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死に戻りの異世界で魔物に殺され続けて得た知識が、現代ダンジョン攻略の鍵になることを、僕を裏切った彼らは知らない  作者: のら


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第五話

「……分かった。騎士団長をここにお連れして」


 ユリシアは少し驚いたように目を丸くして僕を見た。


「かしこまりました」


 マルクがリオネを迎えにいくと、ユリシアは困ったように話しかけてきた。


「あ、あの、レン様……?」


「……君にもいてほしいんだ。一人だと少し心細い」


 本音が漏れた。

 自分で言っていて情けないなとちょっと思ったが、ユリシアはなぜか少し微笑んでいた。

 しばらくすると、廊下に足音が二つ、こちらに近づいてくるのが分かった。


「リオネ様をお連れ致しました」


 そう短く告げるとマルクは一礼して、すぐにその場を離れる。


「殿下。聖女ユリシア様とご歓談中のところ、大変申し訳ありません」


 長い黒髪を一本で丁寧にまとめ、金の縁取りが施された深緑の詰襟に白のパンツ。

 王室儀礼の際に着用される正装姿の女性は、僕たちの前で深く頭を下げた。


「第四騎士団長、リオネ・グランハルトです。三日後のサウスベルク砦奪還作戦において、殿下の護衛を拝命いたしました」


 そして、リオネは頭を下げたまま、続ける。 


「聖女ユリシア様もいらっしゃるとは知らず、申し訳ありません。手短に済ませます」


「ご苦労様です、リオネ騎士団長。私のことは気にせず、どうぞ」


 ユリシアは小さく微笑んだ。

 リオネは僕たちの円卓の傍まで歩み寄ると、数枚の資料を卓上に広げた。


「昨日の奪還作戦会議において、国王陛下のご意向により、殿下のご出征には我々、第四騎士団が帯同することが正式に決まりました」


 そこで一度、リオネは僕へと視線を向けた。


「作戦終了まで、殿下の護衛は第四騎士団が担当いたします。以後、殿下の身柄は我々がお預かりする形になります」


 ユリシアの表情が、明らかに少し曇った。


「殿下。率直に申し上げます」


 リオネは声の調子を少しだけ和らげた。


「実際に攻撃を担うのは第二騎士団です。殿下に前線へ出ていただく予定はありません。我々、第四騎士団は後方支援と護衛に徹します」


 そして、安心させるように言葉を続ける。


「こちらの指示に従っていただければ、危険は最小限に抑えられます。どうかご安心ください」


 その言葉に、ユリシアはわずかに安堵したように見えた。


 一方の僕は、少し複雑な心境だった。もちろん、無事に帰ることがログの示した帰還条件だ。だから、リオネの言う通り、死なずに帰れることは絶対条件だった。

 だが、本当に今、リオネが言った通りになるのだろうか。


「僕」は三日後に死んでいる。死んでいるからこそ、僕がここにいる。

 つまり、後方支援に回り、リオネに守られてなお、何か事件が起きた。

 その理由を見つけなければ、また予定通り、僕は死ぬ可能性の方が高い。


「では、私はこれで失礼――」


「あ、ちょっと待って」


 僕はリオネを引き留めた。

「僕」の記憶では、リオネは挨拶だけをして去り、詳細な作戦説明は全くなかった。

 『二回目』の今回は、人任せにはできない。

 ただ待っているだけでは、また僕は死ぬ。そう考えた。


「作戦の詳細を僕にも教えてくれないか? 何も知らずに守られているだけでは嫌なんだ」


 リオネは驚いたように、少しだけ目を見開いた。


「もちろんです、殿下。少々、長くなりますがよろしいですか」


 僕は頷き、マルクに彼女の為の椅子を用意させた。


 広げられた地図には王都からサウスベルクまでの道のり、砦の構造図などが描かれていた。そして、第二騎士団の進軍ルート、リオネの騎士団の支援対応の手順など、僕は、こと細かく説明を受けた。


「そして、これが砦を占拠している、ブラックホーンウルフと呼ばれる魔物です」


 差し出された魔物を絵を見て、僕は固まった。震える手で、その絵を掴む。


「……殿下?」


 リオネの声は、僕の耳には届かなかった。


 ブラックホーンウルフ。

 それは元の世界のダンジョンで突然現れた新種で、まさに僕を殺した魔物だった。


「生き延びた警備隊と、偵察部隊の証言によると、砦には三体の魔物が占拠しています。確かに手強い相手ではありますが、第二騎士団の戦力であれば、問題ありません」


 リオネの言葉に僕は何も言えず、ただ目を見開いて、彼女の顔を見た。


 違う。


 僕の中の「僕」の記憶が鮮明に蘇った。

 あの日、サウスベルクにいたのは、三体じゃない。


 ブラックホーンウルフはもう一体いた。


 その四体目が、第四騎士団の隊列を崩し、驚いた僕の馬が隊列を少し離れてしまった。

 馬を落ち着かせようと操作していた僕の視線に黒い物体が視界に入った瞬間、また槍のような尻尾で腹を突かれて死んだ。


 元の世界で腹を突き破られた時の感触が蘇り、僕は無意識に手を当てていた。


 魔物が増えていた、あるいは見逃していたことによる事前情報の誤りが僕の死ぬ遠因になっているはずだ。つまり、その情報の修正ができれば、未来は変えられるはず。


 でも、なんて言えばいい?


「実は僕は一度死んで、死に戻ってるから知ってる」なんて言えない。そんなことを言おうものなら、気が触れてると思われて、余計に話をこじらせるだけだ。

 僕一人で、あの魔物に立ち向かうのは無理だ。無理である以上、彼女に頼らざるを得ない。全部を信じてくれなくてもいい。せめて、襲撃の瞬間に備えてくれれば、勝ち筋は見えてくるはずなんだ。


 どうする、どうしたらいい。


「殿下、そう心配なされなくとも、私たちがお守りいたしますのでご安心を」


 そうじゃない。そうじゃないんだ。

 リオネは、僕が眉間に皺を寄せ、考え込む姿を必要以上に不安になっていると勘違いしているのだろう。だが、その誤解を解く方法を僕はまだ知らない。


「リオネ。ひとつお願いがあるんだ」


「はい、なんなりと」


「この魔物は群れで動くと書いてある。三体のみを群れと呼ぶには少ない気がするんだ。もう一度、砦周辺に隠れていたり、僕たちが気づいていない個体がいないかを確認することはできないだろうか」


 こんな言い方しか、警戒させる方法を思いつかなかった。

 リオネは表情を変えることはなかったが、口を開くのに一瞬、間があった。


「残念ながら、私の一存で決定できることではありません。ですが、今夜の騎士団会議の場に、必ず、殿下のご意見を届けることをお約束する、ということでよろしいでしょうか」


 僕は頷くしかなかった。彼女の言っていることは正しい。そして、彼女の言葉は、立場が上の人間に対して、もっとも適切だった。

 適切すぎて、僕がこれ以上、食い下がる術は奪われてしまっていた。


 リオネは立ち上がり、一礼すると来た時と同じように、颯爽と部屋を去っていった。


「レン様の不安は分かります。でも、前線にお出になられないだけでも、私は少しほっとしています」


 ユリシアは握った掌を少し強く結んでいた。


 その報せが届いたのは、ユリシアとの夕食を済ませ、彼女を馬車で送った後だった。

 騎士団の使者と名乗る若者は、僕の屋敷まで訪れ、伝達の書かれた紙を仰々しく開いて読み始めた。


『懸念された件については、既に偵察部隊による念入りな調査が行われている事から、騎士団としては再調査の必要性はないものと判断いたしました。本決定は国王陛下のご採択を得て、通知しております。なにとぞご理解のほどを』


 使者は読み終えると、一礼し、すこし気まずそうな顔をしながら逃げるように去っていった。


「……まぁ、そうなるよね。分かってた」


 僕の声は王都の暗闇に静かに溶けて消えた。


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