★好きすぎるから
釣りというのは、存外楽しいものだ。
なにせ、一匹の魚を釣り上げるのにもそれなりの時間がかかる。
魚が針にかかるまでの間中、リリンと肩を寄せ合っていられるというのは、なんと素晴らしい事か。
船の側面から糸を垂らしながら、私はすこぶる気分が良い。
少々残念に思うのは、リリンは釣りを始めて暫く経って魚が釣れはじめた頃から通常モードに戻ってしまった事か。
私の事を異様に意識して、挙動不審になってる姿も愛らしかったのに。
残念だ。
本当に、非常に、とてつもなく、死ぬほど、残念だ。
少し離れた場所では、イカ下足君たちが和やかにおしゃべりに興じながら、私達と同じように海に糸を垂れている。
会話の内容は聞こえないものの、あちらもあちらで随分と楽しそうだ。
「お、きたきたきた~!」
リリンが喜びの声を上げて立ち上がりながら、リールをクルクル巻き上げ始めた。
その嬉し気な表情が眩しすぎる。
「釣れた~!!!」
――リリンの笑顔が眩しすぎて、直視できないな。
私の嫁(予定)が可愛すぎて、心なしか彼女が笑うたびに星まで飛び散って見える始末。
私は、一体どれだけ彼女の事が好きなのだろう?
我が事ながら、少し呆れてしまう。
最初はリリンの笑顔が尊すぎたのかと思ったが、少ししてからそれが間違いだった事に気が付く。
なぜなら、何の気なしに視線を向けたイカ下足君たちが次々に光りだしたせいだ。
イカ下足君たちには、好感を持っているが尊くは感じないし、なにより離れたところにいる彼等が光って見えるのはおかしすぎる。
「なんだか、イカ下足君も光っている気がする……。」
「そういう仕様なんじゃない?」
そこで、思わず呟いた言葉に返ってきたのがリリンのそんな言葉で、その台詞に初めて自分の勘違いに気が付いたという次第。
――魚が釣れると、釣れた魚が光るのか。
ゲームだから。
なんというか、ゲームのエフェクトを、彼女が可愛らしすぎて光り輝いているように見えるのだと勘違いしていた事が分かり、その事が恥ずかしすぎて思わず両手で顔を覆ってしまう。
リリンの笑顔が光っていたのではなく、釣れる度に、彼女が顔の近くで揺れる魚を見せてくれていたからそう見えたと、そういう話か。
「アル?」
私の行動を不審に思ったらしいリリンが、隣にしゃがみこむ気配がする。
「良く分かんないけど……。ドンマイ?」
フワリと、頭の上に手が載せられた感触。
その手が優しく何度か、頭の上を滑る。
理由が分からないなりに、リリンは私の事を慰めようとしてくれているらしい。
その事に、なんだか胸がキュッとつかまれたような、暖かいものが胸の中に広がっていくような、そんな妙な感覚に襲われた。
――なんというか、これは……、嬉しい、のか?
妹の頭を撫でた事はある。
だが、自分がそうされた事は今までなかったように思う。
産まれてすぐに両親から引き離して私の事を育てた祖父に、このような事をされた記憶はない。
両親と会えたのは祖父が死んだ後の事で、その頃には既に私は十八歳。
成人している子供の頭を撫でるような事を彼等はしなかったから、なんとも悲しい事に、私にとって『撫でられる』というのは初めての経験だ。
撫でられるというのが、こんなにくすぐったくて照れ臭い気持ちにさせられるものだとは今まで知らなかった。
だが……うん、悪くない。
顔を覆っていた手を少しずらして、リリンの事を覗き見てみる。
慈愛に満ちた表情で私の頭を撫でている女神が居た。
「――妙な勘違いをしていたことに気が付いて、なんだか恥ずかしくなってしまったのだ……。」
「勘違い??」
心配してくれている彼女に、私が挙動不審になった原因を話さないのは申し訳ない気がして、魚が釣れた時のエフェクトを勘違いしていたのだと白状すると、リリンは一瞬キョトンとした後、ケラケラと笑いだす。
どうやら、彼女の笑いのツボにハマったらしい。
私はリリンが大爆笑してる姿を眺めながら、やはり、ゲームのエフェクトを勘違いしただけではないのではないかとひっそり思う。
――涙が出る程笑っている姿も、やはり可愛らしすぎると思うのだが……。
結局、私はりりんの事が好きすぎるのがすべての原因のような気がする。




