5話
シグルドになってしまったルールーは、内心絶叫したい気持ちでいっぱいだった。
(訳分からない!一体何が起きているの!?)
死んだと思ったら、7年前に戻っていた。
そして、もう1人の自分がいて、自分は宿敵の姿になっていた。
(今動いている私の中にいるのって、シグルド・ルーキスってことよね。入れ替わりってこと?)
抱きついているルールーの姿のシグルドを見下ろす。
「あの、シグルド…様?ですよね」
「あ、俺のこと知ってたんだ」
「何で私たち入れ替わってるんですか?そして、何をやっているんですか。私たちが付き合っているなんて…」
「しー」
シグルドになったルールーの唇に人差し指を当ててくる。
「ひとまず話を合わせてよ。俺たちがラブラブだって分かったら、あいつらも退散するでしょ」
顎で示す先には、状況が飲み込めていないネルトとリコの姿があった。
「いきなり出てきて何の用だ!行きましょう、ルールー様!」
ネルトはルールーの手を引っ張る。
「やめてください」
シグルドはその手を払った。
「いきなりやってきたのはそちらでしょう。私と殿下は愛を誓い合った仲ですのに」
ね、と蕩けるような笑みを浮かべる。
自分にこんな色っぽい表情ができるポテンシャルがあると思わなかった。
「ああ。俺はルールーを愛しているよ」
ルールーは男らしくかっこつけるのを意識して低い声を出しながら、肩を抱き寄せた。
「やるじゃん」
シグルドは小声でささやいた。
頭が混乱しているこの状況で、すぐに解決できそうなのは、リコとネルトのことだった。
もう関わりたくないと思っている彼らと離れるために、恋人がいるフリはルールーも最適だと思った。
「私、ルールーの知り合いで会ったことないんだけど、どちら様ですか?それに、今殿下って…」
「シグルド!」
リコが言いかけると、上から声がした。
橋から身を乗り出して、見下ろしている。
「そんなところにいたのか。そこで待ってろ!」
そう言うと、青年はショートカットで土手をズザザっと降りてくる。
ルールーの目の前に立つ。
シグルドの身体より背が高く、騎士然とした衣服をまとっていた。
顔は強面ではあるが、造形は整っていた。
鋭い目つきは、ルールーに向かっていた。
(何でシグルド・ルーキスの知り合いっぽい人が私を見てくるんだろ)
「パーティーを抜け出して、こんな人目のつかないところで何をやっていたんだ、シグルド!」
「あ、今私のことか」
そうは言っても、シグルドがやっていたことに責任なんて持ちたくない。
しかし、入れ替わりなんて不可思議現象なんて言っても信じないだろう。
自分も今だって信じられない。
「やあ、アリソン」
シグルドは、そんなルールーの内心に気づかずに、話しかける。
「だ、誰…」
「シグルド殿下の婚約者のルールーじゃない」
きゃぴっと言った。
そう言うと、アリソンは顔をしかめ、眉間にしわを寄せた。
「お前、まさか…」
視線をシグルドからルールーに移す。
ルールーはどんな反応をしたら分からず、苦笑いするしかない。
アリソンは大きなため息をついた。
「また、人が増えた。一体どうなっているんだよ」
ネルトは何も分からず、嘆くことしかできない。
「殿下にシグルドって。あなた様はやはり隣国ルーキスの、シグルド・ルーキス殿下ですか」
「は?あの呪われ王子か?」
失礼な口を聞いたネルトにリコが肘で小突く。
「隣国にまで呪いの話広まっているんだ。やばいな」
「笑い事じゃない。何も知らない外国なら婚約者見つかると思ったのに」
「だから、見つかったじゃん。わ・た・し」
シグルドは腕を抱き寄せる。
「それでそちらの2人はどんな関係なんだ」
「女の子は友達っぽいけど…」
「そいつは口説いてきたところを逃げてきたんだよ」
本当はリコからも逃げてきたが、この場で何も知らない人に説明するのは時間がかかる。
「いえ!殿下の婚約者様に口説くなど、そんな不敬なこと致しません!」
な、と慌てながら、リコに目配せして答える。
リコは渋々ながらもうなずく。
本当はネルトとルールーを付き合わせたかったが、真偽はともかく、間に外国の王族が関わる以上、作戦続行は不可能だと判断したのだろう。
「確かさっきいとこだと言ってたわね」
「ええ。こっちにいるから、一度ルールーと会わせたかったの」
取り繕った笑みを浮かべた。
「私たちと同じ宿に泊まるらしいから…」
「2人ともびしょぬれじゃないか!どうしたんだ」
アリソンがリコを遮る。
「さっき足を滑らしてしまったの。そこをシグルド殿下が助けてくださって。あの男らしい腕に惚れ直してしまったわ」
「そうか、そのときに…」
アリソンは頭を抱えた。
「ならば、早く体を温めないと。ルールー様も我々と同じ宿に向かいましょう」
「え、でも…」
「そうだな。愛するルールーとともにいないと。彼女も王族の関係者なんだから、しっかりと護衛のいるところにいないとな」
リコたちといたくないルールーは全力で乗っかった。
それに、ルールーの中のシグルドから目を離したくはない。
「だから、この場は解散にしたい。構わないか?」
「…ええ。またね、ルールー」
リコはネルトを引き連れて戻っていった。




