続章
賑やかな祭りの喧騒で19番村は包まれている。大規模殲滅戦から4日が経った。今日はここに居る全員で、打ち上げパーティーだ。
村の中央広場にステージが設けられ、都の職員や村民で芸に覚えのある人が、スピーチや踊り等を演じている。玉乗りやジャグリングやっている奴も居る。こんな所まで前次元の文化があるのか。
俺達は、哨戒ついでに各集団を回って御礼の挨拶をしている最中だ。マニとライエがべったり纏わりつきで、離してくれない。その後ろをナルが羨ましそうについてくる。
正妻的には、妾になるまでは放置しておく算段らしい。今の内に自分がスキンシップを堪能しておくとか。
ライエはあれ以降、俺達夫婦をパパとママと呼んでくれる。これが俺には一番のご褒美なのかも。呼ばれる度に胸がいっぱいになってしまうんだよな。こりゃしばらくこのままだろう。
プルがステージの上で、「いかがわしき猫のワルツ」という踊りを独演している。あれ...ワルツじゃ無いよな。(笑)
薄着の格好で人間風のエロいポーズを決めながらウィンクを飛ばしたりしているが、サイズが小さい上に結構毛だらけなので全然色っぽくない。寧ろ動きがコミカルなので、笑いのネタに。
アズ様は、セネル氏や部下や職員を労っている。酒を共に酌み交わしたり、笑いながら談笑している。でも、幸せそうな顔だ。こう言うのが好みなクチなんだろう。
村長はマルタやマデュレ&サヴィネと手伝いをしてくれる村の衆とで、今は飲食をしている。さっきまではせっせと祭りの世話を焼いていた。
俺たちも手伝うと言ったのだが、功労者は休めと代わってくれなかった。ラヴィ様に促されて、余興を楽しむことにした。
神はフルネームで呼ばれるのがよそよそしいとかで、ラヴィ様と呼んで貰いたいと仰せだ。「御主は今後の働きでいくらでも恩を返せるというものじゃ。」との仰せ。
そこいら辺を歩いて戻ってきたら、ステージに村の若者が仁王立ちになっていた。顔を真っ赤にして、「おっ、おっ...」と、リピートしている。ありゃ、なんだろ?
「マサ、あれなんでしょうね?」
マニが首を傾げて聞いてきた。俺に聞かないでください。分かりません。(笑)
「さあ?何か告白でもするんじゃね?」
「顔真っ赤。」
ナルが面白そうに見ていた。やがて意を決したのか、若者が次を喋りだした。
「おっ、おっ、オラ、エルダのこと愛してっぺ!結婚してけろ!」
何で方言が。ナルが顔を両手で隠してプププって笑っているんだが。貴重なシーンだな。(笑)
すると、顔を真っ赤にした女性が、おずおずとステージに上がってきた。どうもエルダ氏らしい。
「オラ達、この戦いが終わったら結婚するって約束してたっぺ。おまさん、カッコよがったよう。(泣)」
2人は抱き合い、熱い口づけを。周囲のギャラリーは超盛り上がった。
マニが思い出したように「あれ、25番の村からの助っ人だわね。」と、教えてくれた。
「他の村から応援って、聞いてないぞ?」
「あー、本当に直前で何名かの代表が来られたのよね。報告忘れてたわ。」
「契約しちゃったのかな、彼等は。」
「いえ、宣誓が終わった後ね。」
「彼等にもなにがしかのお返しをしないとな。何がいいかなあ。」
「あ、それ御父様が話をつけてあるから。」
「何をする事に?」
「居住権か食料1年分か選ばせたって。全員食料だったそうよ。」
「あー、ソウデスカ...」
ま、まあ価値観なんて人それぞれだしな。後から異議申し立てとかするなよな...。
ステージが賑やかなのでそっちを見ると、今度はうちの村の若い衆が立っている。ここからが長い告白ショーの始まりだった。
「ハナちゃん、僕は...君に励ましてもらって、あの時本当に助かったんだ。もう戦う気力が失せて、下を向いていた僕に、暖かいスープと優しく頑張ってねって。だから、勇気を出して言うよ。結婚してください!」
群衆の中から、はにかみながら小柄な若い女性が舞台に上がってきた。あれがハナちゃんかよ。彼女は彼の手を握ると、
「はい、私で良かったら。アジー、頑張ったものね。愛してる。」
と、オッケーした。これも超盛り上がりで、その後次々と若者が告白を。(笑)
「あーあれね、あんた達のせいよ。」
サヴィネがいつの間にか後ろにいた。ニヤニヤしながらステージを見ている。
「えー?どういうこと?」と、マニが怪訝そうに聞く。
「何でも、憚ることなく上空でキスをするあんた達を見て、刺激されたんだそうよ。最初の25番の人が、言ってたわ。」
マニが赤面しながら下を向いた。何で今更恥ずかしがるし。(笑)
しかしまあ、数えてた訳じゃないけど相当数のカップルが誕生したようだ。「この戦いが終わったら~」と言うフラグは、見事ハッピーに回収されたわけだ。(笑)
これで人口増加に勢いがつくなあ。ああそうか、危険がなくなったから、安心も出来るんだな。この、安心感ってのは、大事だよなあ。
為政者が増税だろうと緊縮だろうと、民草を不安にさせたら社会は萎縮するんだよなあ。この場合は虫だったけどな。
告白合戦は、味付け過多でフェードアウトした。流石にカップル候補が居なくなったのだろう。
昼過ぎから始まった祭りも、暗くなってきて宴もたけなわになってきた。アズ様が壇上に立ち、スピーチを始めた。周辺の全員が注目する。
「私達は、この数週間ひたすら戦った。そしてとりあえず勝利した。この近隣は、しばらくの間外敵に悩まされることはないだろう。」
おーっ!と歓声が上がった。今ここに居る全員が、勝ち取った勝利。それを、今日の祝いで噛み締めながら酒を酌み交わせる幸せ。これも前次元では成し得なかったことだ。
「そもそも私は、ここへ来たときはマニさんの実験目的だった。がしかし、マサさんの人柄とアイディアに共感するようになって、この計画を打ち明けられた時は、正に究極の正拳突きを心臓に打ち込まれた衝撃を感じたの。」
嬉しそうにアズ様は胸中を打ち明けてくれた。
「魔導研究所創設以来の悲願だった独立機関としての道と、魔法を学ぶ人達への環境作り、それを地方に普及させての文明レベル向上という、すべての目標が彼の計画で成就できると判った時の、あの感動を私は生涯忘れない。」
彼女は胸に手を当てた。ちょっと芝居がかっていたが、率直な気持ちを表現したのだろう。
「そして、これを見て確信に至ったわ。マサさん、此方へ。」
実は、超魔導リアクターをスピーチに合わせて、ステージに瞬間移動させてくれと頼まれていたんだよね。作動させて、盛り上げるつもりだったらしい。
ムッフッフ、しかしこれにはちょっとしたサプライズが...それっ!
「皆、この凄まじいパワーを見て...ナニヨコレ...」
空間が歪み、巨大な装置がステージの中央に現れた。六角形の外壁の中央に巨大な勾玉型の魔石が設置されており、内部に魔導回路がプリンティングされている。
そして外壁の5面の個々に超魔導リアクターが装着されている。正面の壁は入り口でフリーだ。あっはっは、アズ様が口をポカーンと開けたまま固まってるぞう。(笑)
実はラヴィ様とのアイディアで、実際に都市ひとつを浮遊させるだけのマナを得られるかと言う実験をしようと持ちかけられたので、エンジンの試作機を作っていたんだよな。
中央の勾玉は、巨大な魔力を蓄積しておけるプールの役目をする。それと、都市機能をここで集中管理出来る仕組みだ。まだ本格的な出力は無理だけどね。
俺はステージに上がった。呆けているアズ様の手をとると、示し合わせていた通りマニと村長と4人で中央の勾玉の前まで来た。
「マサさん、これは一体...」
「ラヴィ様の仰せで、サプライズですよ。(笑) はいはい、ここに手を置いて...」
アズ様の手を勾玉の中心に導いて、掌を開いて当てさせる。その上から村長が、マニが、俺が、最後にビジュアライズされたラヴィ様が現れて、手を重ねた。ギャラリーが、固唾を飲んで見守っている。
「マサよ、発動させるのじゃ。」
「主よ、仰せのままに。超魔導集積エンジン、始動!」
ヴーン...ヒイイイイイイイイイイイイイン!パリパリパリ...ドゥーン!ドゥーン!ドゥーン!...
凄まじい光とマナのうねりが、勾玉から空に光輝の御柱を出現させた。柱の周辺を、マナの奔流が螺旋状に空に向かって登っていく。
まるで伝説の光龍が天駆けて宇宙へ帰って行く様な神々しい光景だった。これで、まだ1割も力を出せていないんだよなあ。
この場の全員が、歓喜に沸いた!感動で泣き崩れる人もいる。そして、契約書で魅せられた浮遊都市「フロートジョイ」の完成を確信した。
「マサさんはお人が悪いですわ。教えてくれればよかったのに...」
「許せ、教えてしまったらサプライズにならんじゃろう?我とマサが皆を喜ばせようとな。」
「ふふっ、先生、これで驚いていたら心臓が持ちませんよう。」
「おお息子よ、お前は皆の希望だ。私は、お前に会えて本当に幸せだ!」
5人は手を当てた姿勢のまま、天駆けるマナの奔流を見続けた。この重ねた手が、心が、想いが、新しい時代の風となって共に駆け抜ける未来のヴィジョンを垣間見ながら。




