「そこの人間!我は豊穣と愛の最高神であるぞ。どうか我が願いを聞いてたもれ!ダメか、理解できないかのう...」
「今理解できるようになりました。お声が聞けて恐悦至極でございます、主よ。」
俺は、宗教は信じていないが神は信じている。邪神や悪霊以外、全ての霊的な存在を否定しないと決めている。前次元で、それを信じるに足る体験をしているからだ。
そして、その「手配」によって今ここに居ると信じている。俺の霊は大神霊の一滴であり、体も、血肉も、全ては贈り物であり、この世は必然だと。故に本物の神をリスペクトしている。
「おお、100年ぶりに話の解る御仁に出会ったわ!我らの信奉者で重畳じゃ。我が縁に連なるものよ、頼みを聞いてはくれぬか?」
「主よ、私に出来ることなら力の限り。何がご所望ですか?」
「おお、何と言う献身!この世界では稀有な事よ。実はな、我がこの世界に存在するための依り代がの、この上無い邪気と汚濁にまみれておる。そちの力でな、何とかそれを清浄な所に隔離してたもれ。」
「何と言う事でしょう!直ぐにでも取り計らいます故。しかして、何処にそれは在りまするか?」
「これに。」
神が、俺の視界に光の糸をビジュアライズしてくれた。これを辿ればいいのか?サナギ下部の虫が溜まっている水底に延びている。
「お任せあれ。主の御光を取り戻して参ります。」
そのまま虫溜まりに突っ込む。糸は、底を抜けて更に下へ。サナギと巨大なオブジェの一部と思われる部位がジョイントしており、素材感から大型の虫の一部かなと推測できた。
飴色で巨大な受け皿型の生体的構造物の前に出た。そこの上に、サナギが乗っている。それより更に下へ向かう。
皿の下部を太いアームが支えており、関節が見える。それを更に辿っていくと約200m地下の空洞に辿り着いた。
「何だあれは!」
珍しくサットが叫んだ。俺の記憶では今まで無い事だと思うが? 空洞の底に、巨大なカマドウマ型の生物がうずくまっている。
サットが計測したら全長約5000mで、バッタのように巨大でまだらの飴色の後ろ足が特徴的だ。背中からアームが無数に延びていて、天井より外へ突き出ている。
多分あの先に、スズメバチ型の巣があるんだろう。パッと見でも100以上は突き出ている。
光の糸は、虫の心臓?あたりの部位に延びていた。依り代が体内に取り込まれている状態らしい。と言うことは、巨大カマドウマを倒さないと。
「主よ、この虫を倒すことは、この世界に某かの悪影響を与えますか?」
「母体が死ぬと、巣の中に居る虫達が一斉に周辺へ溢れ出るであろう。我が子よ、配慮が必要じゃ。」
なるほど、そう言うことか。精神的影響はこのマザーが大元なのだろう。俺はナルにメッセージを送った。
「ナル、君のフェロモンは時間的にまだ有効かい?」
「ん、そのはず。」
「恐らくこの地域を埋め尽くす量の虫が一斉に解き放たれる事になるんだが、村を襲われないように寄せられるかな?」
「今は無理。」
「どうも虫達の行動は精神支配による物らしいのだけど、それが消えたら有効かな?」
「多分大丈夫。」
「じゃあ、合図したら頼む。」
まず、マザーを仕留めないと。この巨大な質量を一気に分解するとキャパシティが無くなるな。
「うーん、一気に息の根を止めないとかな。すぐ再生しそうだしね。」
サットがうーん、と唸りながら不快を表す。まあカマドウマが好きな奴もそうは居ないだろうがね。
「お前さん、よく平気だね。こんな気色悪いのは初めてだよ。」
彼が顔をビジュアライズさせたことは無いのだが、きっと苦虫100匹の顔をしているだろう。(笑) あんな存在でも、苦手があるんだなあ。
「何て言うか、子供の時に住んでいた家にたっぷり居たからね。今でも嫌いだけど、見馴れているんだよなあ。」
「意外な側面が。まあそれはともかく、虫はサナギのケースでもわかる通り再生が早い部類だろうね。上の連中に準備させて、こちらは我々で分解処理しようかね。」
「分かった。先ずは依り代を。」
レイスフォームは物体をすり抜け可能だ。そのままマザーの背中から体内に侵入する。光る糸を頼りに進むと、巨大な心臓の内部に糸が入っていた。
周囲をぐるっと周回してみたが、やはりどの角度からも心臓のど真中を糸は指している。
「マニ、慎重に扉を開けて、安全確認後に工房からナルと一緒に外へ出てくれ。」
「分かったわ。」
「ナル、外に出たらフェロモンを広域拡散。」
「もうやってる」
「アズ様、施設内に部隊を配置してください。今からナルのフェロモンに虫が集まるようになります。」
「了解。何をする気?」
「虫の母体を見つけました。その...それから神の依り代を保護するように言われまして。」
「依り代?誰に?」
「神に、です。直接コンタクトしてきましてね。詳細は後程。展開出来ましたら合図ください。」
「...了解。」
「...マサ、ナルが終わったみたいよ。」
「分かった。今処理するから...」
5分後、マニからメッセージが入った。同時にアズ様が部隊の展開を終えたらしい。さてと、それじゃあ始めますかね。
心臓の内部に侵入する。大きくドドッ、ドドッと脈打つ巨大な心室の底で、糸は終わっていた。組織と何かの御守り?の様な、楕円形の物が一体化している。
よし、これを切り離せば...。分子剣を短く展開し、内壁から切り取った。
「ビイイイイイイヤアアアアアアアアアアアン!!」
マザーが大絶叫した。同時に、物凄い勢いで暴れだす。地下空洞が落盤し始めた。俺は切り取った組織ごと依り代をバリアー内に別個で保護し、マザーの心臓と周辺の組織を分子分解した。
次に脳を。そして足全部を。強酸の体液を大量に流しながらマザーは沈黙し、活動を停止した。空洞の最下部でうろうろしていた虫達が、体液に飲み込まれる。
「サット、倉庫の方は余裕あるかな?」
「あるけど、マザーは何分割かしないと無理だね。」
「よし、マザーの本体を分割処理する。」
分子剣を伸ばし、巨大な胴体を10分割する。そしてその内のひとつを分解した。
巨大な体躯が、青い光を一瞬放ち消滅した。光の粒子が舞い散る。支えを失った天井が、巨大な面積で虫の巣ごと落盤した。砂が降り注いで来て、周囲を埋め尽くそうとする。
「サット、クラフトで巨大支柱を形成。落盤を抑えて。」
サンドテクタイト製の天井つきで、マザーの死骸を避けて支柱が並んだ。上に突き出したアームは、天井と同化させた様だ。砂漠の落盤は少しして落ち着いた。
分解しては倉庫にしまう作業を繰り返す。やがて死体は跡形もなく消えた。
俺は地上に出て上空に飛び上がった。超大量の虫が周辺を飛び回り、ナルのフェロモンに呼び寄せられている様だ。
とりあえず依り代をクリーニングした。体液でグチャグチャになっていたが、何か札の様なものが周辺に張り付けてあった。見たことの無い文字だ。
その札?から、とんでもない怨念を感じた。霊波バリアーで別空間として保護してあるので影響は少ないみたいだが、常人なら確実に影響を受けているだろう。
「オブジェの周辺の札を分子分解。」
札を除去すると、黒くて大量の蚊に見えるものが、依り代から発散された。銀色で光沢のある、雫の形をした大きさ20cmの物体が現れた。表面に見たことの無い文字が、びっしり刻まれている。
「ようやった!御主の働き、大義じゃ!」
神が俺の精神に語りかけてきた。今度は声も大きいし、元気そうだ。(笑)
「ありがたきお言葉。依り代は、どの様に致しましょう?」
少し間があり、神は懇願してきた。
「今まで人間を色々見てきたが、そちの様な異世界の熱心な信仰者はそうそう居らぬ。願わくば、その依り代を管理してたもれ。」
「仰せのままに。清め、たて祭ります。」
「それは不用じゃ。今回の事で身に染みたわ。御主がそれを加工し、ネックレスとして肌身に着けておくと言うのはどうじゃ?」
「仰せのままに。」
依り代が一瞬強烈に光り、小さな勾玉になった。俺は紐をクラフトして穴を空け、ネックレスを作り身に付けた。
信じられないくらいの、平和で涼やかな気が俺を包む。加護を頂いたらしい。
「再びこの世に、豊穣と親愛を広めることが出来る。これから御主は、司祭として我に仕えよ。」
「勿体なきお言葉。されど、どの様にお仕えすれば宜しいですか?」
「これから御主達が遂行しようとしている事を成せ。さすれば自然に我の目的を達成できようぞ。あとは喋り相手じゃな。」
「御意。有り難き幸せ。」
「そう、畏まらなくとも良い。御主は我の恩人で家族も同然じゃ。喧しい姉が増えたとでも思うておれば良いのじゃ。あはは。」
結構フランクな神様だな。(笑)
「分かりました。では普通に話させていただきますね。虫を駆逐しませんと。」
「そうよな、素材が必要なのであろう?無駄な殺生は好まぬが、目的があって危険な生物を自衛のために減らすのは、自然じゃな。」
「そう言っていただけると気楽です。」
そこからは、虫の巣を分解収納した。既に村の倉庫は満杯で、仮置き倉庫へ収納するしかない。希少な金属や土類が超大量に入手できた。
何を手に入れたかは、後でのお楽しみ。(笑) 実はサットからそう言われたので、自分も把握できていない。
マザーの後始末を終えて、俺は拠点に戻った。既に外壁の虫は残り少なく、他はフェロモンに集まっているようだ。最初の計画通り、いやそれ以上の素材が手に入った。おまけに神様の加護付きだ。
拠点に入ると、皆が称賛の拍手で迎えてくれた。マニが泣きながら飛び出してきて、抱きつく。
「マサ!マサ!ああ神様、感謝致します!あなた、どこも怪我はないの?」
「マニ!心配かけて御免な。またお前の顔が見れて良かった!」
俺達は、再開を喜び熱くキスをした。アズ様やプルやナル、マルタやライエも、皆が輪を作って喜びを共有した。
「パパ!パパ!お帰りなさい!」
ライエが首に抱きついてきた。俺は二人の重さでよろけぎみになりながらも、両方を受け止めた。俺はライエのほっぺにキスをした。
「心配かけてすまない。だが、問題はほぼ解決した。アズ様、報告したいことがあります。」
「よくご無事で...また貴方に会えて嬉しいです。」
アズ様は、少し涙ぐんでいた。心配かけて、悪いことをしたな。都組も、村の衆も、俺たちを中心に人垣が出来た。
「皆、聞いてくれ。さっき地震があったと思うが、地下の巨大な空洞に虫の母体となる巨大な虫が居たんだ。それを退治して分解したせいで、地盤が崩れた。」
「さっきの揺れは、凄かったわ。そういう理由だったのですね。」
アズ様が頷いた。
「さるお方が直接精神に語りかけて来られて、母体の位置が分かった。そのお方は、自分の依り代を助け出す代わりに、私を助けてくれた。これから、そのお方からの御言葉を頂ける。」
さっきから我も挨拶をさせろと、神様がうるさい。(笑) ネックレスが光り輝き、ホログラフのように見目麗しい女神が写し出された。慌てて、全員が畏まり敬礼をする。
「我は愛と豊穣の守護神、ラヴィダースと言う。これなる者の助けを得て、百数十年ぶりに地上へ出ることになった。我は邪なる人間の行いで砂漠に放置され、虫の虜になっておった。」
女神は遠い目をした。当時の事を思い出すのだろう。
「されど、これからは再びこの世に愛と豊穣をもたらす事ができよう。ここの皆の衆が、他人の為に、この地域の為に、働いておるのを地下より見ておった。誠に大義じゃ。」
神は満足そうに微笑み、畏まらなくても良いと皆の姿勢を楽にさせた。そして話を続けた。
「我は今後ここに居る全ての人と、村の衆とその子孫を生涯祝福することに決めた。これは、暗い虫の腹の中から依り代を救い出してくれた、マサへの感謝の気持ちじゃ。」
皆が一斉におおーっと、感嘆の声をあげた。どうやらこの世界の人々は、信仰心があるようだ。もっとも中には邪な奴も居るらしいが。
「我は皆と共にある。この地を、世界で一番の大穀倉地帯に変えて行こうではないか!ここにおるマサは、我の司祭となった。物質の供え物など不要じゃ。我に供えるは、他人への献身と博愛じゃ。それが最高の供物となろう。」
皆がおーっ!と、同意の声をあげた。異次元の神様は、意思が明確で理解しやすいなと思った。
ラヴィダースは俺の方を見ると、頷いた。次の瞬間にホログラフは消えた。マニがライエと近づいてきた。
「...あなた、ちょっと見ない間に神の使徒になってしまったのね。」
マニは苦笑しながら俺に抱きついてきた。次の瞬間、彼女は驚いて飛び上がる。フィジカルコンタクトで、ラヴィダースが語りかけて来たからだ。
「御主がマサの嫁子かの?面白いコミュニケーションをしておるのう。何か我より年寄りも居るようだしのう。」
「ラヴィダース様、直接会話ができて嬉しいですわ。御加護を頂き、我が一族共々感謝の気持ちでいっぱいです。」
マニは、畏まってお礼を述べた。神はカカカと笑うと、
「よいよい、楽にせよ。御主は大層な男を捕まえたの。我がこの精神空間に介入する時は、マサが勾玉を身に付けているときだけじゃ。夜の伽は邪魔をせんから安心せよ。」
マニの顔が赤くなる。再びカカカと笑うと、愛い奴じゃと仰った。
「ラヴィダース様、サットと申します。この度はマサを寵愛してくださり、恐悦至極にございます。」
サットが畏まって挨拶をした。こいつがこんな態度をとると言うことは、滅多にないことだ。
「ほう、御主は彼と融合しておるのか。数億年の放蕩の終着地が見つかって、幸せだのう。」
「勿体なきお言葉。」
「我もこの様な者が人間に居るとは、思わなんだよ。神との親和性がこの上なく善き子供じゃ。育てた御主にも、感謝じゃな。」
「数億年の無駄な生が、今意味あるものに変わった気分でございます。ありがたや。」
「これからは、同じ居候として宜しくな、サットよ。」
「御心のままに。」
この間2秒!(笑) 俺とマニは意識を外に戻した。アズ様が近付いてきて、俺の両手を握り締めた。
「最初サナギに突っ込むと言われた時はどうなることかと思ったけど、神様の加護つきで問題解決してくるなんて、貴方はやはり只者ではないわ。」
「いえ、たまたまです。でも、こう言った事も神の巡り合わせかも知れないですね。」
「あはは、正にその神を連れてきちゃうんですものね。ある意味呆れるわ。」
アズ様は朗らかに笑った。戦場とは思えない雰囲気だ。ナルとプルが近づいてきた。
「マサのお陰で、体力が減りにくくなっているにゃ。暑さを感じないにゃ。」
「...司祭様。」
ナルが短い言葉と共に敬礼をした。
「ナル、俺達は仲間だ。普通でいようぜ。それより、フェロモンが大成功だな。君のお陰だぜ。」
顔をあげると、ニコッと最高の笑顔で微笑んだ。俺はちょっとドギマギした。美人は役得だなあ。
「さあ、最後の仕上げよ!虫達を狩り尽くしましょう!」
アズ様の号令と共に、皆が「応!」と息巻いた。フェロモンに集まった虫を、プルが俊足でヘイトを集めて拠点まで引っ張ってきて、全員で対応した。
マニやナルは、広範囲魔法で魔力が続く限り殲滅、疲れたら休憩。俺は分子分解で殲滅と倉庫の入出管理と消耗品や弾丸の製造。あっという間に素材は溜まって行き、仮置き倉庫も4/5まで溜まった。
アズ様は司令塔に徹し、周辺の戦況を見極めてコントロールしていた。地味だが、彼女の働きは大きかった。
村長の報告では、村の方の地虫は俺がマザーを倒したタイミングで皆踵を返して逃げたそうだ。それっきり、たまに羽虫が単独で飛んでくる位だそうだ。マデュレとサヴィネの格好の的だろう。
そして丸10日かかって、この地域を苦しめた虫の大生息域は壊滅した。プルの見立では約300万体の虫を駆除したそうで、サットの素材量から割り出した計算とほぼ合う。
その内の約150万体を俺の分子分解で、その他は俺以外で倒したということだ。これは神がそう仰っていた。誰かに粗末に扱われた依り代が、人間の領域を蝕んでいた事は誠に不本意だと仰せだ。
最後の残りを分子分解し終わって、俺は砂漠のど真ん中に倒れ込んだ。神の加護があったお陰で、最後まで気力を切らさずに戦えた。
仰向けになって灼熱の太陽と青空を仰ぎながら、しかし俺はニンマリ笑っていた。計画していた量を遥かに上回る素材を入手することが出来た。数日休養をとってから、早速次に取りかかれるぞ。
マニがよろけながら近付いてきた。重なるように俺の上に倒れ込む。
「あ、あなた元気ねえ...私は笑う気力さえないわ...」
と言うなり、イビキをかき始めた。可愛い嫁を貰ったよ、ホントに。(笑)
都組や村の衆も、方々の体で倒れていた。女衆の活躍は、実に見事だった。
怪我をした人員に応急手当をし、食事を切らさないように無駄なくコントロールし、拠点内のスペースで寝床を確保して誘導したり、元気のなくなった若者を励ましたりした。
この戦いの影の功労者だろう。後でなにがしかの御返しをしなければ。
30分位して、俺は瞑想する位の元気が出た。小一時間で霊波を回復させると、全身がみなぎる。自分でも明らかにおかしい回復力だ。
それから、そこら辺に倒れている人を、片っ端から拠点内に担いで寝かせた。拠点の壁は透明な状態から白い色に偏光し、光を反射する様にした。
アズ様は、拠点の中央でうずくまって気を失っていた。俺はお姫様抱っこすると、工房の避難場所まで運んで大判のタオルを上からそっとかけた。
マニは次元部屋のベッドに寝かせた。ライエもマルタと寝ていたので、二人を抱えて次元部屋の空きスペースにクッションを敷いて寝かせた。
プルはモップの様にモシャモシャな毛並みになっていた。(笑) うつ伏せで倒れていたので抱えたら、あちこちから血が滲んでいた。
こいつなりに、精一杯やってくれたのだろう。小さくて軽いこの体で、精一杯...。俺は感謝を込めて親友の体を修復し、清潔化して工房の敷物の上に寝かせた。
ナルは日陰の壁に背もたれて、気を失っていた。何か凄い重たいのなこいつ。華奢に見えるけど、密度が高いのだろうか?(笑)
ちょっとお姫様抱っこは無理なので、背負って工房内に移動させた...いや、やはりこの重さは異常だな。でも、今は敢えて放置。彼女が作り物の様な美しさなのは、作り物だからかも知れない。
「サット、拠点の出入り口封鎖。室内空気浄化。適温調整。怪我人の分子遺伝学クラフト。」
快適な様に、室内温度を調節した。そして治療。皆が目覚めるまで、労いの炊き出しを作ろう。ここにいる全員が、今回の英雄だ。後始末は明日以降にしよう。
虫素材で大型の寸胴に餃子スープを作り置きし、うまそうな匂いを漂わせた。目が覚めた奴から食べるだろう。
村長に心配ないようにメッセージを送った。あちらでも、皆がその場で倒れているらしい。今回の作戦では一人の死者も出さなかった様で、これが何よりの奇跡だろう。
人員の半分が動けるようになった時点で、まだ寝ている奴を工房に押し込んで村へ瞬間移動した。拠点は出入り口を消去して、外からは侵入不可能にした。
これから時間をかけて、ここより素材を村へ持ち帰らないと。まあ一週間はかかるだろうな。
こうして俺達は、大規模殲滅戦を戦い抜いた。大きな収穫を複数携えて、堂々の凱旋だ。しかしながら、我々の目的はこれからが本番だ。
素材は集まった。具体的な計画はこれからだが、いよいよ浮遊都市「フロートジョイ計画」が発動する。俺たちの夢は、ここからがスタートだ!




