1話
馬車がパーティー会場である屋敷に着く。
ルールーとリコは馬車から降りる。
馬車は次の客を探して、去っていく。
「着いてしまった…」
ルールーはげんなりと落ち込みながら、屋敷を見上げる。
「もうせっかくのパーティーなのに、そんな顔しないの」
リコは、ぷんぷんとあざとく頬を膨らませる。
「ここ、ドレスやメイクできる控え室もあるんですって。馬車で数時間いたから、過ごしやすいワンピースだし、メイクも落ちてるでしょ。ここで会う旦那様のために着飾っちゃいましょ」
流されるまま、ルールーはリコに連れてかれる。
控え室にはメイクしてくれるスタッフがおり、彼女らに任せる。
その間、今起きていることを考える。
(さっきまで、リコとネルトに裏切られて、家を出たところだったよね。何で何事もなかったように、パーティー行っているの?)
スタッフは手際よく、進めていく。
(リコにとっては起きてないことなんだろうな。今までの長い夢、もしかしたら予知夢だったのかな。それとも、意識だけが過去に戻ったの?何で?)
メイクで変わってはいくけれど、鏡に映る自分は、若々しい顔であった。
「ルールー、綺麗になったわね」
メイクは終わり、隣に座っていたリコが微笑みかける。
前にこの場にいたときは変わっていく様に感動を覚えたが、今のルールーには考えることが多すぎた。
(ついメイクまでしちゃったけど、このパーティー出なくてもよかったんじゃ。だって、ネルトと初めて会ったのこのパーティーだったし。今さら浮気男と結婚する気なんてさらさらないし)
それでも、メイクしてもらった手前、このまま去る訳にもいかず、ドレスの着替えもしてもらう。
髪型もアレンジし、リコから借りたジュエリーも身につける。
「では、行きましょ」
準備を終え、会場の大広間に入る。
辺境の港町にも関わらず、多くの人がいるのは変わらない。
リコは会場に入るやいなや、婚約者探しに男性に話しかける。
一方ルールーは、恋愛ごとに興味はなく、会場の料理に舌鼓を打っていた。
港町なので海鮮料理が多く、この町しかない郷土料理の美味しさに感動していた。
またここの料理を食べたいところではあったが。
「やっぱり、帰るか」
前はリコに放置されて、一人寂しく食べているところを声かけられたのだった。
たまたま姿が目に入っただけだ。
裏切られる前は、可愛くて自慢の親友だったリコに最初に気づけば、浮気だなんて起きようがない。
広間を出て、玄関に向かう廊下を歩いていく。
前はパーティーの後しばらくこの町に滞在していた。
だから、この近くに酒場があることを覚えていた。
そこで食べればいいだろう。
「もう、ルールー」
後ろから声をかけられる。
「げっ」
嫌々ながらも振り返る。
「何で始まって早々帰っちゃうのよ」
そこには、リコがいた。
「ちょっと空気合わなくて」
(前はパーティー終わるまで、私の放りっぱなしだったじゃん。私もあのクズと話すのに、夢中だったけど。何でこのタイミングで気づくかな)
「学校のパーティーでもろくに出てなかったじゃない。卒業したら、他人と関わる機会なんて、パーティー行くくらいしかないんだから」
そう言って、ルールーを広間に引っ張っていく。
「ちょっと強いって」
「ったく、あいつ来るの遅いのよ」
リコがぼそりと無意識につぶやく。
その声は、ルールーにも聞こえていた。
「あいつって…」
「やっと着いた!」
嫌な声が聞こえてきた。
「あ、もう来てたんだ」
そう言って、足音が近づいてくる。
(このパーティーで知り合いでもいたのかな。まあ、この場には私だけじゃなく、リコもいるんだ。リコと比べられるのは慣れてる。非常に癪ではあるけれども、浮気相手に選ぶくらいだから、私じゃなくて、リコに魅力を感じるはず。その隙に抜け出せばいいか)
すぐそばにやってきた。
ここまで来て、見ようとしないのは不自然だと、渋々ながらも振り返る。
そこにいたのは、未来で夫だった男、ネルト。
やはり、出会ったときの若い姿だった。
何の感慨も湧かない。
むしろ、未来での苛立ちがぶり返してきた。
今のネルトは何も知らないのに、一発殴ってやりたくなる。
予想通り、一瞬ルールーを見たが、すぐにリコへと視線を移す。
「それで俺はどうすればいい?」
(は?)
初対面のはずなのに、顔見知りかのように話しかけてくる。
(ネルトもまさか記憶ある訳じゃないよね)
仮にそうだとしても、この受け答えはおかしい。
「ちっ」
リコが大きく舌打ちする。
バレる前まで、ルールーの前でリコがこんな態度を示すことはなかった。
リコは不機嫌そうに、ルールーを顎で示す。
ネルトは、はっと気づく。
「まさかこんなところで美しい人に会えるとは」
「は?」
内心で隠していた怪訝な声が漏れ出てしまった。
前のとき、食べているところに『美味しそうに食べているところが可愛い』と自然な流れではあった。
そして、声をかけられたのが初めてで浮かれてしまったのが、一生の不覚である。
でも、隣にもっと綺麗なリコがいるのに、わざわざルールーに声をかけるのは不自然だ。
薄々もしかしてとは感じてはいた。
(こいつら最初からグルかよ)




