その16
到着早々、虫の集団に出くわした。会議で決めていたフォーメーションを、素早く実行する。
プルとアズ様と俺は前衛で俺はタンク、アズ様は遊撃、プルは速度を生かし盾を持って撹乱と回避タンクで。
マニと村長は中衛で、村長は中距離攻撃とマニの防御、マニは遠距離範囲殲滅。
後衛はマデュレとサヴィネで、狙撃&後方支援がマデュレ、その護衛がサヴィネとなった。
巨大な蠍が数十体、ハエアブが数十体で挟み撃ちの状態になった。打ち合わせ通り、前衛が二手に別れ、俺がハエアブを、プルとアズ様が蠍を担当し、中衛と後衛は臨機応変に対応する。
「韋駄天の俊足!」
プルが叫び、何かわめきながら蠍に突っ込んでいった。驚くほど蠍がプルを追いかけ回している。何をしているのかは不明だが、凄いヘイト効果だ。その後ろから、アズ様が魔法を仕掛ける。
「生命の根元なる混沌の炎よ!溶岩の飛礫は今ここに召喚された!!」
詠唱が終わったと同時に、プルが飛び退いた。物凄いスピードだ。ゲル状になった真っ赤な溶岩の塊が、激しい熱気と共に狙ったように虫達に覆い被さる。
マグマボルトという高位火属性魔法らしい。虫達は燃えて、跡形もなくなった。そう言っている間にも、次の集団にプルが突っ込んでいる。よく連携が取れている。
俺は、全員に霊波バリアーを展開してから数十体いる敵を足止めした。
「レイスフォーム」
ハエアブ達は、尾の毒針と強力な顎で攻撃してくる...が、全部素通りしてしまう。実態がない上に霊波バリアー付きだもの、当たるはずがない。(笑)
明らかに混乱している虫達を、中、後衛が攻撃の的にしている。同士討ちがバリアーのお陰で無いので、前衛を気にせずに攻撃できる訳だ。
特にマデュレとサヴィネと村長の活躍は凄かった。銃撃組はパン!パン!と音がする数の分だけ、虫が倒れる。
村長は、前衛が心配ないと見て中後衛の支援に回る。弾丸の装填中は近付いてくる敵をワンパンで落とす。生きている奴の止めをマニやサヴィネが近接で行う。
多めの群れは、マニがチェインショックという単発電撃の魔法で落とした。彼女にとっては、数十体の単位は指先ひとつで消し飛ばせるようだ。
戦闘の音を聞いて、次々と虫が寄ってくる。30分位戦闘は続いた。マデュレがスコープで遠距離を索敵し、とりあえず襲撃は止んだことを確認した。1000体以上の死骸が周囲に散乱している。
「標的は全部の死骸。分子分解。」
一瞬の光の後に、粒子が風に舞って消滅した。解体用ナイフを取り出しかけていたプルが、固まっている。(笑)
「にゃんだこれ、すごいにゃあああああああああ!」
「今のは、マサさんが?」
都組は、当然ビックリしている。村長も見るのは初めてなので、やはり唖然としていている。
「ええ、実は微細に分解して、回収してるんですよ。こんな風に。」
革袋の中に、光と共に大量の粉末が入る。蠍はスパイスになるようだ。
「解体する手間がにゃい。スコルピオンの皮剥ぎは超面倒だにゃあ。」
「これは、ギガントスコルピオンの粉末ですね?高級スパイスです。ああ、そういう事が出来るのね...。」
「はい、虫だろうが鉱物だろうが、同じことができます。」
「それって生きているのも関係ないですよね?」
「はい、実は。さっき使わなかったのは、フォーメーションの練習も兼ねてなので、ちゃんと意味があります。」
「後衛の二人は、まだ不馴れよね。当然だけど。」
「そうですね、でも上出来です。命中精度も、射撃の腕も、全く問題無いですね。後はフォーメーションに馴れるだけです。」
「義兄さん、何処が問題か教えてください。」
「そうよ、マサさんの意見を聞きたいわ。」
銃コンビが同時に質問する。俺は少し考えて、こう答えた。
「君達の最適解を導き出すのが面白いと思うよ。戦場に正解なんてあまりないんだ。戦略がお約束通りなら、戦術はむしろ有効と思える方法を常に考えていくのが良いだろうね。」
二人は頷きながらも、微妙に分からなかったようだ。
「前衛は後ろから撃たれる訳だから、プレッシャーは凄いだろうね。さっきはバリアー張ってたからいいけど、俺が居ないときはどうするか?とか材料になるかと。」
「なるほど!他の人を基準に考えるんですね。さすが義兄さん!」
「分かったわ。タンクとかの邪魔にならない方法を考えるのね。」
「まずはそこから、ってことさ。戦う度に、課題が出てくる。無限に続く課題を、次に繋げていく。全てに近道など無いから、経験が重要視されるのさ。」
「教練では、こんなこと教えてもらえないわ。マサさんの教えは、本当に経験を積んだ人の言葉なのね。」
サヴィネは目を輝かせていた。そうそう、こういうのが解る瞬間が面白いんだよな。
村長も二人を見て嬉しそうに頷いている。マデュレの顔が、新しい喜びに満ちているからだろう。二人とも銃身に弾丸を装填し、布で磨き、点検する。大切にしているなあ。
それをプルが羨ましそうに見ていた。俺はプルに近寄って、話をしようとする。プルはまた羽交い締めにされると思ったのか、スルッと逃げた。
「プル、ちょっと動きを見せてほしいんだけどさ。」
「にゃ、にゃんでだ?」
「いいから来いって。目一杯フルスピードで攻撃してこいやあ!!」
「疲れるのは嫌にゃあ...」
とか言いながら、プルは唐突に間合いへ入ってきた。
懐で後ろ回し蹴りが空を切る。俺は既にゾーンモードだ。こいつ、思った通り速い!俺の1動作がこいつの2動作位だ。
ただ軽い打撃なので、同じ急所を数回ほど目に見えない早さで殴っているんだな。と言うことはそこさえガード出来れば、後はパターンとスピードについて行けるかどうかだな。
あー、なんだこいつ、銃を持たせれば最強じゃないか?しかも中二病の2丁拳銃とかなら、止められないだろう。
パフパフのパンチを掌で受けながら、俺はそう考えた。何せ一ヶ所を数回殴るから、結局次の急所に行くまでにスピードは落ちるんだな。俺はプルの手首?を何とか掴むと、額にデコピンして離した。
ゴロゴロと後ろに転がるプルを見て、全員が笑った。しかし俺は超真面目だった。
セラミックで形だけの拳銃を瞬時に作ってプルに真顔で渡した。プルはクラフトの瞬間を見た。
「やっぱり手品みたいだにゃあ!マサはすんごいにゃあ!」
「プル、こんくらいの大きさの銃があるとするよな?」
「あ、なんか今やること分かったにゃ!」
「次は...それ使って撃つときはパンパンって口で言ってみ?そんで感想を聞かせて。」
ババッと飛び退くと、プルはいきなりパンパーンと口で2連射してきた。おれは銃身の方向を読んで大きく体さばく。次は多分足を狙ってくる。俺はその体勢からプルに超密着する。完全なブルファイトになった。
飛び退こうとするプルの左手首?を銃口が向かない様に捕まえると、右手の銃で俺の捕まえてる腕を撃とうとする。
なまじ速いのと、今のは頭狙うだろ普通、とかいう定石が無いので、こっちも読み辛い。撃とうとする手首を小手返しで関節をキメようとするが、猫の手首?(笑)なので射線はずらせるが柔らかすぎて効かない。
足で胴を蹴って逃げようとするが、両手を塞がれているのでネコキックを連発しているみたいになり、周囲の笑いを誘った。
「にゃあああああ、離せにゃあああああああ!」
「プル、これはもう終わってる。どんな感じだった?」
「使いにゃれにゃいから何とも言えんにゃ。」
両手を捕まれたプルは脱力してぷらーんと宙吊りになっている。シュールだ。(笑) 俺は彼女を下ろした。
「これより重くても使える?」
「これの倍でも行けるにゃ。」
「反動はどうかな?威力が上がるほど銃口が跳ね上がるんだが。」
「うーん、あの銃と比べてどうなるにゃ?」
「ノーマルであれの1/2位かな。」
「それなら多分何とかなるにゃ。」
「おーし、分かった。俺が最高の、たぎる奴を造ってお前にやる。これ終わったら持ってけ。」
「え!くれるのかにゃ?」
「やるよ。飯だって無料だったろう?マニの親友だし。」
「やったにゃあああああ!嬉しいにゃあああああ!」
こいつ、攻撃手段が難しいから撹乱と盾しか出来ないのだろうと思ってやらせてみたが、案外凄くなるかも。
「マサは親友にゃあ!マニも親友にゃあ!これからは遠慮なしにゃあああ!」
「いや遠慮はしろよ。(笑)」
全員が笑った。アズ様は、あのスピードについていけるのが凄いと言ってた。まあ、あの攻撃力では避けなくても効かないだろうとは思うけどね。
ちょっと休んで、また移動を始めた。もうすぐ村から20km位の位置になる。道中では地虫位しか出会わなかった。折角の小隊なのに。
遠くに、蜂の巣のような形の超巨大な半楕円形の物体が見える。高さだけで500m位はありそうだ。
周囲は鱗状の外壁で覆われていて、恐らく地中にも深く食い込んでいるだろう。スズメバチの巣だなこりゃ。
天辺からフライビーが出入りしていると、マデュレがスコープで索敵しながら教えてくれた。多分、あそこ辺りが虫の本拠地なんだろう。
「この街道沿いで、何処か隠れて部隊を展開できるような場所は無いかな?」
俺がそう尋ねると、プルが反応した。
「このもう少し先が砂丘になっているにゃ。でも、虫が何処まで見えているかは不明にゃあ。」
「そうかお前、走ってここ通るんだものなあ。」
「何回も見ている道にゃ。」
「嘘おっしゃい。ここへ来たのは暫くぶりでしょう?」
マニが眉をしかめて突っ込んだ。
「この道の少し先で、他の村へ行く近道があるにゃ。」
「へえー、そんな道あるのね...」
「確かに、その辺が通れれば21番までは近いですよ。でも、あそこは地虫の生息地のど真ん中ですが。」
マデュレが説明してくれる。えーと21番って村の名前か?ていうかプルの奴、スピードで強引にぶっちぎってるんだなきっと。
「そうよ、村の名前。私たちの村は19番よ。」
マニがフィジカルコンタクトで教えてくれた。両肩に後ろから手を置いて、同じく虫の巣を見る。まあもう別に心を読まれるのは馴れたけどさ。
それを見ていたアズ様が、仲が良いわねえ、とため息をついた。何かお困りなんだろうか?イヤイヤ、これ以上フラグは立てないでおこう。(笑)
「プル、そこまで案内してくれるかな?他の候補地はあるかね?」
「後は21番の近くだにゃ。若しくは、ここの辺りで展開してしまうかだにゃ。」
うーん、まあここでも良いのかもしれないけど、ちょっと遠いのは否めないなあ。
プルの案内で、砂丘の麓まで来た。うーん、でも何か相手に見えてそうだなあ。マデュレはスコープで虫の動きを観察しているが、特に変わった動きは無い様だ。
「うん、ここならあと3000m位だし、行けそうかな。ここでフォーメーション整えて、深夜とかにヌーンライトしたら、どうなるかな。」
「そうね、私の雷槍とアズ様の広範囲呪文があるから、行けるかな。マサも何とかできそうなんでしょ?」
「多分ね。でもそう言う問題かなあ?」
「どういう事かね?」
村長が心配そうに聞いてきた。村の責任者だし当然か。
「えーっと、何と言っても質より量な事が多いんですよね。つまり、もしも虫の量が数万匹で一斉に襲いかかってきたら、それ自体を殲滅出来ても俺達だけでは他に手が回らなくなるでしょうね。」
「うん、そうだな。」
「親父様、他の村に余波が及んだらどうしましょうかね?」
「うむ、それが問題だな。連絡は一応しているが、どれくらいの数が攻め込むか予想できんしな...。」
「多分数万とかいう単位じゃ無いにゃあ。あそこにいる虫は数百万位だにゃ。」
プルよ、今何かとんでもない数字が聞こえたが?
「えー、何だって?」
「数百万だにゃ。自信あるにゃあ。」
「マサ、プルはね、そういうどんぶり勘定は恐ろしく正確なのよ。これが本当に、感心できるわ。」
マニが珍しく親友を誉めている。(笑)
「うーん、確かにここ以外を攻められたら安全の保証外だよなあ。数万くらいなら余裕なんだけどな。」
さて、これは何か手を打たないとな。そうだなあ、あそこ周辺の虫の注意を一点に釘付けに出来れば...。
「ねえマサ、例えばだけど、虫が好む臭いとか音を出して誘うとか、どうかしら?」
マニがアイディアを出してきた。お、それグッド。
「ああ、ナルキスだね。あの子は得意そうね。」
アズ様が思い出したように笑った。マニもえへへと笑うと、
「はい先生、彼女はそういう実験を今までたっぷりやっているでしょうから。」
「マニ、匂いを出す魔法とかあるの?」
「そうね、正確にはフェロモンね。生物が危険を察知したり発情期で異性を呼び寄せる時の奴ね。」
「そんなに効くのかな?あそこまでは距離があるし...」
「学生時代ね、実験で面白いのを見せられた事があるのよ。わずか1滴のフェロモン物質を学校の床に垂らしたら、どうなったと思う?」
「ええ...それってもしかして人間用とか?」
「凄いわね、正解よ!あなたちょっと頭が変よ?」
「お前!(笑)」
「4km先の食料品店の店員がね、制服のままフラフラやって来たのよ!顔が異様に赤くなっててね。うわ言みたいに彼女がここに居るとか言ってね。」
「おいそれは...やって良い実験なのかあ?」
「いえ、禁止ね。あの子、後でお仕置きしないとね。」
アズ様が静かに怒っていた。そりゃ許可とってない人を巻き込むとかまずいだろう...。
「周囲1kmの男性は、その場で骨抜きになったらしいわ。ナルキスが衛兵に頼み込んで、集団の風邪と言う事になったみたいだけど。その他大勢が教室に詰めかけて、大変だった。(笑)」
「マニ、それ言っちゃあ不味い奴では...」
「ああ、あれナルの仕業かにゃ!雨季なのに皆びしょ濡れで歩いてたっていうあれかにゃ?」
「そうそう、あれ参ったわ...」
「その様子だと、マニさんも被害者みたいですね?」
アズ様が細い眉毛を吊り上げて尋ねた。
「いきなり告知無しで「見て見て!」って目の前で垂らしましたからね。」
「...学園の女子トイレ半年間掃除当番ね。あの当時、道理で職員が目を反らしていたわけね。おかしいとは思ってたけど...。」
「なあ、それ魔法なのかい?ただのフェロモンでは?」
「でも、考えてみて。匂いで周囲の男性が骨抜きになるって、普通あり得ないでしょ?」
「俺の里では、悪臭で一人を行動不能にするというのはあったけど。」
「ええ...それはそれで凄いけどね...とにかく、異常な効果が出てたのは事実よ。」
ふうん、それ使えるかも...。そうなると、ナルキスってのが来ないと、ヤバイってことね。
「親父様、大規模な群れが来ます!」
マデュレが接近してくる大型の群れを見つけた様だ。ざっと300体は越えている?巣の方から、真っ直ぐこちらへやって来る。
「今ここで倒すと、他のを呼び寄せてしまう。よし、工房扉展開。」
大型の扉が目の前に現れる。皆を急いで中へ誘導する。扉を閉めて、消えたと同時に虫が襲ってきた。
「レイスフォーム」
フライビーの攻撃は、すり抜けた。大型の蜂が、針を飛ばしたり組み付こうとしているが、当然うまくいかない。
そのまま空中を移動して、蜂を誘導してみた。おお、皆ついてくる。(笑) 数百匹の凶暴な蜂が、俺の後をピッタリつけて来る。まずは巣から引き離す事は成功しそうだ。
レイスフォームの飛行速度は時速50km。俺が全力で走ったときと同じスピードだ。フライビーは、執拗に追いかけてくる。
最初は後ろから針が飛んで来ていたが、無駄だと判断したのか撃ってこなくなった。それとも撃ち止めなのか?
そろそろ良い感じの距離になってきた。俺はサットに頼み込んだ。
「サット、これから指定する場所に、俺が過ぎ去ってから2分後位に工房の扉を展開とか出来るかな?」
「大丈夫だぞ。」
マニにはメッセージを飛ばす。
「マニ、このメッセージから2分後に扉が開く。外に出ると、更に2分後に俺と追いかけてる大群がやって来るので、皆で迎撃して。出来るかな?」
「分かったわ。やってみる。」
「じゃあサット、頼む。」
「頼まれた。」
虫の大群が通りすぎた後の街道に、突如扉が。俺以外の全員が外に出て、フォーメーションを組んだ。
数分後、俺が扉の地点に逆戻りすると、マニは既に魔法の詠唱に入っていた。俺はすかさず霊波バリアーを全員に展開した。
「雷神よ、青き光の奔流を示せ!全てを貫く稲妻は今ここに召喚された!!」
雷槍が、上下に、左右に、前後に伝播して虫達を貫いて行く。僅か一撃で、ほぼ全滅だ。俺は冷静に計算していた。この素材量なら、この前のと合わせてマニとプルの銃を製作してもお釣りが来るだろう。
十数体が生き残ったが、他の人員の的となって消えた。マデュレが他には追って来ないことを確認した。この辺りが潮時だろう。もう一度次元部屋を開き、素材と全員を回収して村まで瞬間移動した。
自宅に到着した俺達は実家まで行き、マルタとライエに無事を知らせた。二人が料理を運んでくる。テーブルを囲んで食事ミーティングだ。
「今日初めてフォーメーションを組みましたが、何か気付いた事はありますか?」
俺は質問を参加者に振ってみた。プルがにゃあ!と声をあげると、第一声を。
「銃が入手できたら、もっと殲滅力が上がるにゃあ!約束できるにゃあ!」
それはわかっとる。さっきも参加者全員が聞いてた。(笑)するとマニが珍しく注文を。
「私のもお願い。プルのと同じにして貰えるかしら?」
「ハンディータイプは、銃身が短い為に近距離~中距離用になるけど、それでもいい?」
「それで構わないわ。アイディアがあるのよ。」
「分かった。今日中に渡すよ。」
マデュレが、珍しく質問してきた。
「義兄さん、さっきの戦闘で唯一遠距離狙撃ができなかったのですが、これから練習出来る機会がないと不安ですよ。」
「アズ様が都の連中を呼び寄せる時間で、狙撃練習が出来るアイディアがある。親父様とも相談なんだけど、それが叶えば大丈夫だと思う。」
「マサよ、何をする気だね?」
「ドームの天辺に銃座を設置したいんです。サンドテクタイトですぐクラフト出来ますから。」
「銃座?とはどういったものかね?」
「人が二人常駐できる円柱型の見張り台をドームの天辺に設置して、遠くを飛んでいる虫はマデュレが、近くの虫は主にサヴィネが先制攻撃出来るようにするんです。」
俺は設計図を見せた。皆それを見て理解できたようだ。
「なるほど、この円柱型で中空になっている筒の中に入るわけですね。それで全方位覗き穴から銃口を出して狙撃すると。」
マデュレが頷きながら確認してきた。新たな活躍の場が出来るのが嬉しそう。
「虫が近くまで来たら、普通の射撃で撃ち落とし、敵の攻撃はしゃがめば回避できる。そんな感じだよ。」
村長がフームと唸り、
「まずは作って取り付けてみよう。どうせすぐ分解できるだろう?」
「うん、そうですね。その場での注文で形もすぐ変えられる。」
「じゃあ明日以降で私も誘ってほしい。一応立場があるから。」
「義兄さん、日程を決めてメッセージ下さい。」
「私も見学に行って良いかな?」
アズ様が申し出てきた。新しい戦術だしね。勿論異存はない。
「アズ様も宜しければ是非。銃を普及させるのに、効果的な戦術ですからね。」
「君に感謝。」
「他には何かありますか?」
「師匠、都からはどれ位の人員を呼び寄せるおつもりですか?」
「そうだね、100名程かな。」
アズ様は少し考え、そう答えた。どれくらいの質になるかが重要かな。量は元より望めないだろうしな。
「そう言えばマサさんの範囲殲滅を見たかったですね。使えますよね?なんたら分解とか。」
サヴィネが相変わらずキレのある質問を。俺はサットに頭の中で確認して答えた。
「使えるけど、少々問題がある。あのフライビーの巣ひとつ位は余裕で消せる。」
皆が顔を見合わせた。マニが怪訝そうな顔をして質問した。
「...えっと、確認だけど最大でどれくらいの範囲を消せる訳?」
「んー、一発だけならこの地域丸ごと地下100m位までの球状の範囲を消せる。但しな...」
皆が次の言葉を固唾を飲んで見守る。ふと横を見るとプルは飯を食っていた。(笑)
「それをやると流石に俺がしばらく動けなくなるのと、いくら次元倉庫が広くても容量がオーバーしたり、格納処理で他の能力が使えなくなる。」
「なるほど。マサさんは常に複数のスキルを発動させ、それを生命力で賄っているのですね。」
アズ様が鋭い指摘をしてきた。俺は返答に困ったが、
「まあ、そんなものです。」
とだけ返しておいた。勿論アズ様だって、気だけで賄える量では無いことくらいは判っているだろうが。それ以上彼女は聞いてこなかった。
恐らくそれ以外のエネルギーを使っているかどうかの確認だろう。何の意味があるかは分からないが。
「それに格納処理を無視すると、大量の虫素材が塵となって消える。勿体ないと思うんだよな。」
全員が大きく頷いた。想像を絶する量の素材が無駄になるとか流石に躊躇したくなる。
余剰の素材を物質変換して、何処かに仮置き出来る場所があると良いのだが。これはアイディア次第だな...。
「一度におよそ10万体を分解してから、素材別に容器とかに物質変換して仮置きする。変換作業に20分位かな。物凄い大量の素材を置ける場所を作らないとだしな。」
「...それ、方法があるのかにゃ?」
飯をがっつきながらプルが質問してきた。御行儀が悪いので、マニがプルの頭をぺしっと殴った。俺は苦笑しながら答えた。
「一分弱あれば、防御壁つきの殲滅用拠点を砂漠のど真ん中に出現させる事が出来るよ。そっちは大まかなアイディアがある。問題は作業員だな。勇気がないと出来ない仕事だね。しかも戦闘員を割けないから、非戦闘員がやらないと。」
「マサさん、その話だと人数的に数百人が収容できる施設になりますけど。そんな事が可能ですか?」
アズ様が半ば呆れ顔で聞いてきた。まあ、普通頭が狂ってる発想だからね。
「大丈夫。俺を信じてください。」
サットに俺のアイディアを簡略図にしてもらって、薄いセラミックプレートに図面をプリントして皆に見せる。立方体の巨大な箱形の建物の四方の側面に、かまぼこ型の短い通路付き出入り口が各1箇所ずつ付いている。
中央の建築物が倉庫兼避難所で、出入り口で戦闘を行う仕組みだ。死骸の回収と大量殲滅、素材を倉庫内で仮置き、建物と戦闘中の人員の保護は俺の仕事になる。
倉庫整理と戦闘員の補給は非戦闘員が、俺が倉庫作業している時の戦闘を他の人員がやることになる。
「...この建物をいっぺんに出せるのですか?」
アズ様が頭を抱えながら唸った。ショートヘアの赤髪がモシャモシャなってる。(笑)
「はい、一瞬では無理ですが。皆さんは次元工房に入っていただき、私が最初に外へ出て建築を完成させます。」
「次元工房って、狩りの時に入ったあの広い施設?ですよね。」
「そうですね。200人位ならいっぺんに運べます。」
「...通常の戦略ではあり得ないわね。」
「はい、今回だけは私が全力で動き回ります。地域全体で虫に対する殲滅レベルが上がれば、今後この様な事はしなくて済むでしょう。」
「今まで色々見せてもらったから信じられるけどね。此方に連れてくる連中への説明が大変そうだわ...。」
アズ様が頭をかきむしりながら悩んでいる。いや説明とかは無理でしょ。
「先生、連れてきて工房に押し込んでしまえば、こっちの物ですよ。(笑)」
マニが強引なアイディアを。まあでも、それしかないだろうな。アズ様の、部下からの信頼度次第と言うことかな。
「ナルキスは反発するにゃあ。あいつには説明しとかないとにゃ。」
「そうねえ、あの子はそういうのは細かい性格なのよね...。」
どうもその、ナルキスは問題児らしい。マニやプルも大概だが。(笑) アズ様の苦労が忍ばれるなあ...。
その後も3時間ほど会議は続き、とりあえず解散した。アズ様は教練場に長距離通信をするために戻った。プルは銃目的でついてくることに。ライエとマニとプルで、自宅まで戻った。
直後に俺はちょっと出掛けてくると言い残して、教練場の片隅に工房扉を展開した。マニには銃を作って来るとメッセージを入れといた。饅頭の残りを食わせておくとか返信が来た。(笑)
工房へ入り、早速拳銃の製作に取りかかる。難点はリロード時だ。
近接格闘で手の延長としての2丁拳銃なら弾丸を撃ち尽くす事はあまりないだろうが、数百万の虫相手だと持続的な装填が必要になるだろう。ライフル組は運用が違うしな。分けて考えなければ。
プルに関しては、使い勝手は解るつもりだ。それをイメージして、拳銃の機能と大容量のドラム式マガジンを、プルがいつも使っているバックラー(盾)の内側に内蔵した。
つまり左右の腕に、円形のバックラーと銃が一体になった武器を装着する事になる。当然戦闘スタイルは、攻防一体の様式になる。
あのプルの速さなら、鬼畜の戦闘スタイルが生まれる事請け合いだ。(笑)
「サット、オペレーターお願いする。」
「分かった。2丁作るんだね?」
「うん。バックラーの強度を高めにして、軽量化と高容量のドラム式マガジンを内蔵できるバランスにしてほしい。小型リアクター内蔵で、超電磁加速が出来るように。」
「何だかメチャクチャ言われてる気がするけど、出来ちゃうんだなこれが。」
「分子プリンティング開始。」
5m立方体の透明なオブジェが空中に出現する。サットはオペレーターモードに入る。
「素材分子充填。分子プリンティング開始...終了。精密形成開始...終了。魔導回路プリンティング開始...終了。強化コーティング開始...終了。」
僅か10分弱で装備が出来上がってしまった。プル専用カスタムで、攻防一体型の「銃盾」が恐らくこの世界初で誕生した瞬間だ。俺の親友愛でたぎる高機能防御付きだ。
マニの方は、後で工房内で打合せしながら作ろう。本人の希望と目的がわからないとね。試験も含めて、結局トータルで30分位で仕上がってしまった。
家に戻ると、プルは案の定で饅頭をがっついて茶をすすっていた。(笑)
「プル、ちょっと来てみ?」
「にゃ、にゃに用かにゃ?」
おずおずと近付いてくる。正しい判断だ。今でもゴリゴリペンペンしたくてウズウズしてるんだが。(笑)
彼女の両手にズボッと武器を装着させた。一瞬の沈黙の後、プルの目がウルウルし出す。
「も、もしかして本当に作ってくれたのかにゃあ...うっ。」
あはは、こいつ鼻水が垂れてるよ。何か感動させてしまった。
「手を差し込んだ所に、銃のグリップとトリガーがあるだろう?」
「にゃあ!握ったまま戦うんだにゃあ!しかも両手にゃあ!」
「プル、良かったわね。さっき本当に今日中に出来るのか?って言ってたものねー。」
「そ、それは普通そう思うにゃ。こんなに大層なものがすぐに出来るとは思わにゃいにゃ。」
「軽量化と硬度強化、反動抑制、超電磁加速、しかもモードチェンジ仕様と来たもんだ!胸熱だろう?」
「モードチェンジって何にゃ?」
「いいからマナシールドチェンジって言ってみてよ。」
プルが銃にそう命令すると、ナビゲーター発動。
「オーナー登録完了。マナシールド発動。」
プルの全身を、3倍位の大きさのエネルギーフィールドが覆った。プルは仰天している。
「こっこれは防御フィールドかにゃ?何か凄い性能にゃあ!」
「ああ、君の余剰ぎみなマナを防御につぎ込んだのさ。そのフィールドは一定のダメージを吸収する効果がある。盾の守備範囲外から攻められても、怪我をしにくいということさ。」
「明日早速練習してみるにゃ!マサ、感謝溢れるのにゃ!」
「満足してもらえるか分からんけど、役立つように造ったつもりだからな。お前、強くなるぞう。(笑)」
「う、うん。素敵すぎだにゃ...ウウッ。」
また感動して泣いちゃった。マニが珍しくハグして慰めている。ライエも背中をさすっているのがシュールだな。
他の使い方は、一通り説明した。この武器の欠点は大量のドラムマガジンをリロードする時間がかかると言うことだ。
ただプルなら、走り回ってどこかに隠れて行うという方法もあるかもしれない。最悪逃げればいいだけだし。
とりあえずクラフターとしては納得の仕上がりだと思う。後は使ってみて問題点の洗い出しだな。
「マニのやつは、打合せしながら後で作る予定だよ。都合が良いときに付き合ってもらえるかな?」
「あなた、ありがとう!後で宜しくね。」
マニは嬉しそうに頷いた。プルは早速教練場に試射しに行った。これで家族水入らずになった。
「ライエ、夕飯は何が食べたい?」
「んー、今朝の水餃子を食べたいの。」
「よし。マニ、出汁入りのスープを作ってもらえるかな?」
「分かったわ。材料はどうしようかしら。」
「ここに。この粉末を熱湯に溶かして、塩を入れれば完成だよ。」
「餃子の中にたっぷり具が入っているから、他が要らないのが良いわよねこれ。」
「ライエ、このスープが大好き。」
結構二人とも気に入ってくれてるみたいだ。クラフトメニューにも加わったので、瞬時に生餃子が出せる。
3人分の餃子を出したら、マニがフッと思い出したように提案してきた。
「...もしかすると先生がまた来たがっているのかも。マサ、もう一人分餃子をお願い。」
「うん、何か俺もそんな気がしてきたね。了解。」
俺は庭に出ると、急遽考案したマナ動力式コンロ、蓋付き硬化セラミックの中華鍋、油入りの瓶も作った。これで焼き餃子が出来る。
中華鍋を加熱して油を薄く伸ばし、餃子を並べて置いて焼く。ライエが珍しそうに横から見ている。
「お兄ちゃん、これ何作ってるの?」
「んー良い匂い!マサ、何作ってるの?」
「焼き餃子っていうのさ。うまいぞう。」
マニはキッチンに戻っていく。多分匂いに釣られただけだろう。ライエに小皿と大皿を持って来させる。
中華鍋に餃子が浸るくらいに水を入れて、すぐに蓋を閉じる。中でジュウジュウ音をたてて、餃子が蒸し焼きになっている。
その間に、ライエに秘伝のタレを教える。小皿の中に豆板醤&甜麺醤風の調味料+お酢を入れ、よく混ぜる。中華風味噌ダレの完成だ。
ちょっと指先につけて舐めた彼女は、刺激的な味を楽しんでいるようだ。
「...何か甘辛酸っぱい。でもこれ好き。」
マニが奥から水餃子を持ってきた。器に盛り付けている。小皿のタレをライエと同じく指先につけて味見した彼女は、結構気に入った様だ。
「何とも言えない風味と刺激ね!美味しいわ。」
丁度焼き餃子も仕上がったようだ。中華鍋からフライパン返しで剥がして、大皿に盛り付けた。
丁度、通り向こうからアズ様がこちらへ向かってくるのが見えた。結局マニがわざわざ呼んだらしい。
「お邪魔します。家族水入らずを、申し訳ないです。」
「いえいえ、アズ様がお気に召したら、こちらはそれで満足ですよ。」
アズ様は気を効かせてくれて、市場から果実水を買ってきてくれた。酸味の効いたさっぱりめの味わいで、村の特産らしい。何処で栽培しているのやら。
「あー、わざわざすみません。どうぞこちらにお座りください。」
マニの隣に席を勧めた。プルはさっき饅頭をがっついてたので、来ないようだ。(笑)
四人で少し早い夕食を食べた。焼き餃子は絶品で、パリッとした羽の食感とタレが大人気だった。多分皆で100個位はたいらげたのではないか?
「んー、美味しい!マサさんの料理を、都でも流行らせたいわ。こんな料理が食べられるなら、毎日が幸せよ!」
「あはは、そこまで気に入ってもらえるなら、作り甲斐がありますな。」
「...ライエ、お腹がポンポンなの...。」
満足そうに、うつらうつらし始めたので寝室へ連れて行き寝かせた。いい顔して寝てるなあ。
テーブルに戻ると、二人は俺達の馴れ初めについて話していた。マデュレを治療した話で、アズ様は初めて俺が分子遺伝学クラフトを使えると知ったらしい。
果実水を飲みながら、アズ様の質問コーナーになった。
「...しかし、貴方の事を技師だとばかり思ってました。本職はお医者様なんですね。」
「いやー、そこは例の秘伝というかでしてね。全ては共通のカテゴリーなんですよ。ですから、医療もクラフトも両方得意なのです。」
「先生、ごめんなさい。私もマサの技術については、本当に片鱗くらいしか理解できないのです。」
マニは申し訳なさそうにアズ様に謝罪した。
「私の一番優秀な教え子が、技術的な理論を理解できないレベルと言うことね。どれだけ高度なのかしら...」
うーん、ある程度説明して理解できるだろうか...サットも何も言ってこないし、少し位説明してもいいかな。
「アズ様、火が何故燃えるのか、魔法理論では解明されていますか?」
「...そう言われてみると、そんな発想自体がこの世界にはないですね。確かに、火とは何かと聞かれると、答えようがないわ。」
「その仕組み自体を解明して、技術応用する学問だと思って貰えれば。我々の次元では「科学」と呼ばれていました。恐らく魔導研究とかがそれに当たるかと。」
「魔法って、呪文自体の文言にもあるように、この世界の何処かから物理現象自体を召喚するのよ。だから、最後は~は召喚された。で、終わるのよね。」
マニが得意そうに説明している。アズ様も軽く頷いている。
「ですから、火の燃える原理を研究しなくても成り立つ訳です。どんなイメージの現象を召喚してくるか、という明確なビジョンがあれば良いわけです。呪文自体は、そのイメージを記憶から引き出すためのきっかけに過ぎないのよ。だから、詠唱短縮が成り立つ訳です。」
「それでは、この次元の中で発生している物理現象しか召喚できないのですね?例えば、異世界の物理現象とかは不可能ですよね?」
「うーん、それがそうでもなくてね。言い伝えでは始祖様が、自分のいた異次元のものを召喚できる人だって...」
「先生、初耳ですよそれ。それじゃあマサの世界の現象も召喚できると言うことですか?」
「そうね、理論上はそうなるわね。」
「俺の世界はそもそもこの世界とそんなに変わってないから、召喚できても大した違いはないかな。」
マニが何か言いたそうな顔をしている。でもアズ様がいるし放置。
「そう言えば、都の手配の方は済んだのですか?100人位とか言われてましたよね。」
怪しくなりそうな話題なので切り変えた。戦闘員の確保は、課題のひとつだ。現地に赴く人員の他に、村を守護する方も何割か残しておかないと。
「ええ、そちらは御心配なく。ナルキス以外は1週間位で到着しますわ。」
「先生、ナルは来られないのですか?」
マニが心配そうに尋ねる。
「あの子ね、3日前から姿が見えないそうなのよ。おかしいわね、確か学園の仕事を任せておいたはずなのに...」
「ナルのサボリ癖は昔からですわ。どうせその辺りで油を売っているんでしょう。」
3日も油売ってたら、そっちが本職なのでは?と思ってしまった。色々自由過ぎだろ、アズ様の従者。(笑)
「でもそうすると、フェロモンは使えないということですね。これは計画を遅らせるか、別の方法を考えないとだね。」
「いえ、そうでもないわ。」
「何とかなりますよ。」
アズ様とマニが同時に答えた。
「ナルキスは、あまり真面目にメッセージに返信しないのですが、ちゃんと聞いてますから。私がこちらに出掛ける前に、久し振りにマニに会いに行くと入れておきましたので。」
つまり、戦闘員より先に着くかもってことか。こりゃあまた、饅頭を作っておかないとなあ。(笑)
「そういう事ですか。では、おもてなしの準備をしなければ。」
「マサ、あの子の事は放っておいて良いわよ。プル以上にマイペースな所があると言うか、よく分からない性格なのよ。」
「ええ...」
アズ様が困った顔をして説明してくれた。
「ええと、好みがはっきりしている上に無口なので考えていることが良く解らないのよ。プルみたいに慇懃無礼ではないのだけど。」
あはは、ついぞ聞かない言葉で批判されてるぞ親友よ。あいつ、遠慮という言葉を知らない女だからなあ。
「分かりました。では、それを信じて待ちましょう。案外プルに聞けば、予定を言い当てられるかも。」
二人とも、大きく頷く。アズ様が話題を戻しにかかった。
「さっきの話だと、医療班はマサさんに任せれば何とかなると言うことね?後発で医療班を呼び寄せようかと思っていたけど、必要無くなったかしら?」
「お任せください。どの医療技術にも負けない自信があります。」
「そうですよ、マサに丸投げで解決ですわ。」
「丸投げって...」
二人とも笑っていた。からかわれたか。
「さて、美味しいご馳走をありがとう。もう帰りますね。」
アズ様は席を立った。俺たちは通りまで見送ることにした。
「アズ様、明日の早いうちに銃座の件でメッセージを入れます。」
「そうそう、お待ちしてますわ。」
プイッと振り向き様に後ろ手を降りながら、アズ様は歩き去った。マニが肩に手をおいて、フィジカルコンタクトしてきた。
「あなた、前の次元で太陽が建物をなぎ倒す映像を観たけど、あれを召喚できないの?」
「ん?どんな映像だって?」
「んー、うちの村のドームみたいな建物の上に空から楕円形の塊を落とす所から始まって、いきなり空が太陽みたいに光って、巨大な傘みたいな雲が...」
「...おいサット、どういうつもりだよ?」
「ん?ああ、核爆発かな。何がまずいのか言ってみなさい。」
「えーと、過去の遺物をあまりマニには見せたくないって言ったろう?」
「その理由は?」
「俺達の次元の毒を、この次元で広めても良いと?」
「我々がこの次元に来て判ったことは、人間自体が貴重で、殺し合いなんて起こり得ないということさ。誰もがそれが無益だと理解している。純粋に競い合いたいという欲求はあるみたいだけどね。」
「義父様、殺し合いって何でしょう?」
あー、マニよ、そこからなのか? ああ、この次元が高い波動というのも、こう言う所なのか?人間同士で減らし合いする文化がない、そう言う類友の世界と言うことか。
「マニ、良くお聞き。マサの居た次元はね、人間同士がお互いを殺戮し合っていたんだよ。人間が人間を善と思わず、憎み、自分の利益の為だけに、この世界の虫のようにお互い殺し合ったのだ。」
マニの顔が驚愕の表情になった。意味を知り、そして恐ろしくて震える。
「何故?どうしてそんな意味のないことをするの?私たちは虫に脅かされながら皆で一生懸命生きているのに!それを何故...」
マニが泣いている。俺はマニを抱き締め、背中をポンポンと優しく叩いた。
「...この世界にどれくらいの人間がいるか分からないけど、俺達の世界だった場所は都の30万倍位の人口が居たんだよ。そしてこっちで言う地域という単位を「国」とし、その国同士で資源の奪い合いをやっていたのさ。」
「何故、奪い合うの?自分の村は自分で何とかするのが常識じゃない!」
マニは憤慨した。そりゃ当然だよな。
「マニや、詳しい話は物凄く長い話になる。前次元の歴史と関係する話だからね。1晩や2晩では終わらなくなる。とにかく、複雑な事情や不健全な精神状態から、お互いに殺し合ったのさ。」
話が収拾つかなくなりそうだったので、サットが途中介入した。
「俺が言っていた毒って言うのは、そう言う話なんだ。よく分からないかもしれないけど、本当に無意味に害され、死んで行く世界だったのさ。」
やはり、この次元は高波動なんだなあ。俺はしみじみ思った。
「さっきの太陽はね、本当にあの空の太陽を地上に人工的に作り出した武器なんだ。あの光を浴びた人間は水飴の様に溶け、壁のシミになり、黒焦げになり、のたうち回って死んだのさ。あの一瞬で数万人が、その後の太陽の光の毒で、更に十数万人が死んだんだ。」
マニはしゃがみ込み、頭を抱えながら小さく震えた。そんな物とは、想像つかなかったのだろう。
「俺が君に見せたくない理由、解って貰えたかな?前次元の歴史は、人類同士の殺戮の歴史なんだ。」
俺はマニを支えながら、二人でベンチに腰を下ろした。砂漠の夜風が、涼やかに優しく皮膚を撫でていく。マニの額にキスをすると、目を合わせて可愛い目から滴る涙を指で拭いた。
「俺はさ、この世界やマニに出会って本当に嬉しかったんだ。こんなに虫が居るのに、こんなに人が苦労しているのに、それでも全然幸せな世界に来られた事を、神に感謝しているのさ。」
「...私もよ。あなたに会わなければ、結婚なんて考えられなかったわ。」
「俺はお前とこの世界を、前のようにしたくないんだよ。銃も、あれで元の性能より大分劣った造りをしてるんだよ。ましてや、あの太陽の光は終わった後に沢山人が死ぬんだ。その子孫までもね。そんなもの、召喚できない。」
「まだよく理解できないけど、あなたがあの世界を生き延びて私と出会ってくれた事を、神様に感謝しなければね。今後は、他人には前次元の話を出来る限り封印しないと。」
サットは黙っていたが、マニの決意を聞いてまとめてくれた。
「あれを見て、ああならない様に生きればいいのさ。毒も使いようで薬になる。また気が向いたら、いくらでも映像を見せるから。」
マニは最後に一言呟いた。
「恐いし疲れるから、あと100年位は観なくて良いわ。」
だよなあ、俺も見たくないな。ここまで来て、何がどうなってこんなことを考えさせられるのか。
ああ、こう言うのも修行なのかもなあ。これからやることも、それなりに前次元のテクノロジーを使う訳だし。気を引き締めろと言う事かな?




